台湾密航失敗 当局の監視強化でルートは途絶

 
 
 
 

【香港=藤本欣也】

 

香港の民主活動家ら12人が台湾に密航しようとして失敗、中国当局に拘束された事件から10日。ベールに包まれていた南シナ海の密航ルートが明らかになってきた。7月には台湾への密航が成功したこともあったが、最近は中国と香港の海上警備が一層厳しくなり、香港・台湾の密航ルートは途絶しているのが現状のようだ。

 香港南東部、布袋澳(ほていおう)村。鉄道とバスを乗り継いだ先にある小さな漁村が12人の出港地点だった。

 中国政府に近い香港紙、文匯報(ぶんわいほう)と大公報によると、8月23日午前6時すぎ、何台もの車両が同村に乗り入れ、約30人が降り立った。十数個の燃料タンクを船着き場まで運び、長さ9・3メートル、幅2・3メートルの大型モーターボートに積んで、12人が乗り込んだ。

 船外機2基搭載の同ボートの最高速度は時速50キロとされ、まずは約300キロ離れた東沙諸島を目指したという。同諸島は台湾が実効支配しており、そこまで行けば何とかなると考えたのか、別の船に乗り換えて台湾に向かう計画だったのかは分かっていない。

 しかしモーターボートは午前9時ごろ、中国領海付近の海域で中国海警局の船に見つかり、12人は不法越境の疑いで拘束された。

 香港はかつて、1989年の天安門事件直後、ウアルカイシ氏ら中国の民主活動家が命がけで中国本土から密航してきた自由の地だった。今や、その香港から民主活動家らが逃げ出さなければならない時代になったことを、今回の事件は象徴的に示している。

 香港国家安全維持法(国安法)が施行された6月30日前後から、民主活動家らが海外に逃亡するのを水際で阻止するため、中国と香港当局が海上での警戒態勢を強化していたもようだ。布袋澳村の住民で、観光用モーターボートを操縦している男性は「最近、香港の水上警察の警備が厳しくなっていた」と明かす

 

 

実は、7月にも少なくとも2回、民主活動家らが船に乗って香港から台湾へ密航を試みている。

 台湾と香港メディアによると、1回目の密航船は5人ほどを乗せて、南シナ海を横断し台湾南部の高雄まで何とかたどり着いた。

 しかし2回目は途中で燃料が尽きて漂流。東沙諸島付近で台湾当局の船に捕まり、乗っていた5人は高雄まで移送された。支援者の一人は産経新聞に対し「本当に危ない状況だった」と話す。昨年の反政府デモで暴動罪で起訴された若者も含まれているという。

 中国系香港紙、文匯報などによると、中国当局に拘束された12人(女性1人)は16~33歳で、このうち5人が学生。国安法違反(外国勢力との結託)の疑いで逮捕された民主活動家の李宇軒氏や、昨年の反政府デモで爆弾の製造に関与した男女、暴動罪などで起訴された若者らが含まれている。

 国安法の最高刑は終身刑で暴動罪は禁錮10年だ。警察当局による民主派勢力への締め付けが強まる中、保釈が認められても、いつ再拘束されるか分からない。

 文匯報は「10人以上で密航を企てるのは非常に珍しい。ハイリスクを冒さなければならないほど、切羽詰まっていたためだ」との見方を示している。

 密航には犯罪組織が関与するケースが多い。香港メディアによると、警戒が厳しくなった最近、香港から台湾までの密航のアレンジ料が急騰し、一人50万香港ドル(約680万円)以上という。12人が支払っていたのかは分かっていない。

 12人は中国広東省深●(=土へんに川)の拘置施設に収容され、取り調べを受けている。不法越境罪の最高刑は1年未満の懲役刑。国安法違反の疑いで逮捕された李氏の場合、中国側で捜査が継続される可能性も取り沙汰されている

 

 

https://www.sankei.com/world/news/200902/wor2009020028-n2.html