「カレー。大盛で。」
赤いツナギを着た男が、食堂の引き戸を開け、主人に言った。
「あいよ!」
店の主人が笑顔で応える。
手際よくチクワを炒めながら、主人は赤いツナギの男に言った。
「ブロンコ。景気はどうだい?」
タバコに火をつけ、煙を吐きながら男は答える。
「あんまね…もうちょっと2Bの芯が売れりゃな…」
男の名はブロンコ後藤。
表の顔はシャーペンの芯販売業。
裏では何でもこなす便利屋をやっている。
「あいよ!ナイトメア・カレー大盛ね!」
テーブルに炒めたチクワが大量に乗ったカレーがおかれた。
大衆食堂ナイトメアの名物料理だ。
「しかし、ブロンコ。ツナギを着てるのは珍しいな。車でもイジッてんのか?」
ブロンコ後藤の他に客はおらず、暇を持て余した主人は、
カレーを食べるブロンコ後藤に声をかけた。
「いや…起きたばっかでパジャマで来たんだ。」
チクワをやっつけながら、ブロンコ後藤は答えた。
「そういや、息子さんは?」
付け合わせのパイナップルをスプーンでよけ、主人に尋ねるブロンコ後藤。
パイナップルは後で食べるつもりだ。
「相変わらず、働きもせずカタカタとパソコンばっかよ…」
主人のつぶやきは長いため息のようだ。
「そうか…おやっさんもキツいな。」
冷えた水が、ブロンコ後藤の歯に染みた。
ドッドッドッド!ドドッド!
ふいに、2階から階段を降りる音がした。
「おい!お父様!金くれ!」
45度に角度がついたメガネをかけた男が、焦ったように言った。
「お客さんがいるだろが!ボクちゃんは部屋にいなさい!」
主人は怒鳴り声で男に言った。
男は主人の息子・夢太郎だった。
ブロンコ後藤は、話に出た主人の息子を見た。
主人に聞いていたとおりの姿だ。
スウェット上下。伸びかけたパンチパーマ。
ズボンには扇子がささっている。
「君が夢太郎くんか。人が飯食ってる時に騒がしいな。」
ブロンコ後藤はタバコをくわえながら話しかけた。
「これは、失礼いたした。」
そう言うと、食堂の主人の息子、夢太郎はブロンコに会釈したかしなかったか微妙な感じで、
手を後ろに組んだ。
イギリス紳士チックだった。
「いいから、金だ!金!」
夢太郎は思い出したかのように、また叫んだ。
「また、ゲームか…いいかげんやめろ。ドリームキャストでシーマン飼ってるのも、
ボクちゃんくらいだぞ…」
肩を落としきった主人に、夢太郎は掴みかかる勢いで叫んだ。
「違う!今やってんのはPCエンジンだ!
それに金はゲームに使うんじゃねぇ!
殺されるかもしれないんだぞ!」
ブロンコ後藤の目が光る。
「物騒だな。話聞かせてくれよ。」
「そうだ。ボクちゃん、お父様とブロンコに話てみな。いきなり金!て言われても出せんぞ。」
2人に諭され、夢太郎は話し始めた。
「パソコンでエロ画像を見てたら、有料サイトだったんだ。
住所・氏名・連絡先を書くだけで無料と書いてあったのに…
そしたら、お金を払えって…払えないなら、家に来るって…後10分で来るって…
払えない場合は殺すナリよ。てメール来たんだ…」
夢太郎の目に涙が浮かぶ。
「ちっ…ヤツらか…」
ブロンコ後藤は顔をしかめた。
「ブロンコ!相手がわかるのか?
顔をしかめるほどの相手なのか?」
心配そうに主人が聞く。
ブロンコ後藤はタバコに火をつけ、言った。
「ネットで詐欺…語尾に○○ナリ…
たぶん、荒山田の組織だ。
チーム舞汰御利羅…
頭でっかちの荒山田弁三がリーダーなんで、大した事はない。
顔をしかめたのは…
パイナップルがすっぱかった。」
ガラガラガラ!
不意に扉が開いた。
「邪魔するナリ!夢太郎さんのお家は、こちらナリか?」
緑の学生服の集団が現れた。
先頭にいる男は、ジョンレノンのような丸いサングラスをかけている。
「ひっ!お金はありません!」
夢太郎は怯えて、メガネがズレた。
「貴殿が夢太郎さんですか!
用意しとけと言ったナリ!
エロ画像を見といて、金払わないなんてズルいナリよ!」
リーダーの荒山田が叫ぶ。
集団に背を向けていたブロンコ後藤は、タバコをもみ消し、荒山田の方を向いた。
「よう!弁三さん。大学は受かったのかい?」
「ぶ…ブロンコ後藤殿…なぜ、ココにいるナリ!」
荒山田は驚愕の表情を浮かべた。
「大学は・・・25浪中ナリよ。
ラチがあかないんで、金を稼いで自分で大学を作るナリ!
同じような境遇の賛同者もこの通り大勢いる!金を出すナリ!」
ブロンコ後藤は、ツナギのファスナーを2センチ上げながら立ち上がった。
「弁三さん。俺とアンタの仲だ。夢太郎くんは許してやってくんないか?」
「うるさいナリ!金がいるナリ!
えーい、ヘビ次・ネコ次!ブロンコ殿を倒すナリ!!」
「シャー!」「ギャース!」
2人は角材で同時に、ブロンコ後藤に殴りかかってきた。
ブロンコ後藤は、持っていたスプーンでヘビ次の角材を受け流し、
隠し持っていた爪楊枝をネコ次の右手に投げた。
「うっ!!」「ギャース!」
その場にうずくまる2人。
夢太郎にも5本ほど爪楊枝が刺さっていた。
「さて、弁三さん。次はアンタかい?」
膝から崩れ落ちる弁三。
「エロ画像さえなければ・・・21浪目で合格してたかも知れなかった。
エロ画像が・・・エロ画像が憎いナリ。
エロ画像への復讐も兼ねて、俺が首席で入学できる大学を
作りたかったナリよ・・・」
パーン!!!
ブロンコ後藤は、おしぼりの袋を勢いよく割った。
「弁三さん。それに夢太郎くんも聞け。
今の世の中、ネットでエロが手軽すぎる。
パソコンが普及するまで、ほとんどの男は狩人だった。」
うんうん。と食堂の主人も深くうなずく。
「川原。親父の部屋。駐車場。そこは狩場だったんだ!
何人もの男たちが、雨に濡れててもエロ本を奪い合った。
バターやマーガリンを黒い部分に塗ってたんだ!!
エロの所有率=石油王みたいな時代だ。想像できるかい?」
ぶんぶん。と主人の首の振りが激しくなる。
「ネットの普及で手軽になったエロは、ただのエロい画像なんだ。
輝きを放つ宝物じゃねぇんだ!!
自分で苦労して手に入れたもの。それは、どんなものでも宝物になるんだよ!!!」
気がつけば、みんな泣いていた。オイオイ泣いていた。
己の手軽なエロライフを悔いていた。
「へへへ。わかってくれたかい。
もうちょっと気づくのが早かったら、オレンジ通信もSMスナイパーも
廃刊にならなかったのにな・・・・」
弁三が涙を浮かべながら、立ち上がった。
「ブロンコ殿。また来年受験するナリ!苦労して大学生活を
手に入れるナリ!」
夢太郎も泣いていた。
「お父様。今までゴメン。やっと気がついたよ。
俺、もう引きこもらない!!
お父様の部屋とか、川原とか・・・
この世はデッカイ宝島!そうさ今こそアドベンチャー!」
主人は泣いていた。
「ボクちゃん・・・・」
ブロンコ後藤は、色々と突っ込みたかったが、我慢してタバコに火をつけた。
主人がチクワをブロンコに握らせる。礼代わりのつもりだ。
「ブロンコ・・・ありがとう。ところで、荒山田とは、どういう知り合いだ?」
「ん?15年前、ヤツの家庭教師をしてたのさ。
おやっさん。ごちそうさま。支払いはお財布ケータイで。」
入り口でうずくまるチーム舞汰御利羅のメンバーたちを軽く見て
ブロンコ後藤は支払いをスマートにキメた。
表は、まだまだ寒い。
ブロンコ後藤はツナギのファスナーを上まで閉めた。
そのまま、ブロンコ後藤は本屋を目指した。
「いつものアレと・・・・たまにはアップル通信も買うか・・・・」
アップル通信も廃刊になっていることは、ブロンコ後藤は
知るよしも無かった。
ブロンコ後藤が、読んでる「いつものアレ」
「田舎弱小パチンコ店長奮闘記」
大好評連載中の漫画パチンカー
全国あちらこちらで、絶賛発売中!!!!
今すぐ走れ!海の道を!