そして‥
忘れた頃にお茶の名前を添えたポットが扉の外に現れる。お茶の名前と文字を見れば何となくその人の状況が伝わる。
無事を祈りながらお茶を淹れた。必要に応じてお菓子を添えたり、お茶をブレンドしたり。
そして、2年が経ったある日、最初のひとりが帰ってきた。
「ただいま!!」
「おかえり!!」
「ずっとずっと待っていたんだよ。」
2人目、3人目と次々に待ち続けていた旅人たちが帰ってきた。
ガラン
ドアの方を見ると7人の最後の一人が戻ってきた。
ピッピが「おかえり」と言おうと思ったら、
「えっ?何で魔法解いてないの??」
「そうだよな。みんなそう思うよな。」
一番大きな人が確認するように6人の目を見つめた。
そしておじいさんとお兄さん、そしてムムに向かって言った。
「もう十分甘えさせてもらったんじゃないかな?
これ以上甘えていたらまた取り返しのつかないことになるぞ。お前たちをMAGIC SHOPに導いたのはこの子たちの真心。
傷ついてもチャンスを与えることがどんなに難しいことなのか僕たちはわかるから厳しいことを言ってしまうけど、大切なことだからね。
その真心にまた甘えて、このままでもいいと思っているのがわかる。仮面を被っていれば向き合わなくても昔のように甘えられるから。
でも破った約束もついた嘘も決してなくならないだろう?それに背いて生きるのはお前たちの自由だけどその選択で傷を負い続けている人がいるということを忘れてはならないよ。ネネとキキはあの時からずっと待っているんだよ。」
涙が止まらなかった。この涙は何だろう?
悲しみでもなく、喜びでもなく、幸せ、切なさ、どの感情とも違うけど、ずっとずっと待っていたことだけはわかる。
ずっとずっと、待っていたんだ。私の痛みや悲しみをわかってほしかった。
どっちが悪いとかじゃなくて、ただわかってほしかったんだ。
その気持ちを外に出してあげたかったんだ。
そう、共感してほしかったんだ。
私の痛みを私の痛みとして認めてほしかった。
本当は私がカカとトトに言うべきだった言葉。
どうしても言えなかった言葉。それを外に出してくれた7人の救世主たち。
今わかったよ。やっと言えるよ。
ネネは穏やかな気持ちで言った。
「もういいの。カカがトトに伝えた話と、私に伝えた話はどっちも事実だったのかもしれない。
カカはどっちにも事実の一部分だけを都合の良いように伝えた。
トトにはトトが喜ぶように、私には同調するように。その断片的な情報から私とトトが見た景色は全く別のものだった。
最初から疑問を感じていたのにそれをトト本人に確かめなかったのは私の過ち。
手紙も自分で直接トトに渡せばよかった。
トトは自分の狡さに気付いていて正すチャンスもいっぱいあったのに理由をつけては見送り続けた。
トトがやるべきことを今も誰かが代わりにやっている。それが理解できないトトじゃないからきっと沢山傷ついているはず。早くその負の連鎖を自ら絶って未来に向かって歩いてほしい。カカから言わせたら今の状況そのものが誤解だと言うのかもしれない。でも頭のいいカカはわかっているはず。
自分の欲が自分の首を絞めていることを。でも認められないんだよね。それを認めたら全てを失うと思っているから。でもねカカ。何もかも知っているんだよ。もう1年半も前から知っているの。だから今失うものはもうないの。もっと自分を大切にしてほしい。」
カカのことを、トトのことを、そして二人を許すことが出来なかった自分自身を、やっと解放できたネネ。
私には共感してくれる人がいる。
ネネの痛みもキキの痛みも全部外に放ってくれたから、きっと大丈夫。
キキとピッピに出会えたこと、7人の救世主たちに出会えたこと、出会えるなんて1%も思えなかった「許す」という感情に出会えたこと。
これが私の海ならば砂漠を歩くことを躊躇わないよ。だってだってこれからだって思えるから。未来で私の私たちの最高の瞬間が絶対に待っているってわかるから!!
7人の救世主たちとネネとキキとピッピはお互いを見て笑った。そしてお互いを抱きしめ合った。
「僕たち全員、海を見つけたんだね。」
「どんな景色を見てきたの?」
「砂漠に動物いた?」
「新しいお客さんは来たの?」
「しばらく話が尽きそうにないな」
「今日はパーティーをしよう」
「見せたいものがたくさんあるんだよ」
カカとトトの未来が今よりも笑うことが多くて幸せでありますように。
それがMAGIC SHOPを始めた理由。
私ができることは真心を込めてお茶とお菓子を届けること。
訪れた人みんなが自分の意志で幸せに繋がる選択ができるよう願いを込めて。
ここはMAGIC SHOP
癒しを求める人が訪れるところ
MAGIC SHOPを読んでくださってありがとうございました。
あとがきを出します!
素敵な写真はお借りしました。ありがとうございます。