今日はクリスマスイブ。

皆とわいわい騒ぐのもいいけれど

静かな夜に一人でそっと読みたくなるような、

蕗谷虹児(1898‐1979)の美しい詩画集「孤り星(ひとりぼし)」から

「小人魚のなげき」という作品を今回はご紹介します。

 

 

 

 

「小人魚の嘆き」

 

青い絹

透かして見るよな海底(うなそこ)に

とぅろりとろりとかぶりふる

昆布やわかめの園生のなかに

人魚の小人がすんでゐた

 

小人魚十四で背のたけ三寸

髪は金色(こんじき)珊瑚の唇(くち)に

真珠の肌が美しく

緑の子ひれがよう似合ふ

 

 

 

 

 

人魚の小人のなげくを聞けば

思へば、あたしの十のとき

あたしの寝床の桜貝

恰度よいのをさがしてくると

出て行ったきり帰らない

父様、母様どうしたろ

 

ぐるぐる渦に巻きこまれ

真黒(まっくろ)黒潮にさらはれて

氷の下の北極の

海へ流れて行ったのか

 

それとも聞くも恐ろしい

地獄のむかひの火の車

漁師の網に足とられ

人間地獄へ落ちたのか

たよりないとはたよりなや

 

 

 

 

 

人間こはや恐ろしや

男は海へ魚とり

女は家で魚切り

魚切り包丁恐ろしや

真赤な炎にやかれたり

わきたつ血の池恐ろしや

 

親のない子の淋しさは

大海原の一貝(ひとつかひ)

それよりさびしい孤りぽち

毎日泣いて泣き沈む

あはれな海の孤子(みなしご)に

 

もしも父さま返すなら

もしも母様返すなら

きっと御礼はいたします

 

赤い珊瑚のある場所も

貴い真珠のある場所も

あたしが案内いたします

きっと案内いたします

父様返して下さいな

母様返して下さいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孤り星」   蕗谷虹児:著

(文化社 1923年2月刊)

 

 

 

 

大正12年に刊行されたこの詩画集は

それまでに少女向け雑誌などに発表した作品に加え、

20編ほどの書き下ろし作品が収められています。

ご紹介した「小人魚のなげき」もそうですが

多くの詩が描くのは、少女たちの寂しげでもの悲しい心情。

読者の少女たちは、切ない思いでページをめくっていたのでしょう。

 

この本は箱入りで、本体の表紙も青い布地に金箔押しの美しい作りです。

(私の持っているのはだいぶ色褪せて、金箔もはげてしまっていますが)

当時こういった本を買えたのは裕福な少年少女で、

きっと“親のないみなしご”などという境遇とは無縁だったでしょうが、

どんな状況でも人はどこかで孤独を感じているもの。

そんな寂しい気持ちに、虹児の描く感傷的な詩と美しい絵は

ぴったりはまったのかもしれません。

 

私がこの詩を初めて読んだのは、弥生美術館で開催された

蕗谷虹児展でした。

題名から人魚の恋のお話かと勝手に想像していたのですが

両親を失ってしまうという、なんとも悲劇的なストーリー。

でも虹児の美しい絵が付くと、

どんな悲劇も甘やかで幻想的な物語に変わります。