犬は勘定に入れません | 高井戸の住人のブログ

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読書、植物・野鳥観察、犬、ドラマ、音楽、旅行などの記録です。
本は歴史ものとSF、ミステリーときどき文学。
No more whale & dolphin hunting!
Save Palestine!

アメリカSF界の女王コニー・ウィリス(翻訳・大森望)の本の紹介です。
『犬は勘定に入れません〜あるいは消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』(1998)。
読んだ長編はこれで3作目ですが『航路』を読んで以来「これはハマる!」と思っていましたが、ますますハマりました。




『犬は〜』も『ドゥームズデイ・ブック』に続くオックスフォード大学航時史学部生によるタイム・トラベルの話です。

2057年資産家のシュラプネル夫人が1940年に空襲で破壊されたコヴェントリー大聖堂と同じものを復活させようと、大金をはたいて地元からオックスフォード大まで支配下に置いて、大学は当時の大聖堂の細かい所まで調べるためにたくさんの史学生たちを過去に送り込みます。

その調査対象の中にシュラプネル夫人の先祖の将来の転機にもなった花瓶もあり、それも復元するために史学生のネッド・ヘンリーとヴェリティ・キンドルは1888年で調査をする話です。
コメディ要素満載です。

冒頭に下記の献辞がありました。

・ロバート·A·ハインラインに。。。

ジェローム·K·ジェローム『ボートの三人男 犬は勘定に入れません』

という本の存在を初めて知ったのは、

ハインラインの『大宇宙の少年』

のおかげでした。

。。。
これはSF好きの自分にとっては何物にも代えがたいキャッチ・フレーズで、本書を読んだあと『ボートの三人男』も読みました。
ヴィクトリア朝時代のテムズ川をロンドンからオックスフォードの方までボートで遊覧する3人の男たちと1匹の犬の旅行記とか思い出話なのですが、一度ツボに入ると笑いが堪えられない面白さでした。
ハインライン『大宇宙の少年(スターファイター)』は児童向けで楽しむにはちと年を感じました。

『犬は勘定に入れません〜』もテムズ川を下ります。
雰囲気はジョルジュ・スーラの絵のような感じを思い浮かべながら読めます。
(Wikiより。)

テムズ川の川べりに歩道が整備されていて、ボートで上流に上る時は乗客のひとりふたりが長いロープで引っ張って歩くんだそうです。



この本を読む前にヴィクトリア朝時代の主だった出来事を並べてみました。


。。。。。

17601830年代:イギリス産業革命。

(←1837年にブランキによって表現されトインビーが学術用語として定着させた。)

1822 ギデオン・マンテル、恐竜の化石発見。

1837 ヴィクトリア朝時代始まる。

1839 最初の写真撮影。

1840 郵便制度開始。

1840 王立動物虐待防止協会、設立。

1842 週間"新聞"はじまる。

1842 ペットの鳥ブーム。

1844 精神病流行。急激な都市化、劣悪な労働環境などによる。

1844 電信(モールス信号)の誕生。

1845 「ガラス税」の廃止。貴族優遇大衆へ。

1846 「穀物法」廃止。貴族優遇大衆へ。

1847 ロンドン動物園一般公開へ。

1847年「10時間法」成立。時短。

1847 固形チョコレート。大衆へ。

1847 時計の流行。

1848 「公衆衛生法」制定。

1848 アメリカ、ハイズビル事件。霊媒ブームのはじまり。

1849 デパート誕生。

1849 英国独占だった「航海法」廃止。

1851 第一回世界万国大博覧会。

1851 「窓税」廃止。ガラス窓、一般に普及へ。

1851 ミシンの普及。

1852 「首都水道法」公布。

1852 ミュージック・ホール。

1853 「広告税」廃止。広告業拡大。

1853 ロンドン写真協会、発足。写真が大衆へ。

1854 コレラ大流行。

1855 ヘンリー・ベッセマー『製鋼法』開発。

1855 郵便ポスト誕生。★

1857 インド大反乱(インド傭兵セポイの乱/インド独立戦争)、始まる。

1858 インド大反乱(インド傭兵セポイの乱/インド独立戦争)、終結。

1858 「東インド会社」解散。植民地時代終焉へ。

1858 テムズ川、環境汚染で悪臭。

1858 「医師法」制定。

1859 ビッグベン完成。

1859 『進化論』論争。

1860 世界初の動物愛護施設、開設。

1861 「不純食品取締法」制定。

1861 家政婦ブーム。

1862 第二回万国大博覧会。

1863 ロンドンに最初の地下鉄。

1865 ロンドン下水道整備工事はじまる。

1865 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』~地下鉄、下水道の誕生をモチーフ。

1866 コレラの大流行。

1868 パブリック・スクール法制定。中産階級中心に学校教育が拡大。

1869 スエズ運河開通。欧州アジアの距離が縮まる。

1870 「初等教育法」制定。大衆レベルに学校教育。

1871 「労働組合法」制定。社会主義思想。労働組合、合法化。

1873 トーマス・クック『鉄道時刻表』発刊。旅行が容易に。

1876 米国でベルが電話の特許を取得。

1877 インド帝国、誕生。

1877 米国のエジソン、蓄音機の特許取得。

1879 米国のエジソン、白熱電灯を発明。

1880 第一次ボーア戦争始まる

1881 第一次ボーア戦争終わる。

1881 世界初の電気照明による劇場開館。

1885 自転車普及。

1887 ドイルのホームズ・シリーズ第1巻『緋色の研究』。

1888 経済紙、創刊。

1890 ロンドンで自動車が走り始める。

1891 推理雑誌『ストランド・マガジン』。推理小説ブーム。

1894 テムズ川のタワーブリッジ完成。

1898 デパートのハロッズに英国初のエスカレーター。

1899 第二次ボーア戦争はじまる。

1901 ヴィクトリア女王崩御。ヴィクトリア時代終わる。

1902 第二次ボーア戦争終わる。

1912 「タイタニック」号、沈没。

1914 第一次世界大戦はじまる。

1918 第一次世界大戦おわる。

1918 スペイン風邪流行はじまる。

1919 スペイン風邪流行おわる。

。。。。

19世紀〜20世紀初頭は面白いです。
イギリスは『産業革命』のあとに大衆の権利(★印)を認める法律やインフラがどんどん整備されて行ったようですね。
★印の出来事を眺めていて、それ以前の昔にはそんな事も一般市民には許されていなかったのかと驚きました。

『犬は勘定に入れません〜』には当時流行ったミステリー小説ネタやスピリチュアリズム(心霊降霊術)ネタも出て来ますが、コニー・ウィリスのすごいところはそれらもただの小道具でしかないストーリー展開の巧みさ・緻密さで読み手を惹きつけること。

コナン・ドイルのシャーロック・ホームズやアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロも推定誕生年は1854年(?)なので、今度はロンドンを舞台にしたタイム・トラベルものをぜひ書いてほしいです。