新国立劇場2023/2024シーズンオペラ
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」
指揮/大野和士
トリスタン:ゾルターン・ニャリ
マルケ王:ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
イゾルデ:リエネ・キンチャ
クルヴェナール:エギルス・シリンス
メロート:秋谷直之
ブランゲーネ:藤村実穂子
合唱/新国立劇場合唱団
管弦楽/東京都交響楽団
演出/デイヴィッド・マクヴィカー
2011年プレミエの「トリスタンとイゾルデ」再演。前回も大野さんの指揮で、もの凄い気合の入った集中力に富んだ演奏で、シュテファン・グールド(亡くなられて残念)、イレーネ・テオリン、ユッカ・ラジライネンといった豪華な歌手陣により、未だ印象深い公演として記憶に深く残っています。(2011年って、そんなに前のことだったかな…とも)
今回は当初のトリスタン役が降板後、中々代役が発表にならずやきもきとさせられましたが、結果、素晴らしい歌手陣が揃い、今回も新国立劇場、屈指の名公演となりました。6回公演の2日目。
パワーがあって美声でスタミナがないとトリスタンとイゾルデは務まりませんが、今回はその点ではほぼ水準をクリア。
イゾルデ役のリエネ・キンチャは、2019年の「タンホイザー」エリーザベト役で来ていたらしいのですが印象に残っていない。きょうは第1幕から最後の「愛の死」まで万全の歌唱。分厚いオケの響きを楽々突き抜けていきます。
トリスタン役のゾルターン・ニャリはハンガリー生まれ。直前に決まったのでどうかな‥と不安視していましたが、どうして中々のヘンデル・テノール。
最初から最後まで魅了してやまないテナー(ヴィントガンセンやルネ・コロやペーター・ホフマン、グールドのような)とはいきませんが、やり切るスタミナは大したもの。カーテンコールで約2名、ブーイングをかましていたけど、急遽の代役ということも考えあわせれば十分かと。ブーイングにちょっと顔がこわばってたけど。
主役2人以上に素晴らしかったのがわき役陣。
マルケ王役のシュヴィングハマーはバイロイトの常連、さすがの貫禄で、朗々たるバスの響きに魅了されました。
ブランゲーネの藤村さんも完全に手中におさめた役で、リートでは見せない感情の激しさを出していて見事でした。
クルヴェナール役のシリンスは、もう何を言おうかオペラ界の至宝。人間味あふれる声で、同役を感動的に歌い演じてくれました。
ピットに入った都響が圧巻の素晴らしさ。一糸乱れない弦楽器群のうねりに、歌手陣と対等に歌い演奏する木管楽器群のソロ。オーボエの鷹栖さんは全3幕通して大活躍。
マルケ王の嘆きの歌でのバスクラ、第3幕での舞台袖に移ってのコールアングレと、ほれぼれするソロを聴かせてくれました。
長い「トリスタンとイゾルデ」(2回の休憩含め5時間20分)ですが、長い長い右往左往を繰り返したあとに展開されるカタルシスが各幕に配され、じーっと修行に耐えたものだけが味わえるドーパミンの放出に、やはりワーグナーはやめられないなと。
マクヴィカーの演出は特筆すべき点はありません(・・それが良い!)が、第1幕と第3幕に出てくる巨大な満月が、赤くなったり白くなったり暗くなったりと、ドラマに応じて変化するのが印象的。
東京春祭でも「トリスタンとイゾルデ」がありますが(演奏会形式)、これを上回るのは容易ではない気もしますが、比較が楽しみです。