老後 ; 3500万円の貯蓄があっても破産予備軍
「死角」に注意
<パターン1>やりくり派
2015年10月、首都圏近郊に住むB家は、夫65歳、妻64歳の2人で暮らしている。2人の息子はすでに独立している。妻はパートで働いていて、週に3回ほど車で通っている。40代半ばで始めた現在のパートは、下の子どもが大学を卒業した時点で「そろそろ辞めてもいいかなあ」と考えた。子どもの教育費負担もなくなった今、体を休めたいと考えたからだ。
それから数年がたった20××年、仕事を辞めずにいたことを、賢い選択だったと感じている。辞めていたら、月々の家計が赤字になった可能性が高いからである。
今年から、夫の年金が満額支給になり、妻のパート収入がある今は、月々の家計は黒字で、月によっては2万~3万円の貯蓄もできるようになった。健康でさえいられれば、70歳くらいまでは働かせてくれそうな職場でもあるので、健康でいられる限り、パートを続けていこうと考えている。
妻が仕事を辞めると年間赤字が100万円超に
ここまでの状況を見てくると、何となく余裕がありそうにも思えるB家だが、昨年1年間の特別支出額は表1の通り。表を見るとお分かりいただける通り、B家の特別支出は年間で100万円を超えている。(表3)
2015年は、祖父の二十三回忌があったために通常の年よりも特別支出は多くかかっているが、通常の年でも特別支出の金額は100万円前後にのぼる。64歳の女性(妻)の平均余命は約24年。毎年100万円ペースで特別支出がかかると、それだけで平均余命を迎えるまでに2500万円もの貯蓄を減らす計算になる。
妻のパート収入がある今は、月の家計で若干貯蓄ができているので、実際には100万円もの赤字が出ているわけではないが、妻が仕事を辞めた時点で、毎年100万円を超える赤字が発生する可能性は高い。そうなると、かなり速いペースで貯蓄が減っていく。
<パターン2>破産予備軍
万が一、妻がすぐにパートを辞めてしまい、月の赤字と特別支出を合わせて年間140万円の赤字が出たとすると、これからの25年間で3500万円の貯蓄を食いつぶす計算になる。3500万円ある現在の貯蓄が、妻の平均余命である89歳前後に底をつく計算となってしまうわけだ。妻が仕事を辞めてしまうと、介護や医療に備えるために、予備費を取り分けることすら難しくなってしまう現実がある。
「車は夫婦で1台」を基本に
今回ご紹介したB家は、妻の収入があることで、貯蓄が減るペースが抑えられている。そのほか、夫婦ともに所有している車を、妻が仕事を辞めた時点で1台手放すなど、家計に見直しの余地もある。
<パターン3>余裕派
パート先へ通うためにも、今は2台の車が必要だとしても、妻が仕事を辞めたら、車に乗る時間の折り合いをつけつつ、1台の車でまかなうようにしたいところだ。
自動車税や車検の費用などを考えると、車を1台手放しただけで、年間で10万~20万円程度の支出減になるはずである。10万円の支出減が実現すれば、25年間で250万円の節約になる。時間が長いことを意識して、1年間に数万円ずつの節約努力も実行していく必要があるだろう。
妻が働き続けることと、車を1台手放すことで、年間の赤字は50万~70万円くらいまで圧縮できるだろう。80代に入って運転が厳しくなってきたら、思い切って手放すことも考えておきたい。車がなくなれば、税金や車検の費用といった保有コストがカットされるので、年間の赤字額はさらに圧縮できる。
年々増える冠婚葬祭費も要チェック
いっぽうで、香典費用をはじめとする冠婚葬祭費は、年を重ねると増えていくのが一般的。冠婚葬祭費については、年間にどのくらいかかっているのかを把握しておくことが欠かせない。身内の法要にかかる費用も、事前に見積もっておくのが理想といえる。
B家のように、ある程度の貯蓄があっても、特別支出も多い家庭はいくらでもある。放置しておけば、老後破産予備軍に含まれてしまうが、年間の赤字額をきちんと把握し、60代のうちに対策を講じれば、老後破産を回避できる可能性は十分にあるはずだ。
| 1.1円惜しんで 見落とす「死角」 2.仕事辞めずに 車は1台 3.かさむ香典 備えで万全 |
畠中雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー。新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、講演、相談業務などをおこなう。著書は「高齢化するひきこもりのサバイバルライフプラン」(近代セールス社)、「どっちがお得?定年後のお金」(高橋書店)など、約60冊を数える