あの“世界初”モデルが更なる進化を遂げて登場

【速攻レビュー】

オーディオテクニカ「ATH-CKR100」:イヤホン離れした広大な音場再現とリアルサウンド




岩井 喬


PhileWeb




2つのドライバーを対向配置する“世界初”機構「DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERS」を搭載したCKRがデビューしたのは2014年。これまでのイヤホンを一新するようなサウンドは、リスナーに鮮烈な驚きを与えた。それから約2年。さらなる進化を遂げ、ハイレゾ対応も果たした“Sound Reality”シリーズとして、6月17日に登場する(関連ニュース)。今回Phile-webでは「ATH-CKR100」「ATH-CKR90」をいちはやく入手。岩井喬氏、高橋敦氏によるレビューをお届けする。
高橋 敦氏による「ATH-CKR90」レビューはこちら

http://www.phileweb.com/news/photo/review/20/2088/IMG_1783_thumb.jpg
「ATH-CKR100」¥OPEN(予想実売価格40,000円前後)6月17日発売

素材や機構の工夫で音質は更なる進化を遂げた。
ハイレゾ音源の魅力をストレートに引き出す新モデル


製品ベースで世界初となる「DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERS」を搭載し大きな話題となった「CKR」。特にそのトップエンドモデルである「ATH-CKR10」のサウンドは、ダイナミック型の枠を超えたリアルな音像の実像感と、高密度でありながらキレ味の良さも兼ね備えた、これまで体験したことのない次元のものであった。ATH-CKR10とともにDUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERSを積んだATH-CKR9を含め、この手法の優位性は多くのリスナーを“虜”にし、改めてオーディオテクニカのイヤホン作りの技術力の高さを世に知らしめたのである。

それから2年が経過し、「DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERS」を搭載した新モデル「ATH-CKR100」が誕生した。

同一規模の純鉄ヨーク採用Φ13mmダイナミック型ドライバーを2発、振動板が向かい合うように配置したDUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERSは、新設計された「DUAL PHASE PUSH-PULL〈Hi-Res Audio〉DRIVERS」として搭載されている。

今回のリニューアルで大きく変化したのは、不要共振を排除する高剛性なチタンハウジングのフォルムと音質や耐久性、そしてメンテナンス性の高い同社独自のA2DCコネクターを用いたケーブル着脱式仕様となった点だ。ハウジング構造としてもよりシンプルなものとなっているようであるが、チタンならではの渋い光沢を生かし、すっきりとした流麗なフォルムを持たせることでよりスマートさを際立たせている。
http://www.phileweb.com/news/photo/review/20/2088/IMG_1737_thumb.jpg http://www.phileweb.com/news/photo/review/20/2088/IMG_1731_thumb.jpg
オーディオテクニカ独自の「A2DC(Audio Designed Detachable Coaxial)」コネクターにより、リケーブルにも新対応。アルミニウムスタビライザー(写真・金色のリング部)により、高いレスポンス性能を獲得したという

またハウジング前後の接合部には前後直進運動を向上させるアルミニウムスタビライザーを新たに設け、これまで以上に高いレスポンスを実現し、より原音に忠実なサウンドを獲得したという。ケーブルは左右独立のスターカッド撚り線構造としており、低ノイズな信号伝送を行っている。

ここでDUAL PHASE PUSH-PULL〈Hi-Res Audio〉DRIVERSについて、軽く解説しておこう。正確な対称性を持つ2つのドライバーを向かい合せに設置し、プッシュプル動作(一方が逆位相動作)させることで相互変調を抑え、広帯域再生を実現させている。1つのドライバー間にある空間が一つの振動板として機能しているかのように捉えることができ、駆動力の強化と優れたリニアドライブ(前後直進運動)の向上に繋げ、広い帯域で歪みのないリアルなサウンドを生み出すことができるのだ。

一般のドライバーは振動板の裏側だけに磁気回路を設けているので、押し出す際と引き戻す際の動きが必ずしも同じではない。DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERSでは引き戻す時の動きを対向配置されたドライバーの押し出す動きでサポートし、理想の振動運動を実現させているのである。DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERSはダイナミック型ならではの密度感や素直な音色傾向に加え、立ち上がり・立下りの素早い音離れの良さが持ち味であり、音場の透明感や自然な音像の佇まいの再現性を含め、ハイレゾ音源の持つ魅力をストレートに引き出してくれるのだ



イヤホンらしからぬ音場の広がりと階調表現は見事
数段格上の価格帯製品に劣らぬクオリティ


肝心のサウンドについてであるが、まずATH-CKR10と比較し、大きく改善したのが中低域の制動感の高さに伴う音像の引き締め効果の向上だ。定位もより明確でフォーカスの良さも格段に上がっている。低域の量感と引き締めの高さをバランス良く両立しており、空間の見通しの深さもより良く表現できているようだ。しかしモニター系ほどタイトすぎることはなく、伸びやかですっきりとした味わいのローエンドを聴かせてくれる。対する高域はほぐれ良く爽やかな傾向で、管弦楽器の旋律もS/N良く軽やかなタッチで描き出す。

特にDUAL PHASE PUSH-PULL〈Hi-Res Audio〉DRIVERSの良さが感じられるのが、シンバルの微細な余韻を描き切る階調表現の深さだ。音場の広がりや奥行きの表現もイヤホンとは思えぬ自然な再現性を誇り、DSD音源との相性も高い。管弦楽器やアコギの弦のタッチは硬質ではあるが、アタックの切れ味鮮やかな分離良い描写性で、余韻の伸びもすっきりと展開。オーケストラのローエンドも密度良く引き締め、演奏の芯を引き出す。

ピアノの響きは涼やかで、ハーモニクスの響きも硬質だが、低域弦の響きは伸び良く適度に締まりのある描写となる。ホーンセクションの旋律は粒立ち細かく、息継ぎのキレも尾を引かずクリアに表現。ボーカルはボトムを絞ったソリッドな方向性で、ハキハキとした口元をナチュラルに浮き上がらせる。中高域の煌めき感は必要最小限に抑えられており、若干ドライな雰囲気も感じるものの、モニターライクな解像感と耳当たり良い音楽性豊かな鳴りっぷりの良さとのバランスも良好だ。

ATH-CKR100はハイレゾ音源の持つ瑞々しい表現を誇張なくリアルに引き出すモニター顔負けのトレース能力と、自然で躍動感ある高密度なハーモニーを高次元で融合させた、新時代のダイナミック型イヤホンといえるだろう。カナル型の狭い空間性を感じさせない広大な音場再現力と、音離れ良く丁寧な質感描写の生々しい表現も数段格上の価格帯製品と肩を並べることができる。エントリー機からのステップアップにも最適なハイC/Pモデルだ。



■試聴音源
【クラシック】
・イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ『ヴィヴァルディ:四季』~春(HQM:192kHz/24bit)
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』~第一楽章(e-onkyo:96kHz/24bit)
・レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』~木星(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)

【ジャズ】
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』~届かない恋(OTOTOY:2.8MHz・DSD)
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』~ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)

【ロック&ポップス】
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』~メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』~レディ・マドンナ(筆者自身による2.8MHz・DSD録音)
・Suara『DSDライブセッション』~桜(OTOTOY:2.8MHz・DSD)