僕から「僕」への片想い。 -2ページ目

2005年12月26日(月) 晴

今日は蛯ちゃんに会える、今年最後の日になるはずだ。


僕は4時半入り、蛯ちゃんは6時入り。

僕が入ってすぐは店も忙しくて慌しかったが

蛯ちゃんが来る頃には暇になっていて、蛯ちゃんは6時に入らないで

ずっと倉庫で待機していた。


僕はずっと回り続ける回転寿司のレーンを眺めながら、

早く蛯ちゃん入ってこないかなー、とかそんなことばかり考えてた。



店を方はまぁまぁ忙しかったが、客の引きが早く、僕は8時で上がらされた。

僕が「お先に失礼します」と言って倉庫に戻ろうとすると、蛯ちゃんに呼び止められた。


「僕休憩行けると思うから待っててね!」


僕は今まで二度蛯ちゃんに告白した。

(過去日記参照)

そして少しひどい事を言ったこともある。

なのに、どうしてこんなに優しくしてくれるのだろうか。


だから僕はいつまでも蛯ちゃんのことが諦められない。


「うん、わかった。」


僕は、ほんとはうれしくてたまんないのだけど、その感情は顔には出さないで

そっけない態度で返事をした。


倉庫で5分ほど待ってると蛯ちゃんが入ってきた。


「休憩もらえたよ!」


二人で一緒にタバコを吸う。

僕はコロコロとタバコを替えるのだが、最近はクールで落ち着いている。

蛯ちゃんはセブンスターを愛煙している。


セブンスターは好きじゃないんだけど、たまに蛯ちゃんがくれる時は喜んでもらう。



蛯「拓ちゃん、お寿司食べようや!2皿だけ!」

拓「何で2皿だけなん?」

蛯「だってもったいないもん。」


僕らはよく休憩に行かされて、しかも店の寿司を普通に客と同じように食べる。

バイトしてようが社員割引など何もないし、まかないすら出ないのだ。

週に3回寿司を食べるのも珍しくない。


拓「しょうがないなー、付き合ってやるか。」


ほんとは嬉しくてたまらないんだけど、それは表情に出してはダメだ。

出してもいいんだと思うけど、やっぱり恥ずかしくてそれはできない。


テーブル席がいっぱいだったので二人でカウンターに座った。


それぞれ自分のお茶を注いだ。


そしたら社員の人がきて

「ごめん蛯ちゃん、キッチン追われてきたから戻ってくれへん?」


ちょっと、待ってよ、僕と蛯ちゃんの貴重な時間を・・・

すごく残念だったけど、またそのことも表情には出さずに


「しょうがないやん、蛯ちゃん、入ってきーや。」


と淡々としゃべった。




以前に日記で、最近蛯ちゃんがしんどそう、と書いた。

同じバイトの後輩の太田から聞いた話しでは

蛯ちゃん、最近バイトを掛け持ちしているらしい。


でも僕はその事を知らないフリをしている。

蛯ちゃんから直接話してほしかったから。


でも蛯ちゃんの体調は心配だ。


「蛯ちゃん、無理したらダメだよ」


その一言を蛯ちゃんがキッチンに戻る直前に言おうと思った。


けど言えなかった。




「蛯ちゃん、無理したらダメだよ。」


言えなかった言葉を胸の奥にしまって、僕は家路についた。



拓「お疲れ様です」


そう言いながら店の裏口から出ようとした。


蛯「拓ちゃん、待っててやー」


蛯ちゃんは笑顔だった。


僕も笑顔で答えた。


拓「嫌だよー、あと2時間もあるやん。」


また嘘をついた。


クリックしてくださいね ⇒ 

2002年4月9日(火)

目が覚めたら時計の長針は「10」の数字を指していた。

7時50分、もうそれは遅刻ギリギリを意味している。


新学年早々遅刻はマズイよね。

僕は急いで準備をして家を飛び出た。


僕は自転車をこぐのが早い。

どれくらい早いかというと、普通の人が15分かかる道のりを10分切ってしまうのだ。



毎日遅刻ギリギリなんです。



蛯ちゃんはいつも早めに校門をくぐる。

僕がたまに早く家を出ると、いつもの信号待ちで蛯ちゃんに会う。


今日も蛯ちゃんは早めに学校に着いているんだろうな、なんて考えながら

全力で自転車のペダルをこいだ。



ギリギリで校門をくぐりぬけ、急いで教室へと向かう。



今日は始業式。

僕は高校2年生になった。


学年があがると、恒例のクラス替えだ。

僕は「蛯ちゃんと同じクラスになれたらいいな」なんて期待に胸膨らませていた。




しかし、新しいクラスを発表する掲示を見て、ため息をついてしまった。

まぁ仕方がない。

360人の9クラス、この中から偶然に蛯ちゃんと一緒のクラスになれるなんて難しいことだ。


僕は2年9組だった。


自分の名前を見つけたあとに探すのは部活の友達でもなく、あの子の名前だ。



「あ・・・・・・」


思わず声に出てしまった。


蛯ちゃんは2年3組。

遠い・・・

また隣のクラスなら体育の授業で一緒になれたのに。



次に部活の友達の名前を探した。


同じ長距離のMくんと僕は同じクラスになった。

それがせめてもの救いだ。


今度は部活内のライバル、ハルを探す。





な、なんと、ハルは蛯ちゃんと同じ3組だった。


800mはハルの方が速い。

でも1500mは僕の方が速い。

僕の専門は1500m。


僕はハルになりたいと思ったことはない。

だって僕の方が1500mを速く走れるから。

それに僕の方が背が高いし、自分で言うのもなんだが僕の方がモテそうだ。笑


でもこの時ばかりはハルになりたかった。





あ、そうか。

昼休みなんかにハルに会いに行くフリして蛯ちゃんに会いに行けばいいのか。


なんて単純な奴なんだ、僕という男は。


でもやっぱり一緒のクラスになりたかったな。




一目惚れした1年目。

次の1年はどう展開するだろう。




その日の放課後、僕はいつもよりもがむしゃらに走った。






クリックしてみたらどうでしょうか。 ⇒ 

2001年10月17日(水) 晴れ

10月の晴れた日。

まさに秋晴れというにふさわしい天気だった。

空がいつもより高い位置にある、そんな気がした。

空はいつも同じ高さだけどね。



また体育の授業の時の話だ。

だって他に蛯ちゃんとの接点がないんだもん。



今日は僕と蛯ちゃんが初めて喋った時のこと。


いや、喋ったといっていいものなのだろうか。





今日は5時間目が体育の授業だった。

昼休みの終わりごろ、教室で着替えて、余裕を持ってグランドへ出た。

早めに着替えてすでにグランドに出ている奴らはサッカーボールで遊んだり、

ベンチに座ってバカ話をしたり、しょうもないことで盛り上がったり。


僕と友達も後からグランドへ出てきて、先に出てた友達を見つけて

駆け足で向かおうとした。




その時、人にぶつかってしまった。



痛ってぇな・・・・・・


そう思って相手の顔を見ると、蛯ちゃんが立っていた。



僕はすごく動揺してた。

この時、目が合ったわずかの時間が、すごく長い時間に思えた。



僕は蛯ちゃんの目を見て「ごめん」と言うと

蛯ちゃんは「うん」と言った。


蛯ちゃんの目に吸い込まれそうな気がしたのですぐに目をそらした。

すごく恥ずかしかった。


僕は前をいく友達の後を追った。



そして後ろを振り返った。

蛯ちゃんはもう僕に関心などない。


なんだか寂しかったけど、友達でもないし、仕方の無いことだ。



僕は2,3度後ろを振り返り、蛯ちゃんの後姿を見た。


次にぶつかった時は笑い合えたらいいな、と思いながら友達に追いついた。


 

クリックしたら良いそうですよ ⇒ 

2005年12月20日(火) 晴

凍てつくような寒さの中、僕は原付を飛ばした。


向かった先はバイトの社員さんの家。

今日はそこでバイトの仲間と鍋パーティーをするのだ。


開始は9時頃から。

残念ながら今日は蛯ちゃんはバイトなので来れない。



でも楽しもう。

これから先は、蛯ちゃんがいるのが当たり前じゃなくなるんだ。




蛯ちゃんは4月から社会人になる。

あの有名な鉄道会社に就職したのだ。


とても4月から新社会人になるようには見えないかわいさが彼にはあった。

でも僕は初めて彼に出会った時より、確実に男らしさは増している。

かわいいし、かっこいい。

言うことなしだ。




鍋は終盤に差し掛かり、具材もなくなってきた。

そろそろ雑炊でも始めようかと思ったが、今日は仕事の店長が

仕事終わってから来るそうなので店長が来るまで待つことにした。


それまでの間、お酒を飲みながらいろんな話で盛り上がった。



12時前には来ると思ってたのに、一向に現れない。

僕らは暇をもてあましていた。


みんなでスーファミのぷよぷよをすることになった。

僕は自分で言うのもなんだが、少し自信がある。





ずっとぷよぷよをしていた。

僕が先輩30戦近くを終えた時に、ようやく店長がやって来た。

僕と先輩は店長が来ても後ろを振り向かずにずっとぷよぷよに熱中していた。


すると、後ろから僕の耳をくすぐる声がした。


蛯ちゃんだ。

蛯ちゃんが来たのだ。

来ないと思っていたけど、来てくれた。


僕はすごく嬉しくなった。

でも振り返ると多分顔がデレデレしているので振り返らないことにした。

蛯ちゃんが来たことにあまり興味がないかのようにずっとぷよぷよに熱中していた。


僕と先輩の対戦をみんな見ていた。

僕がすごい連鎖をすると蛯ちゃんが「うわーすごい!」って言ってくれた。

僕は嬉しかった、けど素直に喜ぶのが恥ずかしかったので聞いてなふりをした。


50戦近くを終えて、さすがに疲れたので僕らは雑炊を食べた。


僕は蛯ちゃんのお箸の持ち方が好きだ。

少し独特な持ち方をする。

何故好きなのか、理由は・・・

何かかわいいから。




今度は店長と先輩がぷよぷよ対戦をし始めた。

僕は観戦する側に回った。

テレビの画面を見ながら、時々チラっと蛯ちゃんの顔を見る。

いつ見てもかわいい。

でも今日の蛯ちゃんは何だか眠そう。

まぶたが重そうだ。


そんな顔をしていると、一層まつげの長さが際立つ。

黒目がちなのも強調される気がする。



いつしか蛯ちゃんは睡魔に勝てずに横になって眠りだした。

ココが僕の部屋なら蛯ちゃんに毛布でもかぶせてあげるのに。

できれば一緒に横で寝たいけど。




夜中の3時頃までぷよぷよ対戦は続いた。

その間、僕も何度か店長と対戦した。

店長とはいつやっても勝てそうで勝てない。

6勝4敗くらいのペースでずっと続く。



蛯ちゃんが目を覚ました。

僕は喉が渇いたのでウーロン茶をコップについで飲んだ。

コップのウーロン茶を飲み干し、またついだ。

そして蛯ちゃんに差し出した。


拓「飲む?」

蛯「うん、ありがと。」


こんな何気ないやり取りが、僕を嬉しくさせる。



そろそろ解散しよう。

みんなで社員さんにお礼を言って、社員さんの家を出た。

僕は蛯ちゃんの後ろを歩いた。

今日はいつもの匂いがしない。



蛯ちゃんはいつも「蛯ちゃんの匂い」がする。

最近はそれがすごく強い。

別に臭いわけじゃない。

人にはそれぞれ匂いがある。

匂いが強い人もいれば、弱い人もいる。

僕は自分の匂いが弱い、と言われたことがある。

蛯ちゃんは匂いが強い。

それは僕にとって嬉しいことだ。

蛯ちゃんの匂いをいっぱいかげるのだから。


何か変態みたいだね。



11月の蛯ちゃんの誕生日に、僕は香水をプレゼントした。

迷ったあげく、ベタにブルガリの香水をあげた。


僕が香水をプレゼントしてから、蛯ちゃんの匂いは今までの

蛯ちゃんの匂い+香水の匂い 

になった。

僕はその匂いも大好きだ。


僕も香水が好きなのでよくつける。

バイト先の女の子に

女「○○さん(僕)いつもいい匂いしますね!蛯○さんもいい匂いするんですよー。」

と言われた。

何だか嬉しかった。


女「○○さん何て香水つけてるんですか?蛯○さんはブルガリの香水の匂いがするんですよー。」


それは多分、僕があげた香水に違いない。




話がだいぶそれてしまった。

僕は思い切って蛯ちゃんに聞いてみた。


拓「今日はいつもの匂いがしないね。」

蛯「今日、起きてそのまま来たからー。」


やっぱり僕があげた香水をつけてくれてたんだ。

僕はそう確信して、また嬉しくなった。


こんな些細なことですぐに嬉しくなるから、

あんな些細なことですぐに悲しくなるんだ。



蛯ちゃんに別れをつげ、次はクリスマスイブに会えることを楽しみにしながら、

僕は凍てつく寒さの中、原付を飛ばして帰った。

2005年12月19日(月) 晴

今日もバイトに行ってきた。

僕のやってるバイトというのは回転寿司だ。


なんと蛯ちゃんと同じバイトなのだ。


どうして高校時代は遠くから見ているだけだった蛯ちゃんとバイトが同じなのか、

それは後日書くことにする。



僕はこの2年間でかなり蛯ちゃんと仲良くなれた。

「2005年10月31日」の日記にも書いてあるように。

それくらい仲良くなれたのだ。


まぁそのことは今回はどうでもいい。




最近、蛯ちゃんとあんまり話してなかった。

あんまりというか、全くだ。

まるでケンカの最中の恋人同士のように。


最近蛯ちゃんが話してくれない。

というか、僕の近くにくるとすごく無表情になる。

気のせいかもしれないけど、そういう小さなことをすごく気にしてしまう。

とりわけ蛯ちゃんの場合は。


僕にも原因があるのかもしれない。

僕も蛯ちゃんの近くに行くと、ムスッとした態度になっちゃってた。

何でだろうか。



昨日の夜、気になってバイトの後輩(太田くん)にメールで聞いてみた。

太田とおれと蛯ちゃんは仲良くて、よく一緒にご飯食べに行ったりしている。



拓「もう寝た?」

太「起きました!」


ご、ごめん・・・


太「な、なんですか??」

拓「変なこと聞くけど、最近蛯ちゃんおれのことうざいとか言ってない・・・?(._.)」


太「はい??別に聞いてませんよ!最近疲れてるとは言ってますね。何でですか?」

拓「最近全くしゃべって (くれ) ないから。変なこと聞いてごめん。」


太「確かに前に比べたらテンション低いように見えますね!深く考えちゃダメですよ!」



別に僕は太田にカミングアウトしているわけではない。




いつもはラストのメンバーは3人。

でも今日は人がいないから2人だけ。

しかも、僕と蛯ちゃんの2人。


だからすごく会うのが怖かった。


今日の僕の入り時間は7時。

蛯ちゃんは6時。

入る前に倉庫で会うことはない。



そう思って安心して行ったのだ。



しかし、店が暇で蛯ちゃんは待機していたのだ。

幸い、倉庫で蛯ちゃんと二人きりになることはなく、もう一人、タメの女の子がいた。



僕は蛯ちゃんと二人きりの時は恥ずかしくてあまり自分から話さない。

それは僕だけでなく、蛯ちゃんもだ。

でもその女の子と僕はいっぱいしゃべった。

もちろん自分から。



女の子が待機を終えて仕事しに行った。

倉庫に僕と蛯ちゃんは二人きり。



沈黙。




蛯ちゃんは何故か住宅情報誌を店の中から取ってきて読み出した。

僕は勇気を出して自分からしゃべりかけた。


拓「家買うの!?」


これが精一杯。

でもこれで話が広がればいいのだ。


蛯「うん、家欲しいねん。」

拓「もう家買うの!?」

蛯「引っ越したいねんなー。」

拓「そ、そうなんや・・・」


がんばったよ、自分。




仕事に入ってからは以前のようにぎくしゃくすることなく過ごせた。



どうやら僕の考えすぎだったようだ。



そうだ、クリスマスの日にアップルパイを作ってこよう。

蛯ちゃんが食べたいって言ってたから。

2001年8月4日(土) 晴れ

夏休みの朝。

まだ8時過ぎだというのに陽が高い。

セミたちが自分の存在を誇示しているかのように鳴きさけんでいる。




僕は高校に入ってから迷わずに陸上部に入った。


中1の時は陸上部に所属していた。

しかし、中2で転校し、新しい学校には陸上部がなく、(仕方なく)バレー部に入った。

「高校に入ったら陸上部に入ろう」

そう思いながら好きでもないバレーを続けていた中学時代。(最低)



僕の専門は中距離だ。

短距離でもない、長距離でもない、中途半端だと言われるとそうかもしれないが、

陸上競技では一番きつい種目だとされている。


中学生の時は短距離だった。

短距離だったのに、長距離が得意だった。


高校に入ると、市内の兵(つわもの)どもが集まり、

僕なんて短距離ではとてもじゃないけど通用しないと思った。

でも長距離の人達より短距離は速い。

だから中距離にしようと思った。


もう一つの理由が、先輩から

「中距離は一番しんどいよ。」

と言われたので、やってやろうじゃないか!と思ったからだ。(単純)



そんな僕の部活話はどうでもいいのだ。




僕はよく遅刻していた。

休日には朝からある部活にもよく遅刻した。

しかし今日は珍しく余裕を持って家を出た。

気のせいだろうか、いつもより通学途中すがすがしい気持ちだった。


学校の300mほど手前で信号待ちをしていると、目の前に見たことある子がいた。



体操服姿の蛯ちゃんだった。


蛯ちゃんは弓道部だ。

弓道部も今日は朝から部活らしい。


僕は蛯ちゃんのことを知っている。

しかし蛯ちゃんは僕のことなんて全く知らないかもしれない。


たまに廊下ですれ違ったり、体育の授業が同じだけど、

蛯ちゃんの記憶の中には全く残らない存在だと思う。


もし仲が良かったら、ここで朝の挨拶を交わしたりできる。

けど、今の僕らの関係では(ていうか関係などない)、

ただ偶然に信号待ちで一緒になった同じ高校の生徒、にすぎない。



今、僕の方が後ろにいる。

一番最初に蛯ちゃんを心を奪われた時と同じように、後姿を見ている。


僕は思った。

「高校3年間の目標は  『卒業するまでに蛯ちゃんと友達になる』  だな。」



信号が青に変わった。

僕らは一言も言葉を交わすことも、視線をあわせることもなく、

蒸し暑い朝の中、10mくらい間をおいて自転車をこぎ、校門をくぐった。

2001年7月3日(火) 晴れ

高校生になってから3回目か4回目くらいのプールの授業。

うちの高校は体育が厳しいので有名だ。

4泳法のテストはもちろん、欠席や見学した分は必ず補習が入る。

10月になっても補習が終わってなかったらプールだ。

それでも終わらなかったら市のスポーツセンターへ行ってプールだ。

もちろん代金は自腹である。


そんな目には遭いたくないのでがんばって泳ごう。


でも、僕は水泳が苦手だ。

クロールは普通にできる。

背泳ぎも普通にできる。

問題は平泳ぎだ。



沈むのだ。


中学生の時は水泳の授業が嫌で嫌でたまらなかった。

でも高校の水泳の授業は、まだ嫌だと思ってない。


だってあの子がいるから。




あの日、一目惚れしてからというもの、体育の時間、朝礼の時間、気がついたら彼を眺めていた。

たまに蛯ちゃんと目が合う。

目が合ってから自分がずっと見ていたことに気づいて、急に恥ずかしくなって目を逸らす。

そんな事の繰り返しだ。



ある日、初めて蛯ちゃんの声を聞いた。

体育が終わって教室に戻っていた時のこと。

階段を上っていると、すぐ目の前に蛯ちゃんがいた。

友達と話をしていた。


かわいい見た目を違って、声は意外と高くない。

でも何かギャップがたまらない。


僕はおやじか・・・





一目惚れから2ヶ月とちょっとが過ぎた今、蛯ちゃんを眺めるのは習慣化していた。

それに今は水泳の時期だ。

もちろん水着姿。

今までの人生で、水泳の授業をわくわくして迎えたことがあっただろうか。

いや、ない。

でも今はわくわくしてたまらない。


準備体操の時、また無意識に蛯ちゃんを見ていた。

しばらく見ていると目が合ってしまった。


水着姿だからか、目が合うといつも以上に恥ずかしい。




最初の頃は、この感情を理解できなかった。

でも今は何となく気がついてきた。


僕は蛯ちゃんのことが好きになってるんだ。

片想いってやつ?

でも相手は男。

でも好きなんだもん。




これから夏本番だ。

平泳ぎはできないけど、プールの授業が楽しみだ。

2001年4月24日(火) 晴れ

僕は当時、高校一年生だった。
高校生になりたての4月、その日はまさに快晴であった。


3回目の体育の授業、今日からハードルをすることになった。



体育の授業がもうすぐ終るのでみんなでハードルを片付けていた。
ハードルを運んでると僕の視線を釘付けにさせる後ろ姿の子が立っていた。

見慣れない子だ、多分7組の子だろう。
僕は8組。
体育の授業は2クラス合同でやるので
この場には7組と8組しかいない。


僕はその後ろ姿をずっと眺めていた。
後ろ姿しか見ていないのに『かわいい』ってのがわかった。

でも街中で後ろ姿を見て惹かれても、実際正面から見たら
期待外れ、なんてことはよくあることだ。

僕はわくわくしながらその子の正面に回った。



僕は呆然としてしまった。

何てかわいいんだ。
女の子に間違われてもおかしくないほどだ。
目はぱっちりとした二重。
きれいな眉毛。
長い睫。
柔らかそうな唇。
少しだけ丸みをおびた柔らかそうなほっぺた。

ここが高校で、体操服でなければ、
ここが駅前で、私服姿であったなら、
彼のことを高校生だと誰が思うだろうか。
まだ高校生になりたての4月だから無理もないけど。


ちょっと待て。
ここには男しかいないはず。
女子は体育館で授業してる。
僕の視線を釘付けにさせるあの子は間違いなく男子。
『男の子』の方がしっくりくるな。
何で僕は男をずっと眺めているんだ。



そんな事考えるのは邪魔臭い。
何も考えずにぼーっと彼を眺めてたい。


ハードルの片付けが終り、体育の授業が終わった。
わずか10分の間で僕は彼に興味を持った。

まさに一目惚れだ。



後に彼の名前を知るのだが、
彼はみんなから「蛯ちゃん」と呼ばれている。



僕の長い長い片想いはここから始まった。

2005年10月31日(月) 晴れ


僕は普通の大学二回生。

実は好きな人がいる。

それは男の子である(どーん!)


世間では普通じゃないかもしれないけど、

僕にとっては(今となっては)ごく普通なことだ。


僕は蛯ちゃんという子を好きになってしまった。

高1の時の出来事だ。

(その時のことは後日書こう)


今日は、先日起きた出来事について書こうと思う。

では、どうぞ。




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拓「じゃあ、するからね。」
蛯「うん、いいよ。」

ほっぺたにちゅー。

蛯「へへへ、じゃあするね。」
拓「うん。」

ほっぺたにちゅー。


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今日、蛯ちゃん(と他2名)と牛角行ってたらふく食って、
カラオケ3時間半。
いやー遊んだ遊んだ。

その後、蛯ちゃんと二人でチャリで帰ってました。

おれ、お酒入ってたからかな。

蛯「拓ちゃんって、よくわかんない。」
拓「ん?そう?」
蛯「女好きっぽそうに見えるけど、違うってたまに言うし。」
拓「ははーおれはただの変態やから!」

しばらく違う話して。

拓「てかさ、おれ前に蛯ちゃんに言わなかったっけ?」
蛯「何て?」
拓「おれ、女好きにならないって。」
蛯「うん、言ってた。」
拓「冗談だと思ってた?」
蛯「半分信じて、半分信じてなかった。笑」
拓「なんやそれ(笑)気持ち悪い思ったら引いていいよ、おれ、男が好きやから。」
蛯「うん、前聞いた。」

蛯「僕も別に女好きじゃないよ。」
拓「え??????????」


そっから訳わかんなくなった。
ここで何て書いていいかわかんないけど・・・

何か話してたら「別に拓ちゃん特別だから」って・・・
拓「じゃあ付き合えるの?」
蛯「付き合うって・・・どんなの・・・?」
拓「うーん・・・恋人としてってこと。」
蛯「なんか今までと違うのかな・・・」
拓「そりゃ、友達と、恋人やったら違うんちゃうかな・・・」
蛯「なんかよくわかんない・・・」

拓「じゃあ、手っ取り早く聞くよ。おれとキスできる?」
蛯「うーん・・・別に嫌じゃない・・・かな。」


蛯ちゃんは本気で人を好きになったことがないらしい。
女も、男も。
もちろん、男と男が付き合うのもよくわかってない。

蛯「付き合うって、友達と違うの?」
拓「そりゃ・・・まぁ・・・」

拓「じゃあ・・・おれ蛯ちゃんのことが好きだから。付き合って。もう付き合うか、付き合わないか、どっちかだよ。」
蛯「付き合わなかったら、もう遊んだりしないの?」
拓「大丈夫、友達でいるから。笑」


んで、それからいろいろ話して、結局おれが諦めるから、
最後にちゅーして、って言ったの。
ほっぺたでいいから。

拓「じゃあ、最後に1回だけちゅーさして。」
蛯「・・・・え!今すごいドキっとした!」

え、付き合えそうな気がするんだけど・・・
まぁいいか。

蛯「ちゅーしたら諦めれる?」
拓「うん、多分、いや、諦める。」


人通りのないとこへ移動。


拓「じゃあ、するからね。」
蛯「うん、いいよ。」

ほっぺたにちゅー。

蛯「へへへ、じゃあするね。」
拓「うん。」

ほっぺたにちゅー。

拓「ありがとう。」
蛯「これで諦めれる?」
拓「うん。(多分無理な気がするけど)」

拓「寒いのに、ほんとごめんね。じゃあバイバイ!」
蛯「いいよ。バイバイ!」

蛯ちゃんとの距離が100mくらい開いてから
大声で叫んだ。

拓「蛯ちゃーん!バイバーイ!!」
蛯「バイバーイ!」


家に帰ってから蛯ちゃんにありがとうってメールした。
好きなのは変わらないと思うけど、諦めるようがんばるからって。

「ふってゴメンね、でも好きになってくれてありがとう!」
って返事がきた。


今まで生きてきてよかった。
5年片想いしててよかった。


あのやわらかいほっぺたと、やわらかいくちびるは忘れない。