コモ湖畔から帰宅したイレーネとボナール、セルジュの部屋へ立ち寄る
中ではセルジュがアスランの日記を読み、ジルベールが一緒にそれをみていた
コンコンとドアを叩くイレーネ
ジルベール「多分、イレーネとボナールだ……僕が開けるよ」
セルジュ「ありがとう」
満面の笑顔のイレーネとそれに付き添う穏やかな笑みを浮かべたボナールが入ってきた
イレーネ「ただいまっ!」
ボナール「よ、調子はどうだ?」
セルジュ「ありがとうございます……熱はまだありますが……おかげさまで」
ジルベール「(イレーネに)楽しかったか?ボナールとのデート」
イレーネ「うん、コモ湖で美味しいジェラート食べた!あと綺麗な夕日も見たの!」
セルジュ「すみません……何から何まで……」
ボナール「いやいや、お宅らのお姫様といると俺も楽しいから……な?」
イレーネ「うん!」
ジルベール「良かったじゃん……そうだ、ボナール……」
ボナール「何だ?」
ジルベール「僕のベッド……この部屋に運んでよ」
ボナール「(ニッとして)お安い御用だ……」
ジルベール、満面の笑み
イレーネ「ずっと一緒のお部屋で寝てたもんね…あ…でも……うつるようなことはしちゃダメよ……お兄ちゃんまで倒れたら尚更迷惑かけることになるもの」
セルジュ、内心ぎくりとする
ジルベール「お節介……熱くらいで人間死なないよ」
ボナール「まあまあ……喧嘩すんな……な?」
イレーネ「そうだわ!お薬、苦かった?」
セルジュ「う……うん、まあ(ジルベールに口移しされたことを何とかごまかそうと苦笑)」
イレーネ「じゃあお夕飯の後でデザートのミルクジェラート、持ってくるわ……お兄ちゃん、それにお薬混ぜてセルジュお兄ちゃんに飲ませて……これからあたし、お手伝いさんと作ってくるね!」
セルジュ「本当?ありがとう……嬉しいな……(よかった……毎回あれだと心臓止まりそうになるし……)」
ジルベール(余計なことすんなよ!)
ジルベール、イレーネの案に若干がっくりとする
イレーネ「どしたの?」
ジルベール「……別に」
ボナール「じゃあ行くか……イレーネ」
イレーネ「うん……夕飯の支度出来たらまた呼びにいくね!」
ボナール、イレーネ、去りセルジュとジルベールの2人に戻り、引き続き2人でアスランの日記を読む
厨房
イレーネが料理人のチェンらの手解きを受けながらジェラートを必死に混ぜている
セルジュの部屋―――ほどなくしてジルベールの部屋のベッドが使用人によって運ばれ、2人は礼をいう
アトリエ
製作に励むルノーの元にジルベールのベッドを運ばせ終わったボナールが入ってくる
ルノー「お帰りなさい……楽しかったですか?イレーネとのデートは」
ボナール「ああ……おまえも行きたかったか?」
ルノー「いえ……」
ボナール「さっきおまえ……ジルベールが生きていくには不適格な子だと言ったな……イレーネが成長するまで生きてたら奇跡だと……確かに15を過ぎたというのに背は低いし、まだ声も高い……オレにとっては理想だが……」
ルノー「ええ……放っといたら死にますよ……立派に生き抜くなんてジルベールには拷問でしかない……なのにイレーネの話とあの様子からして……セルジュはおそらく立派に生き抜くことを教えようとしている……それが人間としての本当の愛し方なんだろうけど……彼は父親じゃない……今は確かに昔と比べて明るく輝いて見えるけど……あれではまるで一夜にして咲いて散る……」
ボナール「月下美人のようなもの…か……?」
ルノー「(頷く)何より……」
ボナール「何より?」
ルノー「ジルベールは愛という水を与えられてのみ生きられる花のような存在です……イレーネは彼のことを出会った頃より兄らしくなった、男らしくなったと言ってましたが……元々愛を与えられてのみ生きられるジルベールが誰かに愛を与えることじたい、彼自身を自ら殺しているようなものですよ……」
ボナール「そ……そりゃまたきついな」
ルノー「今は幸せかもしれませんが遅かれ早かれ、ひずみが出る……もしくは……そのことが彼の死を招くでしょう―――絵に書いたような不幸ですね」
ボナール、虚をつかれる