『下流志向』 内田樹 ~現代日本を読み解く仮説 | Bookworm in the Hammock

『下流志向』 内田樹 ~現代日本を読み解く仮説

内田樹さんの『下流志向』を読みました。


とても面白く、勉強になる本でした。



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この本は、副題に、「学ばない子供たち 働かない若者たち」


とあるのですが、


これが、僕をこの本から遠ざけていた原因です。



「学びたいのに学べない」あるいは


「働きたいのに働けない」子供や若者には


大いに関心があるのですが、


「学べる環境にあるのに学ばない子供」や「働ける環境にあるのに働かない若者」


には、正直、あまり関心がないからです。



しかし、本書はこれらの分析だけにとどまることなく、


現代日本に生きる私たちにとって、


多くの有益な「気づき」を与えてくれる良書でした。



   * * *



まず、第一章では、


クレーマーの増加や、学級崩壊、ニートなどの


日本の今日的な課題が、実は同根の問題なのだ、


と指摘されています。



すなわち、


これらの問題は、現代日本の子ども達が、


「労働主体」や「教育の客体」として己を確立する前に、


経済的な「消費主体」として自己を立ち上げてしまうことに


原因があるというのです。



これは、教育者の諏訪哲二さんの分析をベースにしているのですが、


非常に説得されました。



自己をまず消費主体としてから出発してしまうと、


買い手としての権利を声高に主張したり(クレーマー)、


本来的に等価交換が成り立たない「学び」や「労働」を


拒否するようになり(学級崩壊、ニート)、


それは彼らにとって、「賢い行動」として認識されるがゆえに、


彼らの内側から行動が矯正されることがないという意味において、


かなり「厄介な」状況になっている、という考察です。




また、第2章では、


 1.リスク・ヘッジとは、他者とリスクを分担し合うことであり、

   それゆえに「孤立した人間」は、リスク社会にあって、

   リスク・ヘッジをすることができない。


 2.日本は「自立した人間」と称して、「孤立した人間」を生み出してきた。


 3.リスク社会生き抜こうと思ったら、孤立してはいけない。


ということが主張されていました。



競争社会やリスク社会を生き抜くためには、


個が強くなければならない、自立しなければならないというのは、


(内田さんはこのこと自体に異を唱えておられるようなのですが)、


僕はおそらく正しい理路ではないかと感じています。



しかし、それを個々人が受け止めて解釈する際に、


「自立」と「孤立」とを勘違いしてしまうと、


非常に困難な状況に追い込まれるということに


気づかせてくれました。


     

   * * *


自分が説得された「仮説」や「フレームワーク」


というものは、


とても大切だと、僕は思っています。



僕たちは哲学者でもなく、社会学者でもないので、


社会的な課題や、哲学的な課題について、


常に思考しているわけにはいかないからです。



ニートや学級崩壊、クレーマーの問題が、


同根の問題なのだと言う仮説に説得された現在、


これらの問題について、


今後、かなりうまく立ち回ることができるようになると


感じています。



ではでは。