もはやポータブルの領域を超えた? CHORD「Hugo 2」のサウンドを初代と比較試聴




山本 敦







ハイエンドオーディオの技術をバックボーンに、独自のコンセプトで高品位なポータブル製品を送り出すCHORD。その象徴的な製品であるポータブルDAC「Hugo」が、第二世代機となる「Hugo 2」へと進化した。最新機の仕様と音質をくわしく探っていこう。

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CHORD「Hugo 2」(価格は現時点で未定。発売日も未定だが、5月を予定している)

高品位なポータブル製品を送り出すCHORDから最新モデルが登場

英国のCHORD ELECTRONICSから最新のヘッドホンアンプ「Hugo 2」が登場した。前機種「Hugo」と比べてどこが変わったのか。その実力をうまく引き出すテクニックなども含めて、検証してみよう。

CHORDは独自のスイッチング電源技術、そしてカスタムメイドのアルゴリズムを組み込んだオリジナルDACを特徴とするハイエンド・オーディオブランドとしてスタートした。2009年には、デスクトップサイズのChordetteシリーズを発表。USB-DACやBluetoothの革新を意欲的に採り入れるなど、トレンドにも柔軟に対応しながら発展を遂げてきた。

そのCHORDが2014年3月に発売した初のポータブル製品が「Hugo」だ。DAC部の設計を担当したのは、もちろん、1998年に発売された最初のD/Aコンバーター「DAC64」から同社製品の開発に関わってきたロバート・ワッツ氏。自由な書き換えができるICチップ「FPGA」に、膨大な処理を実行する独自アルゴリズムを書き込むことをベースとした独自のD/A変換をポータブル機で実現したこと、そして何より「Hugoにしかだせない音」が大きな評判を呼んだ。
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「Hugo」(左)と新モデル「Hugo 2」(右)

ワッツ氏の唱える理論は高度かつ難解なものだが、つまりは既成のDACチップには頼らず、聴覚心理なども踏まえた独自アルゴリズムで膨大な処理を伴うD/A変換を実現させているということだ。ここに、CEOのジョン・フランクス氏が得意とするスイッチング電源やアナログオーディオ回路設計がノウハウを組み合わされている。

初代HugoはDACとしての音の良さから、ヘッドホンだけでなく、据え置きオーディオに組み込んで使われるケースも多かった。しかしHugoはポータブルユースを想定して開発された製品だったため、背面コネクターの配置間隔が狭かったりと若干使いづらい部分もあった。

そのため、据え置き用途を前提にしてXLRバランス出力も搭載した「Hugo TT」が2015年に発売。続く2016年の春には、D/Aコンバーターの新しいフラグシップモデル「DAVE」が誕生した。
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据え置き用を想定した大判モデル「Hugo TT」
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D/Aコンバーターのフラグシップモデルである「DAVE」

DAVEでは究極のD/A変換を実現するため、Hugoの約10倍ものパフォーマンスを持つFPGAが搭載された(ちなみにHugoはポータブル機ながら、当時の旗艦DACを大きく超える処理能力を備えていた)。D/A変換のプログラム設計はもちろんワッツ氏によるもの。高精度なノイズシェイバー回路も備え、デジタルオーディオの領域を超える自然なリアリティを備える音楽再生は、ハイエンドオーディオファンの間でも話題になった。

DAVEの少し前に登場したポケットサイズのDAC内蔵ポタアン「Mojo」についても触れておこう。本機はポータブル再生に最高の音質を提供できるリファレンスとして、2015年秋の発売以来ロングセールスを続けている。
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ポケットサイズのDAC内蔵ポタアン「Mojo」

このようにCHORDが究極の音楽再生を追い求めて、先進の英知によって踏み固めてきた大地の上に、また新しい歴史を打ち立てるべくして生まれたニューモデルが「Hugo 2」なのだ。

新機種のHugo 2は、初代Hugoと比べてどこがちがうのか。スペックの詳細は(Phile-webニュース)を、技術面については先行して掲載された(開発者インタビュー)を参照にしていただくとして、本稿ではより実践的なハンドリングによりそれぞれの違いを浮き彫りにしてみようと思う。



コンパクトサイズはそのままに操作性や接続性が向上

本体のシャーシ素材には、初代に続いて航空グレードのアルミニウムが使われている。サイズを比べてみてもほとんど変化は感じられないが、初代Hugoはコーナーが緩やかに面取りされているのに対して、Hugo 2はより鋭くシャープな印象になっている。
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新モデル「Hugo 2」(上)と「Hugo 」(下)

様々な色に発光するガラス玉のような操作ボタンが増えたことも、印象を変えている。ランプが発光する色によって電源や音量のステータスがわかるほか、入力ソースのサンプリングレートやファイルの種類、デジタルフィルターやクロスフィードの選択状態もわかりやすくなった。ちなみに初代Hugoは、本体の側面に配置した小さなボタンで切り替える仕様だった。

クロスフィード機能については、DSP処理によってヘッドホン再生時の頭内定位を前方に移す効果が得られるというもので、非選択状態も含めて4段階で切り替わる。こちらは初代Hugoにも載っていた機能である。

現行の最高フォーマットに対応。将来の機能拡張にも期待

デジタルオーディオ入力はmicro USBを1系統のほか、3.5mm同軸デジタルと光デジタルを備えた。aptX対応のBluetoothによるワイヤレス再生も楽しめる。USB入力は、PCMが768kHz/32bit、DSDは22.4MHzと現在最高峰のフォーマットをサポートする。Bluetooth再生もHugo TTで機能改善を図ったノウハウを踏襲、約10mの距離でも安定した通信ができるようにアンテナ精度を改善している。
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HugoはmicroUSB入力を出力スペック別に2系統搭載したが、Hugo 2では1系統のみの搭載。別途充電用のmicroUSB端子を備える

ヘッドホン出力端子は初代Hugoと同じ6.3mmと3.5mmを1基ずつ。初代Hugoと同じくアナログRCAのライン出力端子も搭載しているので、据え置きタイプのHi-Fiコンポーネントにつないでスピーカーリスニングも楽しめる。
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ヘッドホン端子は標準/ミニの2系統を搭載。RCAのライン出力も備える。端子間のスペースなどレイアウトも良くなっている

なおヘッドホンのバランス出力には対応していない。筆者は以前、フランクス氏にMojoがバランス出力に対応しない理由を訊ねたところ「そもそもシングルエンド接続でも非常にノイズフロアが低く、出力もハイパワーが得られるので不要。それよりも基板の大型化や搭載部品の点数増大を避けることで、本体を小さくすることを優先した」と説明していた。基本的な立ち位置が“ポータブルオーディオ”であるHugo 2にも同じ思想が貫かれたのだろう。

なお入出力インターフェースの反対側面には2つのUSB端子が搭載されている。初代のHugoもふたつのUSB端子を搭載していたが、Hugo 2では音楽データ入力用は片側だけで、もう片側は充電専用になる。Mojoも同様の役割を持つ2つのUSB端子を本体に搭載しているが、これを活用する提案として機能拡張モジュールの「Poly」が発表されている。Hugo 2についても同様の仕掛けが用意されているようなので楽しみだ。
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ふたつのUSB端子を用意。Polyのような機能拡張モジュールの登場も期待される

独自設計のデジタルフィルターは精度が約2倍に増強

CHORDのD/Aコンバーターにおいて重要な役割を担うのが、ワッツ氏が設計した「WTA(Watts Transient Aligned)フィルター」と呼ばれるデジタルフィルターだ。その精度は初代のHugoが26,368タップ(タップは演算処理性能の指標)であったのに対して、Hugo 2では約2倍となる49,152タップに増強された。タップ数が増えることでノイズフロアを下げて、クリアで正確な音楽再生が可能になる。入力された音声信号に対するインパルス応答特性の向上にもつながるのだとワッツ氏がその効果を以前インタビューした際に説いていた。
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CHORD ElectronicsでDAC開発を手がけるロバート・ワッツ氏

このWTAフィルターによる処理を正確に駆動させるため、Hugo 2のFPGAには208MHzで並列動作する45個のDSPコアプロセッサーが内包されている。さらに周波数16FSのWTAフィルター(1次)の後段に256FSのWTAフィルター(2次)を備えて、ノイズを極限まで抑えながら81ナノ秒というタイミング精度が非常に高いD/A変換処理を行う。

新搭載されたデジタルフィルター機能では、この2種類のWTAフィルターに加えて、88.2kHzを超える高域成分の特性を整える「HFフィルター」を追加。このHFフィルターのオン/オフを互い違いに組み合わせた4通りから好みの音が選べるようになっている。LEDの点灯色によって判別できるフィルターの種類は「白=1次WTA+2次WTA」「緑=1次WTA+2次WTA+HFフィルター」「オレンジ=1次WTA」「赤=1次WTA+HFフィルター」となっている。




まずはヘッドホンと組合せ。より繊細で質感滑らかなサウンドに

Hugo 2の試聴は音元出版で行った。ヘッドホンにはAstell&Kernの「AK T1p」を用意して、MacBook AirとAudirvana Plus 3との組み合わせをUSBケーブルでつないだ。初代Hugoとも聴き比べている。試聴の楽曲にはMISIAのアルバム「星空のライヴ SONG BOOK HISTORY OF HOSHIZORA LIVE」から『Everything』を聴いた。
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Astell&Kernの「AK T1p」と組み合わせて試聴

観客のざわめきに吸い込まれるような解像感と音の密度。エレキピアノのふくよかなトーンが浮かび上がる。ボーカルの声はクールな透明感が強く反映されるところがHugo 2の特徴。比べて聴くと初代Hugoのボーカルはより輪郭線がはっきりとしていて、ストレートにぶつかってくる。Hugo 2の輪郭線はより繊細で質感もなめらか。ビブラートのゆらぎが視覚的にも伝わってくるように感じられるほど情報量が豊かだ。

低音は打ち込みが鋭く、奥行き方向への見晴らしがまた一段と上がっている。ベースラインの立ち上がりが鋭く筋肉質。バスドラムのタイトなキックの音が素速く、深く沈み込む。ハーモニーが軽やかにほぐれてリズムの粒立ちもいい。ただ、初代Hugoのウォームで分厚いアタック感にもやはり魅力がある。

4種類のデジタルフィルターは、「白=1次WTA+2次WTA」の状態がHugo 2のリファレンスであるようだ。俊敏さとスピード感、ボディの肉付きのよさとバランスが整っている。入念に音づくりを練り上げた印象だ。基本的にはこのフィルターを基準に他のリスニングシーンをアレンジしていく使い方がベストだと思う。

フィルターを全部入りのグリーンに切り替えると、声の稜線がより鮮明に浮かび上がり柔らかな余韻に包まれる。音像も一段と間近に迫ってくるようだ。オレンジのフィルターに切り替えると中低域の厚みとしなやかさが増してきた。最後に赤色のフィルターに切り替えると、リズムの鮮鋭感にインパクトの力強さも乗ってくる。

Hugo 2ではヘッドホン出力が強化されたことによって、初代Hugoに比べて音の歪みもより低いレベルに抑えられている。また、ハイインピーダンスのヘッドホンも軽々とドライブできる余力も備えている。ゼンハイザーの「HD800」(300Ω)をつないで、同じMISIAの楽曲を聴いてみた。十分な音量を取れることは当然として、ボリュームをそこまで上げなくても、繊細なニュアンスの変化にフォーカスを当てつつ、同時に音楽の芯に宿るエネルギーをぐいぐいと引き出してくる。雑味のないクリアな高域が味わえるのもこの組み合わせの醍醐味。しなやかなボーカルの艶を自然な臨場感とともに描き切る。
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Hugo 2にゼンハイザー「HD800」を組み合わせたところ

初代Hugoでは一部、高能率のカスタムIEMなどと組み合わせた場合における残留ノイズの存在を指摘する声もあったようだ。CHORDではこうしたユーザーの声に耳を傾けて、アナログアンプ回路の設計を見直して改善を図った。その成果はMojoやDAVEなどのコンポーネントを経てHugo 2にも投入されている。感度の高いインイヤーモニターで新・旧Hugoの性能を比べてみると、その成果はなおよくわかった。

スピーカー再生で改めて見せつけられた、Hugo 2のポテンシャル

最後に音元出版試聴室のリファレンスシステムをHugo 2で鳴らしてみることにした。楽曲は川本真琴のアルバム「ふとしたことです」から『1/2』を聴いた。

Hugo 2のサウンドをスピーカーで聴くと、きめの細かさと空間再現性が圧倒的に高まっていることがさらに明らかに見えてくる。ボーカルの声に上品さと成熟した色香を感させる。バンドの楽器の音との分離感も高まり、ボーカルの音像定位は一歩下がったようなイメージが浮かんでくる。温かく心地よいサウンドにゆっくりと包まれながら、楽曲の歌詞が2番に到達したころあたりで瞬時に熱気がピークに達した。
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Macbook Airをソースに音元出版のリファレンスシステムで試聴

対する初代Hugoのサウンドは、若葉のような初々しさのあるボーカルが魅力的である。歌い手や楽器の演奏者との距離感がより近い印象で、ボーカルの吐息に触れるような密着感も伝わる。しかし、Hugo 2のサウンドと比べてしまうと、解像感には明かな差があり、その音場も平板にも感じられる。

ビビッドな色の絵の具をキャンパスにたたきつけるようなダイナミックな表情を持っているのが初代Hugoなら、広いキャンパスをいっぱいに使って、緻密なデッサンを描くのがHugo 2のサウンドと言えるだろう。

Hugo 2が備える音は、もはやポータブルかどうかという領域で語るものではなくなっている。初代Hugoの時点でこうした評価はすでに確固たるものとしていたが、Hugo 2ではそのサウンドをさらに先へと進化させた。Hugo 2には旗艦DAC「DAVE」で得た成果を投入したという言葉は、音を聴けば納得できる。DAVEのサウンドに惹かれつつも、価格的に手が届かないいう方がいるならば、一度Hugo 2の音を確かめてみるのもいいだろう。



初代Hugoの登場は、ポータブルオーディオのポテンシャルを従来のオーディオファンにまで見せつけた。そしてHugo 2は、その到達点をさらに先まで易々と押し進めてしまった。ヘッドホン再生はもちろん、USB-DACとしても、Hugo 2の再生能力は突出している。オーディオ史に名を刻むであろう「新しいHugo」が誕生した喜びを、多くのファンと分かち合いたい。

(山本 敦)


特別企画 協力:アユート