91 小さな幸せと悲劇の予兆~天使たちの休息⑧~ | きまぐれデイズ

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コモ湖畔から帰宅したイレーネとボナール、セルジュの部屋へ立ち寄る



中ではセルジュがアスランの日記を読み、ジルベールが一緒にそれをみていた

コンコンとドアを叩くイレーネ


ジルベール「多分、イレーネとボナールだ……僕が開けるよ」


セルジュ「ありがとう」


満面の笑顔のイレーネとそれに付き添う穏やかな笑みを浮かべたボナールが入ってきた


イレーネ「ただいまっ!」

ボナール「よ、調子はどうだ?」


セルジュ「ありがとうございます……熱はまだありますが……おかげさまで」


ジルベール「(イレーネに)楽しかったか?ボナールとのデート」


イレーネ「うん、コモ湖で美味しいジェラート食べた!あと綺麗な夕日も見たの!」


セルジュ「すみません……何から何まで……」


ボナール「いやいや、お宅らのお姫様といると俺も楽しいから……な?」


イレーネ「うん!」


ジルベール「良かったじゃん……そうだ、ボナール……」


ボナール「何だ?」


ジルベール「僕のベッド……この部屋に運んでよ」

ボナール「(ニッとして)お安い御用だ……」


ジルベール、満面の笑み


イレーネ「ずっと一緒のお部屋で寝てたもんね…あ…でも……うつるようなことはしちゃダメよ……お兄ちゃんまで倒れたら尚更迷惑かけることになるもの」


セルジュ、内心ぎくりとする


ジルベール「お節介……熱くらいで人間死なないよ」

ボナール「まあまあ……喧嘩すんな……な?」


イレーネ「そうだわ!お薬、苦かった?」


セルジュ「う……うん、まあ(ジルベールに口移しされたことを何とかごまかそうと苦笑)」


イレーネ「じゃあお夕飯の後でデザートのミルクジェラート、持ってくるわ……お兄ちゃん、それにお薬混ぜてセルジュお兄ちゃんに飲ませて……これからあたし、お手伝いさんと作ってくるね!」


セルジュ「本当?ありがとう……嬉しいな……(よかった……毎回あれだと心臓止まりそうになるし……)」


ジルベール(余計なことすんなよ!)


ジルベール、イレーネの案に若干がっくりとする


イレーネ「どしたの?」


ジルベール「……別に」


ボナール「じゃあ行くか……イレーネ」


イレーネ「うん……夕飯の支度出来たらまた呼びにいくね!」


ボナール、イレーネ、去りセルジュとジルベールの2人に戻り、引き続き2人でアスランの日記を読む


厨房

イレーネが料理人のチェンらの手解きを受けながらジェラートを必死に混ぜている


セルジュの部屋―――ほどなくしてジルベールの部屋のベッドが使用人によって運ばれ、2人は礼をいう


アトリエ

製作に励むルノーの元にジルベールのベッドを運ばせ終わったボナールが入ってくる


ルノー「お帰りなさい……楽しかったですか?イレーネとのデートは」


ボナール「ああ……おまえも行きたかったか?」


ルノー「いえ……」


ボナール「さっきおまえ……ジルベールが生きていくには不適格な子だと言ったな……イレーネが成長するまで生きてたら奇跡だと……確かに15を過ぎたというのに背は低いし、まだ声も高い……オレにとっては理想だが……」


ルノー「ええ……放っといたら死にますよ……立派に生き抜くなんてジルベールには拷問でしかない……なのにイレーネの話とあの様子からして……セルジュはおそらく立派に生き抜くことを教えようとしている……それが人間としての本当の愛し方なんだろうけど……彼は父親じゃない……今は確かに昔と比べて明るく輝いて見えるけど……あれではまるで一夜にして咲いて散る……」


ボナール「月下美人のようなもの…か……?」


ルノー「(頷く)何より……」


ボナール「何より?」


ルノー「ジルベールは愛という水を与えられてのみ生きられる花のような存在です……イレーネは彼のことを出会った頃より兄らしくなった、男らしくなったと言ってましたが……元々愛を与えられてのみ生きられるジルベールが誰かに愛を与えることじたい、彼自身を自ら殺しているようなものですよ……」

ボナール「そ……そりゃまたきついな」


ルノー「今は幸せかもしれませんが遅かれ早かれ、ひずみが出る……もしくは……そのことが彼の死を招くでしょう―――絵に書いたような不幸ですね」


ボナール、虚をつかれる