男はビルの入り口に立ち、キャビンマイルドに火をつけた。


男の名はブロンコ後藤。


表の顔は、シャーペンの芯販売業。

裏の顔は何でもこなす便利屋だ。


時間は深夜0時。


「さてと。いきますか。」


ブロンコ後藤は、ビルの裏口へと回った。


さすがに、この時間だと入り口は開いていなかった

からだ。


昭和初期に建てられたであろうビルは、老朽化した外見に

似合わず、最新に近いセキュリティを備えているらしい。


久々の獲物にありついたかのように、ブロンコ後藤は

口元を笑いで歪めた。



靴をバスケットシューズに履き替えて裏口に

回った。


革靴と違って、バスケットシューズは足音が

響きにくい。



裏口のドアは、ナンバー式のロックに加え

IDカードが必要なタイプだ。


ブロンコ後藤は、ポケットからカードを

取り出し、リーダーに読み込ませた。


劇場板のピカチュウのポケモンカードだ。


「OK。ツヅケテ バンゴウ ヲ ドウゾ」


カードは読み取られた。


次は番号だ。


0000


ピー!!!


ロックが解除された。


「やっぱな。ビンゴだ。」




ドアを開けると屈強なガードマンが立っている。


「IDカードを提示していただけますか?」


ブロンコ後藤は、さっきのピカチュウのカードを

見せた。


「え?コレはポケモンカー・・・」


その瞬間、ブロンコ後藤はガードマンの後ろに回り込み

膝をカックンした。


崩れ落ちるガードマン。


腰が抜けたように、立ち上がることができない。



「2時間もすりゃ、もどるよ」


ガードマンに声をかけ、目的のフロアへ急ぐ。


目的のフロアに着き、一際白いドアを開けた。



部屋の中の作業着姿の恰幅の良い紳士が、険しい顔で

ブロンコ後藤に言った。


「ようこそブロンコくん。ずいぶん乱暴な入り方だね?」


「カードと、暗証番号忘れたもんでね・・・」


ポケットの中身を見せるかのようなジェスチャーで

ブロンコ後藤は、紳士に言った。



紳士は驚いた顔で、


「なんで暗証番号がわかったんだい?」


と言いながら、ブロンコ後藤に詰め寄った。



ブロンコ後藤は、タバコに火をつけながら


「ここの社長は、ロールプレイングゲームをやるときに、

主人公の名前を適当につける。って聞いたのさ。

あああ とか とんぬら とかね。


あああ とかいう名前でプレイできる人間は、暗証番号は

たいてい設定されたときのままだ。

それで、ピンときたのさ」

「おぉ・・・・さすがだ・・・」


紳士は驚愕の顔を浮べた。


「でも、次からは忘れないでくれよ。IDと番号。

採用だ。」


こうして、ブロンコ後藤は、ビル掃除のアルバイトを

することになった。


休憩時間に読もうと持ってきた、


田舎弱小ぱちんこ店長奮闘記、絶賛連載中の

漫画パチンカー


をロッカーに入れ、ワックスを床にかけるべく

部屋を出た。


「新しい単行本が近日中発売なんで、金貯めねえとな」


そうつぶやくブロンコ後藤のポケットには、本屋の予約票が

入っていた。





ブロンコ後藤も読んでる、

幸せ配達人・田舎弱小ぱちんこ店長の物語。


田舎弱小ぱちんこ店長奮闘記


絶賛連載中の漫画パチンカー今月号、全国書店

コンビニで発売中!!!(一部地域と俺の地域を除く)


今すぐ走れ!海の道を!


単行本も発売予定!


震えて待て!!


商店街の一角。

そのギャラリーは、ひっそりと営業していた。


古ぼけた縄文杉の板に

「ギャラリー・マドモアゼル・ダイナマイト」

と毛筆で書いてある。小筆書きだ。


そこに、小学生の列をぬうように、一台のバンが走ってきた。

悲鳴にも似たブレーキを鳴らし、ギャラリーの前に止まる。


中からスーツの男が降りてきた。

小さな袋を小脇にギャラリーへ入る。


「こんちは。シャーペンの芯、届けにきました」

男の名は、ブロンコ後藤。
表の顔は、シャーペンの芯を売っている。

裏の顔は何でも請け負う便利屋だ。


「あら、ブロンコさん。おつかれさま。」

ギャラリーの奥から、ドレスの上から半纏を着た女性が出てきた。


弾間・エクイナメン・亜希子。

ギャラリーのオーナーだ。


顔は、元おニャンコクラブの生稲晃子に似ている。
後ろ髪をひかれそうな美貌だ。


「はい。シャーペンの芯。」


ブロンコ後藤は、オーナーに袋を渡した。


「いつもありがとう。2軒隣なのに配達悪いわね。」


オーナーの笑みに、ブロンコ後藤は照れながら言った。


「ナンノこれしき。」


「お茶でもどう?ブロンコさん」


オーナーは、机の上の梅昆布茶を指しながら言った。


「えぇ。今日は仕事終わりなんで、遠慮なく。」

午後の暖かい日差しの中、2人は梅昆布茶をすすった。


静かなギャラリーの中に、ズーズーという音だけが響く。


その時、ギャラリーの前に黒塗りの車が止まった。

ワゴンRだ。

ワゴンRばかり、24台だ。


「弾間のネーサンはいるかい?」


恰幅のいい、ガラの悪い男がギャラリーに入ってくる。

後ろに23人の男を従えている。


「鯖島田…なんでココに…」

オーナーは驚いた顔で、鯖島田と呼ばれた男を見つめていた。


「弾間のネーサン…チームに戻ってきて下さいよ…。こんなワケワカラン絵を売るのはヤメてさ。」


と言いながら、鯖島田は正面にかけてある、“恋人たちのメジャーリーグ”というタイトルの絵に、手をかけようとした。

シュッ!


空気を切り裂く音とともに、鯖島田の手にスプーンが命中する。


「そこまでだ。ブタゴリラ。」



「いた~いっ。ブタゴリラじゃない!鯖島田だ!
何だお前は。」


ブロンコ後藤は立ち上がり、膝を軽く曲げて右手にタオルを巻き始めた。

「絵の良さがワカラン奴に、ここに足を踏み入れる資格はない。」


言いながら、ブロンコ後藤は鯖島田に向かい走った。


ブロンコ後藤の獣のような動きは、鯖島田には捕らえられなかった。


ブロンコ後藤は、左手に握っていた梅昆布茶の粉末を鯖島田の鼻辺りに投げた。


右手のタオルは関係なかった。


「鯖島田さん!」


部下たちはギャラリーの入り口で、1度に入ろうとして、詰まっていた。


「ひーぃ!鼻が梅昆布茶の匂いしかしねぇ!」


膝を突いて悶絶する鯖島田に、弾間・エクイナメン・亜希子は近づき、木綿のハンカチーフを差し出した。


「鯖島田。私はチームには戻らないよ。

好きな絵に囲まれて生きていくんだ。

あんたに絵の良さはわからないかも知れないけど。

今の私に大切な物は、あんた達じゃなく、この作品たちなのさ」


「ネーサン…」


鯖島田はうつむいた。
目には涙が浮かんでいた。


ブロンコ後藤は、鯖島田に懐から一冊の本を出して見せた。


「作品の良さ・大切さってのを、コレで勉強してきな。


この漫画パチンカー好評連載中の“田舎弱小パチンコ店長・奮闘記”でな。」


鯖島田は力無く頷き、本を手にギャラリーを出て行った。



「ありがとう。ブロンコさん。
鯖島田は私が作ったチームの82代目なの。

最近、別のチームが台頭してきたらしくて、また私に力を貸してくれって言ってたのよ。」


オーナーは、にこやかに…だが、悲しみをたたえた顔でブロンコ後藤に言った。


「そうですか…

でも鼻に梅昆布茶を入れても、トンガリ!キテレツ!て言わなかったブタゴリラは根性あると思いますよ。

ヤツも田舎弱小パチンコ店長奮闘記で、作品を愛するって心を知ると思います。

そん時は、ギャラリーに招待してやって下さい。」


ブロンコ後藤は、オーナーにナイロンのハンカチーフを差し出しながら言った。


「ありがとう…本当にありがとうブロンコさん。

でも、そんな大事な本を鯖島田に渡して良いの?」

オーナーはツルツルするナイロンのハンカチーフで耳たぶの辺りを拭いてつぶやいた。


ブロンコ後藤は穏やかな笑みでオーナーに言った。


「毎月、保存用・観賞用で漫画パチンカーを最低3冊は買いますから。


またココで梅昆布茶が飲めるなら、安いもんだ。」


ブロンコ後藤はオーナーにも1冊渡した。


「毎度。梅昆布茶ごちそうさま」


見送るオーナーに会釈をし、ブロンコ後藤はギャラリーを後にした。


「あと2冊買わなきゃな…」


風に舞う、桜の花びらを眺めブロンコ後藤は書店に向かった。







ブロンコ後藤と鯖島田と弾間・エクイナメン・亜希子も読んでる、


田舎弱小パチンコ店長奮闘記


絶賛連載中の漫画パチンカー!


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今すぐ走れ!海の道を!

「カレー。大盛で。」


赤いツナギを着た男が、食堂の引き戸を開け、主人に言った。


「あいよ!」


店の主人が笑顔で応える。

手際よくチクワを炒めながら、主人は赤いツナギの男に言った。


「ブロンコ。景気はどうだい?」


タバコに火をつけ、煙を吐きながら男は答える。



「あんまね…もうちょっと2Bの芯が売れりゃな…」


男の名はブロンコ後藤。
表の顔はシャーペンの芯販売業。

裏では何でもこなす便利屋をやっている。


「あいよ!ナイトメア・カレー大盛ね!」


テーブルに炒めたチクワが大量に乗ったカレーがおかれた。

大衆食堂ナイトメアの名物料理だ。


「しかし、ブロンコ。ツナギを着てるのは珍しいな。車でもイジッてんのか?」


ブロンコ後藤の他に客はおらず、暇を持て余した主人は、

カレーを食べるブロンコ後藤に声をかけた。


「いや…起きたばっかでパジャマで来たんだ。」


チクワをやっつけながら、ブロンコ後藤は答えた。

「そういや、息子さんは?」

付け合わせのパイナップルをスプーンでよけ、主人に尋ねるブロンコ後藤。
パイナップルは後で食べるつもりだ。


「相変わらず、働きもせずカタカタとパソコンばっかよ…」


主人のつぶやきは長いため息のようだ。


「そうか…おやっさんもキツいな。」


冷えた水が、ブロンコ後藤の歯に染みた。


ドッドッドッド!ドドッド!


ふいに、2階から階段を降りる音がした。


「おい!お父様!金くれ!」


45度に角度がついたメガネをかけた男が、焦ったように言った。


「お客さんがいるだろが!ボクちゃんは部屋にいなさい!」


主人は怒鳴り声で男に言った。

男は主人の息子・夢太郎だった。

ブロンコ後藤は、話に出た主人の息子を見た。

主人に聞いていたとおりの姿だ。

スウェット上下。伸びかけたパンチパーマ。
ズボンには扇子がささっている。


「君が夢太郎くんか。人が飯食ってる時に騒がしいな。」


ブロンコ後藤はタバコをくわえながら話しかけた。


「これは、失礼いたした。」



そう言うと、食堂の主人の息子、夢太郎はブロンコに会釈したかしなかったか微妙な感じで、

手を後ろに組んだ。

イギリス紳士チックだった。


「いいから、金だ!金!」


夢太郎は思い出したかのように、また叫んだ。


「また、ゲームか…いいかげんやめろ。ドリームキャストでシーマン飼ってるのも、

ボクちゃんくらいだぞ…」


肩を落としきった主人に、夢太郎は掴みかかる勢いで叫んだ。


「違う!今やってんのはPCエンジンだ!

それに金はゲームに使うんじゃねぇ!
殺されるかもしれないんだぞ!」


ブロンコ後藤の目が光る。

「物騒だな。話聞かせてくれよ。」


「そうだ。ボクちゃん、お父様とブロンコに話てみな。いきなり金!て言われても出せんぞ。」


2人に諭され、夢太郎は話し始めた。


「パソコンでエロ画像を見てたら、有料サイトだったんだ。
住所・氏名・連絡先を書くだけで無料と書いてあったのに…

そしたら、お金を払えって…払えないなら、家に来るって…後10分で来るって…

払えない場合は殺すナリよ。てメール来たんだ…」

夢太郎の目に涙が浮かぶ。


「ちっ…ヤツらか…」


ブロンコ後藤は顔をしかめた。


「ブロンコ!相手がわかるのか?
顔をしかめるほどの相手なのか?」


心配そうに主人が聞く。

ブロンコ後藤はタバコに火をつけ、言った。


「ネットで詐欺…語尾に○○ナリ…
たぶん、荒山田の組織だ。

チーム舞汰御利羅…

頭でっかちの荒山田弁三がリーダーなんで、大した事はない。

顔をしかめたのは…

パイナップルがすっぱかった。」


ガラガラガラ!

不意に扉が開いた。


「邪魔するナリ!夢太郎さんのお家は、こちらナリか?」


緑の学生服の集団が現れた。
先頭にいる男は、ジョンレノンのような丸いサングラスをかけている。


「ひっ!お金はありません!」


夢太郎は怯えて、メガネがズレた。


「貴殿が夢太郎さんですか!
用意しとけと言ったナリ!

エロ画像を見といて、金払わないなんてズルいナリよ!」


リーダーの荒山田が叫ぶ。


集団に背を向けていたブロンコ後藤は、タバコをもみ消し、荒山田の方を向いた。


「よう!弁三さん。大学は受かったのかい?」


「ぶ…ブロンコ後藤殿…なぜ、ココにいるナリ!」


荒山田は驚愕の表情を浮かべた。



「大学は・・・25浪中ナリよ。

ラチがあかないんで、金を稼いで自分で大学を作るナリ!


同じような境遇の賛同者もこの通り大勢いる!金を出すナリ!」



ブロンコ後藤は、ツナギのファスナーを2センチ上げながら立ち上がった。



「弁三さん。俺とアンタの仲だ。夢太郎くんは許してやってくんないか?」



「うるさいナリ!金がいるナリ!

えーい、ヘビ次・ネコ次!ブロンコ殿を倒すナリ!!」


「シャー!」「ギャース!」


2人は角材で同時に、ブロンコ後藤に殴りかかってきた。



ブロンコ後藤は、持っていたスプーンでヘビ次の角材を受け流し、

隠し持っていた爪楊枝をネコ次の右手に投げた。


「うっ!!」「ギャース!」


その場にうずくまる2人。


夢太郎にも5本ほど爪楊枝が刺さっていた。



「さて、弁三さん。次はアンタかい?」


膝から崩れ落ちる弁三。



「エロ画像さえなければ・・・21浪目で合格してたかも知れなかった。

エロ画像が・・・エロ画像が憎いナリ。


エロ画像への復讐も兼ねて、俺が首席で入学できる大学を

作りたかったナリよ・・・」



パーン!!!


ブロンコ後藤は、おしぼりの袋を勢いよく割った。



「弁三さん。それに夢太郎くんも聞け。


今の世の中、ネットでエロが手軽すぎる。


パソコンが普及するまで、ほとんどの男は狩人だった。」



うんうん。と食堂の主人も深くうなずく。



「川原。親父の部屋。駐車場。そこは狩場だったんだ!

何人もの男たちが、雨に濡れててもエロ本を奪い合った。

バターやマーガリンを黒い部分に塗ってたんだ!!


エロの所有率=石油王みたいな時代だ。想像できるかい?」



ぶんぶん。と主人の首の振りが激しくなる。



「ネットの普及で手軽になったエロは、ただのエロい画像なんだ。

輝きを放つ宝物じゃねぇんだ!!


自分で苦労して手に入れたもの。それは、どんなものでも宝物になるんだよ!!!」



気がつけば、みんな泣いていた。オイオイ泣いていた。

己の手軽なエロライフを悔いていた。



「へへへ。わかってくれたかい。


もうちょっと気づくのが早かったら、オレンジ通信もSMスナイパーも

廃刊にならなかったのにな・・・・」



弁三が涙を浮かべながら、立ち上がった。



「ブロンコ殿。また来年受験するナリ!苦労して大学生活を

手に入れるナリ!」



夢太郎も泣いていた。



「お父様。今までゴメン。やっと気がついたよ。

俺、もう引きこもらない!!


お父様の部屋とか、川原とか・・・


この世はデッカイ宝島!そうさ今こそアドベンチャー!」



主人は泣いていた。



「ボクちゃん・・・・」



ブロンコ後藤は、色々と突っ込みたかったが、我慢してタバコに火をつけた。



主人がチクワをブロンコに握らせる。礼代わりのつもりだ。



「ブロンコ・・・ありがとう。ところで、荒山田とは、どういう知り合いだ?」

「ん?15年前、ヤツの家庭教師をしてたのさ。


おやっさん。ごちそうさま。支払いはお財布ケータイで。」



入り口でうずくまるチーム舞汰御利羅のメンバーたちを軽く見て

ブロンコ後藤は支払いをスマートにキメた。

表は、まだまだ寒い。


ブロンコ後藤はツナギのファスナーを上まで閉めた。


そのまま、ブロンコ後藤は本屋を目指した。



「いつものアレと・・・・たまにはアップル通信も買うか・・・・」



アップル通信も廃刊になっていることは、ブロンコ後藤は

知るよしも無かった。





ブロンコ後藤が、読んでる「いつものアレ」


「田舎弱小パチンコ店長奮闘記」


大好評連載中の漫画パチンカー


全国あちらこちらで、絶賛発売中!!!!



今すぐ走れ!海の道を!

「コニチハ。アナタがミスター・ブロンコ?」

2メートルはあるだろうか。スーツ姿の褐色の肌の男が、ブロンコ後藤の店を訪ねてきた。

「あぁ…いらっしゃい」
商店街に似つかわしくない、その男を見ても、ブロンコ後藤は眉ひとつ動かさない。

「シャーペンじゃナイ方の仕事をタノミタイ…」
一瞬、ブロンコ後藤の目が光った。

「あぁそっちか。内容は?」

ブロンコ後藤はキャビンマイルドをくわえ、男と向き合う。

「VIPの護衛ダ。」

言いながら、男はブロンコ後藤を値踏みするかのように、サングラスを外した。


「なんで、ザムザム王国のVIPが日本に?」

男の表情が固まる…

「ナゼ、ワタシガ、ザムザム王国出身とわかったノダ?」

「アンタの首が50センチくらいある。
ザムザム人は首が長いって、昔なるほど・ザ・ワールドで見た。」

「サスガ、ブロンコ後藤…ブランチェスカ!(素晴らしい)
実は、我が国王がお忍びで日本に来てイル。
目的ハ、恩人の見舞いダ。ダガ、困ッタコトニ…」

「あっ!ちょっと待ってて。」

明日出荷予定だろうシャーペンの芯をダンボールに詰め込み、ブロンコ後藤は台所に行った。

「茶出すの遅れたな。カルピスだ。濃いめにしといた。」

男はカルピスを恐る恐る飲んだ。

「ブランチェスカ…」

男は笑顔で、一気に飲み干した。喉がイガイガしながら男は話を続けようとした。

「ジツハ…」

ブロンコ後藤は、ニヤリと笑い男に言った。

「引き受けた。」

「エッ?あ…あぁアリガタイが…詳細はイイノカ?」

「カルピスをウマそうに飲むヤツの依頼は断れないさ。
行こう。街村医院だろ?」

「話がハヤイナ、キミハ」

椅子にかけていたジャンパーと紙袋2つを持ち、ブロンコ後藤は、男の車に乗り込んだ。


車には一見して高貴な雰囲気のザムザム人が乗っていた。

「ヤポレホーゲ(こんにちは)、ミスターブロンコ後藤」

「国王さんか…よろしくブロンコ後藤だ。」

「ジャ、イコウ。」

国王はエンジンをかけ、ハンドルを握った。

護衛は後ろで、おやま座りをしている。

「国王が運転とはね…カモフラージュとしては、良いね。アンタのおやま座りもね。」

「我ガ国デハ、国王以外は免許を持ってイナイ」
「あぁ…そうか…」


ほどなく街村医院に着いた。


「お供の人はココまで。アンタは目立ちすぎる。まぁ国王さんも目立ちすぎるが…
行こう、国王さん。」

2人でカップルのように腕を組み、歩き出す。


ふいにブロンコ後藤の表情が険しくなった。

「4…5…6人てとこか…」

ブロンコ後藤は、首にかけていたタオルを近くの水道でビショビショにしながら、国王に言った。

「なぁ国王さん…目をつぶって18数えてくんねぇか?」

国王はとまどったが、ブロンコ後藤の表情を見て、すぐに従った。

「エ?アァ…イーチ…ニー…」

その瞬間、黒い影達が襲いかかってきた。

「やはり、刺客は3人かよ…しかも、ザムザム人…」

国王は目を閉じながら、つぶやいた。

「6人テ、イワナカッタカ?」


獣のような動きで、襲いかかる3人のゼブラ柄のスーツの男達。

ゼブラ柄はザムザム王国では激アツだ。


3人とも身長は、ゆうに2メートルを超えている。首だけで50センチだ。

3人はブロンコ後藤達の4メートル先に着地し、縦に一列に並び、走ってきた。


「ザムザム・ストリーム・アタック…芸がねぇな…」

ブロンコ後藤は、濡れたタオルを右拳に巻き、バネのようなしなやかさで跳んだ。

ウルフマン(テレビアニメではリキシマン)と戦った時のスプリングマンのような跳躍だ。

横に跳び、刺客の視線がブロンコ後藤を追った瞬間、さらに前に高く跳んで、先頭の男の頭を右足で踏みつけ、男達より、高く跳んだ。


ブロンコ後藤は彼等より1馬身高く跳び、彼等の後ろに着地した。

濡れたタオルは、まったく関係なかった。

「※◎⊃◆□*▲▽!!」

ザムザム語で男達が叫び、その場で崩れ落ちた…
ザムザム語で「俺を踏み台にした!」と叫んでいたと、わかったのは国王だけたったろうか。


18数え終えて、国王が目を開けた時、ブロンコ後藤の前にひざまずく3人のザムザム戦士がいた。

「マル!サンカク!タメキチ!」

国王はブロンコ後藤を振り返り、驚きながら言った。

「ミスターブロンコ後藤、マル達は殺サレテモ敗北を認メナイ!
ドウヤッテ、服従サセタ?」

ブロンコ後藤をニヤリと笑い、キャビンマイルドを吸いながら言った。

「彼達より高く跳んだだけさ…3人で縦一列に向かって来る奴達には、あの戦法て決まってるだろ?アムロもやってた。」


~ザムザム人は、誰よりも高い事が素晴らしいとされている。

しかし、遺伝子的に全員背が低く、4才になった時点で首を輪っかで長く伸ばし始める。50センチくらい伸ばす。

世界でも有数の戦闘民族の彼らを服従させるには、彼らより背が高い事、もしくは高く跳ぶ事が必要だ。~

~百鬼夜行書房刊
これが、世界の戦闘民族だ!より~


国王は目を見開いて、ブロンコ後藤に言った。

「ニホンゴ、アマリ ワカラナイ…」


病室に入ると、大連寺博士は窓の外を見ていた。
「ハカセ!お久しゅうゴザイマス。突然ザムザムから来たので、驚カレタデショウ?」

大連寺博士は、笑顔で国王に向けて言った、

「あんまり。窓から見えてたし…首長いんで、わかるじゃん」

国王はズッこけた。

「大連寺博士…これ。」
ブロンコ後藤は、紙袋を大連寺博士に渡した。

「おぉ!ブロンコ後藤!久しぶりだ!会えて嬉しいよ!
しかも、この本は読みたかった、今月号の漫画パチンカー!」

ブロンコ後藤は大連寺博士と熱い抱擁をかわし、博士に言った、

「博士が本買って来いて言ったからね…それに先週も会ったじゃん。」

国王はずっこけた。


大連寺博士は満面の笑みで、漫画パチンカーを読み始めた。

「漫画パチンカーの田舎弱小パチンコ店長奮闘記を読まないと、手術する勇気がでないんだ…」

「相変わらずだな…先週も会ったけど。」

戦友同士のように、博士とブロンコ後藤は笑った
いや、毎月田舎弱小パチンコ店長奮闘記を楽しみにしている彼等は、いわば戦友なのかも知れない。

国王は、話に入れず壁際で口笛を吹いていた。

口笛の曲が斉藤由貴の「卒業」だった事は、通りがかった婦長しか知らない。



ブロンコ後藤(と大連寺博士)も読んでる、

「田舎弱小パチンコ店長奮闘記」

好評連載中の漫画パチンカー今月号は、全国書店・コンビニで発売中!!


今すぐ走れ!海の道を!
ふぅー。

キャビンマイルドの煙を空に吐く。

「もう、今年も終わりかよ」

男の名は、ブロンコ後藤。
表の社会ではシャーペンの芯を売り、裏の世界では便利屋だ。


表の仕事は、業界の慣習で、11月4日に仕事納めだった。

が、裏の仕事は休みがない。


今日も一仕事終え、事務所に帰ったところだ。


「昨年の年末ぁヒドかったな…」


昨年の大晦日は、ブロンコ後藤はメキシコの隣、
南米のポンアドルにいた。

金物屋の奥さんの依頼で、出張中の旦那さんに糸ノコの刃を
2本届けに行ったのだ。

ポンアドルは人口8万人、主な産業はナマコの養殖。

知られていないが、世界のナマコの40%はポンアドル産だ。

旦那さんは、ポンアドル・ナマコ水族館の補修の
為、8月から出張中らしい。
7回の乗り継ぎの末、ポンアドル国際空港に
降り立ったブロンコ後藤は、タクシーに乗る。

運転手は、この国では珍しい東洋人のお客に、
矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。

ブロンコ後藤が、運転手のハイヒール・モモコのようなマシンガントークに
閉口していたところ、彼はブロンコ後藤の旅の目的を聞いてきた。

「糸ノコの刃を届けに来たんだよ」

その瞬間、明らかに運転手の表情が変わった。

無言のまま、ハンドルを操り、タクシーは山奥の
ボリショイサーカスのテントのような施設に到着した。

「おい!ナマコ水族館だぞ!?」

ブロンコ後藤の問いに、運転手は岸部シローの
ような目で答えた。

「日本人・・・糸ノコ様には、触れちゃいけなかったな」

車を即座に、銀色のマントの集団が囲む。
マントには糸ノコの柄が入っている。

ポンアドルでは、糸ノコは神聖な品。

ポンアドルを作った、コケテイヌ神という神様が
両手に糸ノコを握っていた。
というのがルーツらしい。

「どうりで、金物屋の奥さんが晩飯に松坂牛を
、ごちそうしてくれたはずだ・・・・」

そのまま、ブロンコ後藤は牢屋に入れられた。

明日には死刑だ。


まずい夕食の後、リーダー格の男が、ブロンコ後藤の前に現れた。

「コケテイヌ神を汚す日本人よ。明日にはお前は死ぬ。最後に望みを言え。」

迷わず、ブロンコ後藤は即答した。

「バッグの中のタバコを取ってくれ。最後にタバコが吸いたいんだ。」

死に行く者への哀れみか、リーダーはうなずき、
ブロンコ後藤のカバンをあさる。

「こ!これは!?」

リーダーが手にしたものは、ブロンコ後藤の愛読書


「田舎弱小パチンコ店長奮闘記」

単行本の第一巻。初版本だ。


リーダーはブロンコ後藤に歩み寄り問いただした。

「あなたは、サボティヌスより選ばれた民か!?」


ポンアドルでは、糸ノコ以上に神聖な物がある。

それはサボテン。

たとえサボテンの絵でも、持ち歩けるのは神より啓示を受けた者のみ。

「サボティヌスに選ばれしものなら、これが食べられるはずだっ!!」

リーダーが運んで来た物は、ナマコのぶつ切りだった。

「もみじおろしが、欲しいトコだがな・・・・」

ブロンコ後藤は、食った。

ポン酢で余裕で食った。

ご飯3杯食った。


「おぉぉぉ!」

ひれ伏す銀色のマントの集団。


「GOD!GODだ!」

「今までの無礼を許してほしー」


リーダーの母親が謝罪に来て、ブロンコ後藤は
即座に解放された。


その後、丁重にもてなされた後、金物屋の旦那さんのトコまで、2階建てバスで
送り届けられる事になった。

しかも、2階の一番前の席だ。

「ちびっ子が大喜びの席だぜ?良いのかい?」

はにかむブロンコ後藤に、リーダーはお辞儀をし、

「はしゃいで下さい。エチケット袋はシートの後ろです」


と言った。

数時間車に揺られ、水族館に着く。

旦那さんに糸ノコを届けると、約束の時間に遅れたので、
旦那さんにドツカレた。

グーで、肩の付け根を2発ドツカレた。


「おぉぉぉぉ!」

ひれ伏す、銀色マントの集団。

啓示を受けた者を殴れる。
それは選ばれし者に選ばれし者ということらしい。

わかりやすく言うと、特命係長だ。


ブロンコ後藤は、変な集団に囲まれ、まんざらでも無さそうな
旦那さんをチラリと見て、水族館を後にした。


「また、助けられたな・・・」

懐の単行本を愛おしそうに撫でる。

年末で慌しいポンアドルの街中に、笑みを浮かべ
ブロンコ後藤は消えていった。

その後2週間、帰国が遅れた。

ちなみに、金物屋の旦那さんはポンアドルから、まだ帰ってきていない。



人気急上昇(当社調べ)、新時代のハードボイルドガイ!
ブロンコ後藤も読んでる、


「田舎弱小パチンコ店長奮闘記」


絶賛連載中の漫画パチンカー今月号
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その男は、何を背負っているのか。

目を凝らせば、背中に見えるはずの無い、黒い十字架が見えたはずだ。

ビルの屋上でキャビンマイルドに火をつけ、大きく吸い込む。


「いよいよか…」


男の名は、ブロンコ後藤。

表の顔は、代々続くシャーペンの芯を売る仕事だ。(2Bのみ)

裏の顔は、困り事を解決する便利屋。

やっかいな仕事ばかりだが、今回の仕事は特にやっかいだ。


商店街のナカさんの息子が頭である、満都狒狒(まんとひひ)というグループと、対立する紅天愚(べにてんぐ)というグループが、縄張りをかけてタイマン勝負する事になった。

お互い代理人を立て、代理人同士でタイマンをするというのだ。

相手はナイフ使いの、蛇山らしい。


「これだから、ゆとりは…」


だがギャラが良い。
ギャラガが買えるくらいのギャラだ。


ブロンコ後藤は引き出しを開け、ナイフを用意する

肥後守…このナイフをまた使う事になるとは…


決闘の場所へ、セリカを走らせるブロンコ後藤。
助手席に置いているアレを懐に忍ばせた。


「相手は蛇山だ。用心せねば。」


花万代公園に着くと、蛇山は夕日をバックに立っていた。


「先手は、あちらさんか…」


セリカのドアを開けたまま、ブロンコ後藤は蛇山に向かって走った。

蛇山も、蛇が這うようにブロンコ後藤に向かってくる。


ほぼ同時に、ナイフがお互いの胸に向かい、勢いを止めることなく2人は交差した。


夕日の下、背を向ける2人。

崩れ落ちたのは蛇山だった…


「な、なぜだ…俺の方が早かったはず…」


ブロンコ後藤は、清々しい笑みで、蛇山に言った。

「悪いな蛇ちゃん。
俺は死ぬわけにはいかないんだ。」


くたびれたスーツの懐から、取り出したのは雑誌だった。


蛇山を紅天愚のメンバーが囲み、ブロンコ後藤を見つめる。


「漫画パチンカー。連載中の田舎弱小パチンコ店長奮闘記を、今月まだ見てないんだわ。」


あっけにとられる、不良グループを尻目にブロンコ後藤は漫画を読み始めた。


心なしか、目頭が潤んでいる。


「ふー。」

「兄ちゃん達、悪い事は教わってるようだが、ホントに大事な事がわかっちゃいない。」


「いいから、田舎弱小パチンコ店長奮闘記を読んで見な。」


ブロンコ後藤は、大事そうに雑誌をしまい、キャビンマイルドに火をつけ、セリカに乗り込んだ。

その日、近隣のコンビニ・書店では、漫画パチンカーが完売したという…


ブロンコ後藤も読んでる、漫画パチンカー


絶賛連載中の田舎弱小パチンコ店長奮闘記が読めるのは、漫画パチンカーだけ!


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