とある日の晩。
TNGと歪栖cortの演奏会が再び開かれるということで、演奏で英傑や「親衛隊」が熱狂的になって暴れてしまうことが憂慮されていた。
「演奏した英傑自身が落ち着かせてくれるのが一番なのだが」
「コノハテング殿の鍛錬も兼ねて」
「あと最近産魂されたミズチ殿も」
もはや鎮圧を前提とした軍議で軍神の三柱が方針について話し合っている中で。
独神が、ふらつきながらやってきた。
輪廻しまくって瑠璃石を集め、その力で霊符を手に入れたことを知っていた面々は「どうせまた英傑が被ったのだろうな」と考えて一瞥すらしなかった。
この独神、より力を溜めて八傑を転生させる霊符ではなく秘儀「一血卍傑」の一番古い縁での強力な英傑を呼べる霊符ばかり使うのだ。八傑が転生すれば良し、しかし独神はいつも「とある英傑」狙いで産魂して既にいる英傑が産まれてしまう。
「聞いてください」
しかし、独神は軍議を止めてでも知らせなければならなかった。
「霊符で、カラステングが産魂されました」
――ああ、既にいる英傑だな。
そこまで考えて、複数名が気付いた。
カラステングは双代、産まれる鶺鴒台は桜代鶺鴒台。独神が霊符・剛で呼びたい英傑を産魂出来るのは、神代鶺鴒台のはずだ。
まさか産魂を行う鶺鴒台を間違えたか、輪廻に付き合わされたタケミカヅチの表情が曇る。
「――其の前に行った日課の産魂で、『光る君』が来ました」
場が、揺れた。
光る君。
人族英傑を統べる者、人族の中でも高貴で美しき者。
光る君――ヒカルゲンジ。
「か、からあげを」
締め付けられた喉から声を絞り出したのは、誰だったか。
「急いで経験値を上げるからあげを振る舞わないと!!」
絞り出したのに紡がれた言葉が残念すぎた。が、それだけの衝撃だった。
その場に控えていたミツクニが、紙と筆を探し始めた。「歴史が動いた!」と顔に書いてあった。
人族代表、そして楽士としての能力は八傑ウシワカマルに勝るとも劣らぬ者。
彼が奏でれば、英傑達は己の武器を十二分に引き出され、その音に魅了された敵は攻撃が鈍る。
むしろ今までいなかったという事実の方が重い、其れ程に重要な英傑なのだ。
「会話はすれども、縁は結べど実は結ばなかった二年近く……!」
「主君、ありがとう、ありがとう……!」
覚醒に必要な素材の量は、転身はどちらが適切か、考えるべきことは多々あれど、独神は今だけは喜びを分かち合いたかった。
苦節二年、ようやっとヒカルゲンジをお迎えできました。
楽士長者の同居人はあっさり手に入れていたのに、完全に難民でございました。
クシナダヒメ? いませんね。