生きる伝説 彼が“最後のクマ猟師“ 東京の19歳若者 弟子入り 北海道




「伝説の猟師」と呼ばれる男性が北海道にいます。久保俊治さんです。命懸けでクマと対峙する久保さん。

 2017年春、東京から19歳の若者が弟子入り。野生のクマを追う2人の挑戦に密着しました。
“生きる伝説“ 彼が最後のクマ猟師
 静寂な山に聞こえる息遣い。たった1人、鉄砲一丁で野生と向き合う、伝説の猟師、久保俊治さん(70)。

 久保さん:「食べるためです。生きてた価値を、本来俺が撃たなければもっと生きられたはずが、そこで命を絶つわけですね」

 「最後の羆(クマ)撃ち」と呼ばれる久保さん。若い頃から約50年、山でクマを追い続けてきました。

 久保さん:「クマ1頭というのは、シカ200頭以上に価値と言えばおかしいですけど」

 妻に先立たれ、子どもも既に独立。70歳となった今、孤高のハンターが弟子にしたのは、東京都からやって来た19歳の若者でした。

 久保さん:「(クマが)近いぞ」

 残された人生で、「本物の猟師」を育てたいという男の想い。それに応えようとする若者。

 久保さん:「禄太みたいなやつじゃないと、こっちも合わないから。合わないのは切ない」

 伝えたいのは猟師の魂。二人の挑戦が始まりました。

東京からやってきた19歳の弟子
 北海道標津町。大自然の中に、ぽつりと久保さんの家があります。

 弟子の関口禄太さん(19)です。2017年の春から久保さんの家に住み込み、飼っている馬やシカの世話。さらに、家事を一人でこなします。

 猟師の道を決意したのは、久保さんの本と出会ったからです。

 関口禄太さん:「『羆撃ち』はなんか、中学校2年生のときに学校の行き帰りもずっと読んでました。すごい読んでいて、鮮明に映像がわき出る本じゃないですか。久保さん自体に憧れはあります」

久保さん50年の猟を“伝授“
 久保さんのクマ猟は、痕跡を頼りに山を歩き、間合いを詰めるのが特徴。

 知床が雪に包まれ、冬眠に入ろうとするクマの足跡が残るこの時期。久保さんにとって待ちに待った猟のシーズンです。

 久保さん:「笹の雪が全部通ったところが落ちているはず。それを見ながら」

 車でクマの痕跡を探し続けて一時間。久保さんが急に車を止めました。

 佐藤創記者:「クマですか?」

 久保さん:「大きい声出さない。もうこういう状態になったら」

 幅20センチを超えるオスの巨大グマの足跡。いっきに高まる緊張…。

 さらに足跡を追います。




恐怖との闘い
 久保さん:「うん。よし、禄太、お前、そこの沢、30分だけ登って見てこい」

 関口さん:「はい」

 禄太さんをひとりで行かせたのには理由があります。

 久保さん:「なんとなくおっかない(怖い)はずなんですよ。自分で探して足跡とか見つけてこれるようにならないと、どうしても、遅くなるんです」

 佐藤記者:「遅くなるとは?」

 久保さん:「(猟を)覚えるのが」

 恐怖との闘い。これも一人前の猟師になるための試練です。

 クマは沢伝いに山奥へ。日没が迫ったため、この日の追跡は終了です。家に帰ると…。

「動画撮ったんです」
 関口さん:「動画撮ったんです」

 久保さん:「何の動画? ああ、沢のか」

 関口さん:「はい」

 久保さん:「足跡も撮ってきた?」

 関口さん:「はい。(クマの体が雪に)ずっとすれてるんです」

 スマートフォンの映像を見せる弟子に、伝説の猟師もびっくりです。

 久保さん:「そんなに差はない。しっかし今の世の中、便利だな」

普段の生活 すべてが山につながる





 佐藤記者:「何を作っている?」

 関口さん:「鹿汁を」

 佐藤記者:「実家で料理をしていたんですか?」

 関口さん:「いや、ぜんぜん」

 佐藤記者:「久保さんに教わったんですか?」

 関口さん:「はい。高校の時、寮だったので、なおさら」

 普段の生活がすべて、山につながる。これが久保さんの教えです。

「漫然と見るな、俺の目線を追え」
 翌日午前、猟が再開されました。

 久保さん:「漫然と見るな、俺の目線を追え、ばかたれ。(クマが)近いぞ」

 沢を登って2時間。ついにクマの気配が…。

 久保さん:「この斜面の笹のところゆっくり見ててくださいね。笹から(クマが)顔出すこともあるから」

 木々が揺れクマが動いているようにも見えます。

 久保さん:「こっちに行っている」

 斜面を登る足跡が。

 久保さん:「禄太、これ上がってそこから見れ」

 監視役として禄太さんを斜面の反対側に。久保さんは自ら足跡を辿り、クマを追います。

 久保さん:「バーカ。お前、動いたってしょうがねーべや。足跡どっち行っているんだって言ってんだ」

 最後の最後、追い詰めたはずのクマの痕跡が全く無くなり、動きが読めません




「ダメだ 死んでしまう」
 久保さん:「ダメだ。万が一何かあったら、いっぺんに死んでしまうからな」

 クマとの距離が近すぎて、どこから狙われるかわからない状況。危険を感じ、沢へ戻る決断をしました。

 久保さん:「禄太、禄太」

 何度呼んでも禄太さんが姿を見せません。

 久保さん:「禄太、声出させるなよ本当に」

 不気味な山の静寂…。久保さんが銃に手をかけ周囲を警戒します。

 久保さん:「ちっ、バカかお前。何でそんなところから来るんだ。クマみたいな歩き方しやがって」

 反対斜面にいたはずの禄太さんが久保さんの後を追いかけて来ていました。

 久保さん:「バカたれめ、なんでここ下りて待ってないのよ。禄太、明日一人で来て(クマを)一生懸命探すんだ」

 関口さん:「春まで帰って来れないです」

 久保さん:「春まで帰ってこなくていいから」

「何かをつかみたいという気持ちがあれば」
 こうしてこの年の猟を終えました。失敗もありましたが久保さんは禄太さんの成長を感じています。

 久保さん:「どこでも通用する、あの素直さだと。何かをつかみたいという気持ちがあれば」

 2018年も、二人はクマを追います。

UHB 北海道文化放送




最終更新:1/19(金) 11:03
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