2輪の名門「ヤマ発の4輪」は何が新しいのか

1~2人乗りの超小型モビリティを検討


宮本 夏実 :東洋経済 記者

http://toyokeizai.net/articles/-/101035
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2015年の東京モーターショーで、ヤマハ発動機が展示した4輪試作車(撮影:鈴木紳平)


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2009年度にはリーマンショックの影響により、2161億円の最終赤字に転落したヤマハ発動機(ヤマ発)。コスト削減効果や先進国の景気復調によって2015年度は過去最高水準の営業利益1250億円を見込む。
業績はV字回復を果たしたが、「2輪とマリンでは残っていけない」(柳弘之社長)という危機感のもと、新規事業の立ち上げを検討している。新規事業候補の一つとして期待される4輪事業について、参入への本気度を柳弘之社長に直撃した。
 
――東京モーターショーでは2013年、2015年と続けて4輪試作車を展示した。なぜ今になって4輪参入なのか。
2輪から3輪バイクへとモビリティを広げてきたので、2輪、3輪と来れば次は4輪になる。自動車用エンジンは1967年に「トヨタ2000GT」の開発・生産に参画して以降、技術の蓄積がある。自動車の骨格については技術の蓄積はないが、ゴードン・マレー・デザイン社が開発した小型で低コストの車体を使うつもりだ。
既存の自動車ビジネスに参入してもうまくいくとは思えない。2輪技術を応用してヤマ発らしい面白い4輪ができるという前提がある。大掛かりな生産体制を敷かずに、少ない投資で4輪の生産・販売ができるような新しいビジネスモデルを考えている。

1~2人乗り超小型4輪の開発を検討

――4輪参入はどのエリアを想定しているのか。
欧州が第一の候補だ。1~2人乗り超小型4輪の市場がすでに100万台規模になっている。人口の高齢化や交通規制の強化で、都市の超小型モビリティは多様化していく。こういう未知の市場にはチャンスがある。
都市モビリティが抱えている課題の解決策は、局面によって異なる。たとえば、東京の真ん中でベストな移動手段はひょっとすると4輪ではなく2輪か3輪バイクかもしれない。もしその解決策が4輪だとなったときに対応できるよう、開発を進めているところだ


4輪参入に関して、社内に反対意見はないのか。
4輪がヤマハ発動機にフィットするかどうかを検証している段階で、4輪をやると決定したわけではないので反対はない。ただ、次のビジネスを探さなければいけないという見解では社内で一致している。
新規ビジネスの候補には、4輪や3輪バイクといったモビリティや、マリン事業の多角化、ロボティクスなどの要素技術開発など、4つの領域を考えているが、いずれは事業化の可能性が高いところに資源を集中させる。3年後の2019年から具体的な行動に移せるようにするには、1年半後くらいにはどこに資源を集中させるか結論を出さなければいけない。

2輪でも安全性への期待値が高まってきている

――2輪車を自律運転するヒト型ロボット「MOTOBOT(モトボット)」を開発した。このヒト型ロボットの技術は、どのように事業に活かすのか。
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過去最高水準の業績に回復したが、「2輪とマリンでは残っていけない」と危機感をあらわす柳社長(撮影:今井康一)



4輪で運転支援システムへのニーズが高まってきているのと同じように、2輪でも安全性への期待値が高まってきている。ロボットプロジェクトからライダーの運転支援に使う技術を見つけたい。
今のモトボットは角度を15度くらい傾けても自律して走行できる。4輪の動きは基本的には左右と前後の2次元だが、2輪は傾きなどの動き方を含めて3次元の動きをするので、2輪よりも難しい制御技術が必要になる。
モトボットの技術は最新のスポーツバイク「YZF-R1」などに活かされているが、4、5年後にはハイエンドモデルに限らず、小さいバイクやスクーターにもライダー支援の技術を搭載していきたい。


――事業柱である2輪事業にも課題は残っている。ヤマ発の2輪事業の営業利益率は2.3%。世界シェア首位のホンダは9.9%(2014年度)と、大きな差がある。
ホンダは、数が出る新興国向け2輪でスケールメリットを活かせている。加えてホンダの方がコストダウンの取り組みが進んでいる。ここにヤマ発の課題がある。しかし、ボリュームの戦いをしなくとも、ここ数年のコストダウンの取り組みに磨きをかけることで7、8%の利益率を目指していくことは可能だ



コスト削減の方法のひとつにプラットホーム(車台)の共通化を挙げている。
ヤマ発はエンジニアリングの意向が強いため、昔はモデルごとに新しい車台やエンジンを作っていた。それでも上手くいっていたのは昔の話で、今は新興国市場も成熟しつつあり、お客さんの好みも多様化している。色々な商品をまったく違うプラットホームから開発すると効率が悪い。そこで高い技術が必要な基本プラットホームの開発は日本、手間がかからない外観や細部の変更は現地のR&Dが担当するという役割分担をしている。こうすれば開発にかかる時間とコストを削減できる。
例えば、ベトナムの女性はハイヒールで2輪のシートに座ったときに、他人から見て綺麗に見えるかを気にするが、同じアセアンでもインドネシアはそうしたニーズはない。プラットホームを共通化すれば、このような細かいニーズの違いに応えやすくなる。

3輪バイクも4輪も手掛ける面白い会社にする

――ヤマ発が得意とするのはハイエンドモデルの2輪。利幅の大きい高級車種に絞ったほうが収益性は高まるはずだが、低価格モデルも継続して生産していくのか。
今ある販売網を維持していくには上から下のモデルまで揃えておく必要があるので、低価格の50ccモデルも必要。これはヤマ発に限らず、ホンダやスズキにも当てはまる。長期的には棲み分けができて、得意なところに絞り込んでいくかもしれない。
――2輪の収益性改善と並行して、新規事業の足掛かりを築くことが今後3年間の課題になる。
2018年度に売上高2兆円、営業利益率10%の達成が視野に入ってくることが第一の目標だ。その中から新規ビジネスを立ち上げる土台作りをして、うまくいけば2019年以降にスタートさせる。これからの3年間で、2019年以降の成長の絵柄を描いていきたい。
自動車メーカーは自動車しかないから、あまり面白くないでしょう。うちには2輪以外にも3輪バイクもあるし、4輪参入の可能性もある。「新しいことが始まるぞ」という予感がするようなもっと面白い会社にしていきたい