ポッドキャストの吉田豪氏の談話、そしてアイドル戦国時代の考え方 | 寒い季節は暖かくしなきゃね
TBSラジオ・ポッドキャスト「小島慶子 キラ☆キラ」の2012年2月16日(木)配信分のゲストは、プロ書評家の吉田豪さん。数多くのアイドルインタビューで有名な吉田氏を招き、最新インタビューから見る「今のモーニング娘。」が語られています。

司会進行役である小島さんは、現在のモー娘。が9期~10期とメンバー変遷があることをよく分かっておらず、中国人メンバーが在席していたことも知らない……いわゆる一般人。ただかつての大ブームの頃は、いち芸能関係者としても、よくご存知のようで「あの眉毛の太かった新垣里沙さんが今はリーダー?」と驚いている様子。

そんなごく普通の「モーニング娘。像」と、吉田氏の知る「今の娘。の実態」の対比によって、話が進められていきます。

特に、9期・10期のバイタリティを中心とした話題は、この1年のモーニング娘。のメンバー大改革として頷ける話題であり、かつての娘。を知ってる人であれば、興味を持って聞き入れるトークでしょう。ただし、吉田さん特有の客観的立ち位置と、小島さんの門外漢っぷりによって、どこか熱く心に響くトークにまで昇華されていかないのが惜しいところ。ですので「ファンを含め多くの人にアピールできるトークか」と言われると、そうでもありません。それでも気になる方は、下記のリンクから聞いてみるとよいでしょう。

(PCでの聴取)
http://podcast.tbsradio.jp/kirakira/files/20120216_yoshida_kora.mp3

(iTunes Store)
http://itunes.apple.com/jp/podcast/xiao-dao-qing-zi-kira-kira/id310553177

さて、このトークで個人的に気になったのは、番組側のピエール瀧さんと吉田さんの対話の一説。

吉田豪さん:
「今、AKBが何で人気なのかって考えたときに、AKBって中心のメンバーがほぼ二十歳くらいなんですよね。応援しやすい。小林よしのり先生が最近AKBに転んで(ファンになって)、何でかっていうと、やっぱね「みんな大人なんだよ」って言ってて、やっぱ“大人である”っていうのは“応援しやすさ”なんですよね。AKBがそれでブレイクしたのに、AKBに対抗しようとしているグループが、みんな小中学生で戦おうとするんですよ。これは杉作J太郎先生とかとよく話しをするんですけど、応援しにくいんですよ。四十(歳)過ぎた大人が小中学生を本気で応援すると、さすがに社会的に問題が出てくる(笑)。AKBは応援しやすくて良いんですよ、って声が多くて。確かに、今、何年後かに勝てるチーム編成だと思うんですよ、この小中学生入れたっていうのは」

ピエール瀧さん:
「要は、AKBは合法的に応援できるってことですよね」

吉田豪さん:
「そうなんですよね。確かに、AKBを応援することで言われることもあるだろうけど、でも他のグループと比べたら、まだ応援しやすい」

……というやりとり。
AKB人気の分析が正しいかはともかく、ひとつの現象として理解できます。
その後、この分析は引き続き、

吉田豪さん:
「初期のモーニング娘。があんだけ世間に届いたのって、やっぱ中澤さんがいたりとか、大人がいたのって大きいと思うんですよ。あの、AKBと同じで、入りやすいキカッケって言うか、そこが難しいところではあるんですけど。子供に針を振りすぎちゃうと……」

と、持論を展開。

ピエール瀧さん:
「モーニング娘。って、オーディションでね。アサヤンのオーディションで一応集めて作りました、みたいなヤツだから、とりあえず何でもない娘たちが集まって、“芸能界下克上”じゃないけども、素人集団でもやったるぜ、みたいな感じの……オーディションの落ちた人たちで集まったヤツだから、“下克上だぁ!”ってモチベーションはあったけども、今の中でモチベーションって付くの大変そう……でもそうか、“打倒AKB”が一番いいんだね」

吉田豪さん:
「そうなんです。そこができたことで、ようやくドラマができた感じがあるんですよ。ターゲットができた、と」

そこから、工藤の有望さ、将来性を語った後、流れで、

小島慶子さん:
「えぇ? じゃあ、モー娘。がAKBを凌駕する日がまた来ると」

吉田豪さん:
「来てほしいと思いますよ……、ホントに」

今回のトークは短い時間ながら、
・新メンバーの新人類っぷり(特に工藤)
・だがしかし、いかんせん若年層過ぎる(それがAKBに勝てない論)
・それでも将来的なポテンシャルは十分にある
・けど、若い娘にモーニング娘。のブランド力はまだあるのか→ある
・でも昔ほどのモチベは持ち難いのでは?→対AKBとしての戦闘意識
・じゃ、将来的にAKBを凌駕するの? → したらいいと思う → (ププッ)
というまとまり。最後の(ププッ)は、番組に流れていた空気を自分が感じたなりに書いたものです。

まず、AKBの人気分析は、単なるアイドルの嗜好性のみの話ではないので、ここでは割愛しますが、四十歳過ぎの大人がファンであると公言しても、それほど恥ずかしくないラベリングが成されているのは、優れた点だと思います。

これは他のアイドルグループにも言えるのですが、今、アイドルで業界に打って出ようと新人をプロデュースする際の最大のヒントがあります。ある業界関係者曰く「ハローに対するファンの不満を反面教師にすること」だそうです。

ハロプロファンの数の多さはあなどれません。しかし近年のファン離れが、他のアイドルグループの振興にも通じています。中には、ハローに対する不満の解消先として役割られている側面もあり、ハロプロファンの不満をよく分析し、そこを満足させる展開をすることで、ハロプロファンのパイを切り崩していく、というものです。

これは、シェアマネージメントでは普通のやりかたで、新規ファンを増やすことはハードルが高くても、アイドルファンとしてのリテラシーがある潜在顧客を競合媒体から奪うほうが楽、という考えですね。そのあたりの細かい話はともかく、AKBにしろ他のアイドルグループにしろ、ハロプロファンから見れば「上手いことやりやがって、というか、昔っから不満をぶつけてんだからハローでもやれよ!」という展開を、なぜかハローはやってくれない(改善してくれない)。新興勢力は、そうしたハローの不満因子をリサーチし、プラス構築するだけでいいので、こんなに楽なことはない。

ですので、年齢別支援の分析において「AKBが上手くやったか」というと、そこまで褒めるほど秀逸なことはやってないと思います。ただ、三十歳・四十歳のファンがいても、恥ずかしくない雰囲気作りや、メディア展開、グッズ展開など、普通にやっている状況。片やハローは、三十歳台はともかく、四十歳になると応援しにくい。

いや、9-10期が入る前であればマシでした。それこそプラチナ期と呼ばれた時期は、アイドルの域を超え、アーティスト集団としての成長に「モーニング娘。ファンであることを誇りに思えた」くらいです。仕事仲間と話をして「えぇ?いまだにモー娘。?」と言われても、「はぁ?何言ってんの?今の娘。の凄さを知らないなんて」と、逆に相手を小馬鹿にできるくらい、すごいグループだという自負がありました。

ただ9-10期全盛の今だと、ちょっとそれがやりにくい。それだけなんですが、そうしたアラフォーファンをつなぎ止めるフックを1つでも用意してくれればいい。そういう問題だと思います。ま、もし吉田豪さんが多くを理解していて「そうしたファン意識を理解しない展開もアップフロントの昔ながらのやり方」ということを嘲笑気味に言うメタファとして、AKBの年齢問題を出したなら凄いと思います。

ただ、ひとつだけ釈然としないのは「年齢が高ければ大人から支援されるはずが、近年は低年齢化なので人気に陰りが」という前提。前述したユーザー視点(いい歳して小中学生のケツを追いかけてんなよ、的な気恥ずかしさ)は、原理的には理解できます。

だからといってモーニング娘。の人気の零落が、そうした低年齢化にリンクしているかと言えばそんなことはないと思うんですよ。今の9-10期の小中学生を入れたのはたった1年前のことですし、絵里JLが卒業するギリギリの頃は、それこそ平均年齢的に20歳を超してるはずです。一番大人なモーニング娘。が、1年ちょい前なわけですよ。しかも、6期が入る前後で(まだ大人メンバーがいるのに)人気は落ちていきますから、ちょっと論理的にはチグハグですよね。

大局的に「大人が応援するのに恥ずかしい→だから人気が上がり難いのでは?」というだけであれば賛同できますが、モーニング娘。の人気の推移とメンバー年齢論は、実は関係ないって話です。


ちょっと前フリが長くなり過ぎました。
前述の問題よりも、近年気になるアイドル議論が、前述の“打倒AKB”や“下克上”に代表される、「アイドル戦国時代」という表現と構図。

先日のブログでも書きましたが、あまりにも今のアイドル業界が高校野球的、という表現をしました。この表現はよく言われることですが、こうしたスポーツ的、あるいはゲーム的に勝ち負けを求める風潮を「ドラマ」と言ってしまうことや、その闘いの構図を煽ることに対し、自分は非常に不快な印象を持っています。

もちろん、アイドルグループのメンバーが「AKBには負けたくない」ということを口にしたり、「天下を取る!」と表明することを悪いとは思いません。それは「頑張ります!」という言葉の表現のひとつだと捉えることもできるからです。

ただ、多くの人が分かってると思いますが、普通のファンはAというグループとBというグループを競わせて、優劣を決めて、勝ち負けを導き出すことを求めているわけじゃないと思うんですよ。いや、中には戦闘民族的なファンがいることも知ってますし、昔は自分も親衛隊同士の揉事から、頭から血を流したこともあります。とはいえ、そうした狂信的なファン以外のほうが数が多く、実際にハローとAKBの両方を聞くファンも多いことも分かっていることです。つまり互いを打倒対象と見るのではなく、どっちのCDも買うし、どっちのコンサートにも行く。それでいいじゃないですか。

ただ、それじゃ許さないのは誰か。先の狂信的なファンもそうですが、そこにドラマを作りたかったり、優劣を煽ることでニュースソースにしていきたいメディアの仕掛けだと思います。実際に、自分の周りでAKBをまったく聞かず、ハローばかり聞いているファンは多くいます。しかし、積極的に聞かないことはあれど、「倒す」ということを意識して、自覚的に行動することはありません。普通のファンであれば「倒す」なんて行為は現実的に難しいわけですし。

だとすると、そこで競い合いになる要素は、オリコンランキングやコンサート動員数、コンサート会場の規模、TV番組の出演数などの「数」による比較でしょう。メディアが用いやすく、比較もしやすい。それによって「紅勝て!白勝て!」という具合に、マッチポンプを行なっていると捉えることもできます。

ともかく自分は、ハローを応援していますし、AKBが国民的アイドルと呼ばれることを快く思ってませんが、AKBを倒すことがハローの再興ではないと思っています。また、AKBを倒す・倒さないに関わらず、ハローはしっかりと再興へギアを入れる必要はあると思っています。

またハローメンバーも、AKBを仮想敵にしやすいので、そうしたニュアンスで語ることもありますが、実際に「AKB憎し!あいつらさえいなければ私たちの天下なのに」とは思ってないはず。なぜならば、前述の人気推移どおり、 AKBが出てくる前から人気がどんどん落ちていったのをメンバー自身が分かってるから。

また、音楽産業の場合、テレビタレントの席の奪い合いともやや違います。バラエティなどに出るタレントの場合、その出演者数の上限から「彼女がいなくなれば私の席ができる」という原理が(多少は)あります。つまり、新しい娘が出てくるためには、今の人気タレントを追い出さないと出難いわけですが、音楽の場合、AKBが売れてるから、モーニング娘。が買われない、という現象は少ない。TVの出演枠はともかく、AKBがいようがいまいが、モーニング娘。はミリオンを狙えるはずなのです。

そうしたことに気付かせないのが、アイドル戦国時代という表現ですよね。
これは、日本の領土を内戦によって取り合う構図……つまり、限られたマーケットのパイの取り合いの比喩でしょう。全国を制覇していたように見えたハロー勢が、いつのまにかAKB勢に大半の領地を奪われ、ついでにスターダスト勢やavex勢にもどんどん脅かされ、この動乱にかこつけて、ここぞとばかりに新興勢力も参戦してくる始末。こうした乱入が簡単なのも、前述のようにハローの脇の甘さによるもので、自業自得なのでしょうが、果たして「領地争い」が芸能や音楽の楽しみ方なのでしょうか?

領地が重要だったのは、農作物の取れ高(産業規模)が面積に比例してたから。これは、単なる総和に対する差引の消耗戦でしかなく、「どちらも両方聞くファン」の存在を無視しています。そうした重複があるからこそ、相手を倒すことがすべてではないと思うんです。AKBのファンは、アイドル支持者として潜在顧客のはずです。アイドルにまったく興味がない層よりも、十分に魅力をアピールしやすい対象です。そうした存在がいる今だからこそ、ハローのパフォーマンスをアピールし、魅了することが大事だと思うのです。その結果、AKBのパイを奪うことがすべてではなく、両方を聞き続けることもあるわけですから。

それにより、例えばAKBを聞かなくなりハローに移行する……という事象を「勝ち負け」に例えられるのかもしれません。コンサートに行くお金が足りず、AKBとハローの両方に参戦できず、ハローに絞る……なんてこともあるでしょう。しかし、聞く・聞かない/行く・行かないは個人の趣味や都合の範囲のことです。「勝敗」を意識し、比較しながらCDを買ったり、コンサートへの参戦を決めるもんでもないと思うんですね。


このように、今回のポッドキャストは、アイドルの人気と勝ち負けの構図を、改めて深く考えさせられる内容の放送でした。いや、放送自体からそうした側面は読み取れませんが「ちょっとヘンじゃないか?」という気になって、よくよく考えてみると、色々と見えてくるな、ってところかもしれません。

相変わらず支離滅裂な長文で申し訳ありません。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。