フェミニズムの害毒 第六章 真実を歪める卑劣な批判 (7)

フェミニズムの害毒
  林道義、草思社、1999.08/30。

第六章 真実を歪める卑劣な批判

 林道義と田中喜美子とは、信濃毎日新聞で連載形式で討論を
 行った。林の批判 に対して、田中は反論にならない反論を
 行った。
 一、林の方が字数が多いという嘘によって、
 相手を非難した。実際は、田中の方が文章が多い。

 二、発端は、田中の講演で林の著書が批判されている事に
 つき、林が反論を述 べた事に始まる。
 それを田中は、「驚かされた」「闇討ちだ」と非難するが、
 知らない所で悪口を言う事を闇討ちと言うなら、
 闇討ちを暴露したのは林の方である。
 三、田中は林の道義という名前を持ち出して、
 古めかしい道徳的な名前だと 槍玉に上げる。

 人の名前には、親の願いや本人の様々な思いが掛かっている。
 ペ ンネームでもない名前を取り上げるのは、論争のマナーや
 ルールさえ弁えぬ姿勢である。

 四、田中は林を、現実を知らないと批判するが、
 ならばなぜ主婦層から反響が あるのか。

 林を事実誤認というなら、次の二点を証明する必要がある。
 一、フェミニズムは専業主婦批判をしていない。
 二、フェミニズム運動に悪影響はない。

 フェミニズム運動が、専業主婦に及ぼした影響については、
 明らかである。主婦はフェミニストのせいで、自らの人生に
 自信を持てなくなっている。

 それは、 フェミニストの言葉を自信失墜した主婦が繰り返し
 ている事からも伺える。十年前の田中喜美子の著、
 「エロスとの対話」より、
 「女はその本来の愛の 力を取り戻す為に、孤独なマイホームに
  閉じ込められた、妻役割、母親役割から 解放され、
  外に向かってはばたかねばならない」

 この引用部分は、新聞、ラジオで再生産され、
 全国のよるべない主婦の心情となった。
 
ほとんど、異口同音に、同じ言葉を繰り返している。


フェミニズムの害毒  林道義、草思社、1999.08/30 より
寸評
著者の林道義さんは、ユング研究家にして、元日本女子大教授であります。
私は大学の事は詳しくありませんが、日本女子大退任後の教授には
名誉教授号が授与される習わしで、当然授与されるべき氏に、
それがなかったとして、大学を批判しております。

退任後、ますます舌鋒が激しくなって、
おもしろ頼もしい爺さんになっているようです。

もう一冊、「父性の復権」も読みましたが、たいへんな名著です。
思い付きに尾鰭を付けたようなものではなく、父性について、
様々な角度から学術的検討を加えています。

引用される学者の名前を見ても、フロイト、ユングを始めとする氏の
思想形成に預かった学者、また、氏と面識があり、同時期に活躍した
日本の学者の名前が多数引かれていて、いかにも、学者による啓蒙書
という体裁です。

父性の復権、母性の復権、家族の復権は、現代日本が本腰を入れて、
早急に取り組むべき学術的課題です。

これほど、獅子奮迅の活躍をしている氏が、名誉教授号のお預けを
喰わされているとは、外野から見ても歯がゆい限りです。

男女共同参画局の坂東眞理子が退官後、昭和女子大の教授に収まり、
その四年後に学長に就任しているのとは対照的です。

その著書「女性の品格」は、2007年のベストセラー1位になりましたが、
内容はエッセイの域を出ず、評判も悪く、いかにも、「肩書きだけの学者」が
書きましたという限界を露呈させています。

「父性の復権」と「女性の品格」とを比べれば、どちらが本当の学者の著書で
あるかは一目瞭然です。にも関わらず、一方は名誉教授号を据え置かれ、
一方は、四年で学長に就任しているのです。この2冊の本は、現代日本における
学識、学歴、大学、インテリ、キャリアというものが、いかに歪んでいるか、
いかにいびつな権力構造の中に置かれているか、いかに、嘘八百の三百代言
が地位や予算を弄んでいるかという事を証明しているのです。