あすなろ銀行は、不正融資により不良債権が増加していた。新たな融資を増やしたいと思っても、破綻するのではないかという風評で預金口座の解約が増加し、普通預金はもちろん定期預金でも中途解約で払い出されていた。

様々なローン商品を開発してきた、営業企画部の清水四郎は預金の金利を定期預金よりも高くした普通預金「新型普通預金」の取扱いを始めた。

同時に既存の預金科目は、翌年の2021年3月に全て移し替えする事を発表した。移し替えに同意しない場合には同年2月末までに不同意の届けを出せば満期日までは現状のままとした。

さらに手形小切手を発行する為に当座預金を利用している取引先に対しては、他校への預け替えを依頼して、同じく2021年3月末までには当座預金口座も撤廃した。

この取組みによって、あすなろ銀行の預金は新型普通預金のみとなった。当座預金の廃止によって、手形小切手の集中処理の必要がなくなった。

預金口座に入金される手形小切手は本来なら手形交換所にて手形交換を行うのだが、あすなろ銀行は手形小切手を発行しなくなり、受け入れるだけなので他行に代理交換を依頼して持ち出しして貰っている。

代理交換とは手形交換所に加盟していない銀行が加盟行に顧客が預金口座に入金した手形小切手をまとめて、他行の預金口座に入金してその手形小切手を手形交換所に持ち出して貰うのだ。

加盟行には代理交換の手数料を払うが手形交換所に加盟する費用よりも少なくなるし、何より自行内の手形集中処理の費用が不要になる。

地域の金融機関は事業エリアに複数の支店があり、その支店内の預金口座に入金された手形小切手を取りまとめ店に行内輸送便で送る。

取りまとめ店では集まった手形小切手を検証した後、持ち出し先の銀行別に集計し、翌日朝の手形交換所に行き銀行に渡して自行の手形小切手を受け取る。

受け取った手形小切手を今度はエリア内の支店別に分けて送付し、それぞれの支店で引落し処理を行うか取りまとめの本部で処理をする。

これらの事務が、当座預金を廃止することによって不要になる。地域金融機関にとっては手形小切手を発行する建設業や製造業の取引がなくなる事はリスクが大きいが、個人取引にビジネスモデルを転換しているあすなろ銀行は思い切った対策を行った。

この後、多くの銀行があすなろ銀行を真似て預金口座の統合と当座預金を廃止して行った。ただ、あすなろ銀行以外は統合した新型普通預金の金利を半年程度で引下げたため、5年以上の定期預金をしていた預金者から本来なら受け取れる金利が貰えないと言うか訴訟が行われた。

あすなろ銀行だけは、定期預金の金利以上の金利を引き下げなかった。清水四郎は何故かこのように訴訟が起きるのは分かっていたかの様に、テレビのニュースを見てニヤリと笑った。

続く