■馬さんがある老人を待っています・・・

 

「お待ちしておりました、どうぞ!」

 

 馬さん、やさしい眼をしておるのぉ。ところで、だいぶん待ったかな?歳をとっとるので準備に時間がかかってのぉ!悪かったな。しかし、変わった乗り物を武帝は寄越したものだのぉ。座るところが付いておるぞ。それに、この車輪はどうなっているんだ。ちょっと不格好だが、何か理由でもあるのかのぉ!どっこらしょ、っと。おっ、いい乗り心地じゃないか。この感覚がまさに車輪に付けてあった蒲の穂の役割だったんだな!武帝の心遣いに感謝するばかりじゃよ!じゃ、馬さん、出発しようか!

 

安車蒲輪(あんしゃほりん)
意味 〇老人をいたわり、手厚くもてなすこと。
〇車輪を蒲(がま)の穂で包み、車を走らせるときの震動を少なくすること。
▼「安車」は、老人や婦人が乗用した天井の低い車。「蒲輪」は振動をおさえ、乗り心地をよくするために蒲(がま)の穂で包んだ車輪。
出典 『漢書』儒林(じゅりん)伝、申公(しんこう)
類語 ・安車駟馬(あんしゃしば)
・安車蒲輪を以て迎う
用例 ・今度はまた魯(ろ)の地方の「詩経」の博士で申公(しんこう)というのを、やはり「安車蒲輪」で迎えるという。(吉川幸次郎「漢の武帝」)

 

【故事】

 前漢の第七代武帝は、絹織物に宝玉を添えて贈り物とさせ、座って乗る車は蒲でその車輪を包んだ馬車で、八十歳を超えた魯の儒学者申公(しんこう)を迎えさせた。

 

 

【書き下し文】

  是(ここ)に於(おい)て上(しょう)使いして束帛(そくはく)に璧(へき)を加え、安車は蒲(ほ)を以て輪を裹(つつ)み、駟(し)を駕(が)して申公を迎えしむ。