サッカー界で格差広がる―英プレミアリーグの巨額テレビ放映権料




ウォール・ストリート・ジャーナル 2月17日(火)11時2分配信


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150217-00008403-wsj-int





 プロサッカーのイングランド・プレミアリーグは先週、スポーツ放送界で最高級の商品価値があることを再確認した。国内の放映権をめぐり、英国のスカイスポーツおよびBTスポーツと79億1000万ドル(約9400億円)の契約を締結したのだ。契約期間は2016年から19年まで3シーズン。金額は前回の契約額を70%上回った。前回の契約額自体も前々回を70%上回っていた。

 国外の放映権でこのほか46億2000万ドルを稼ぐと予想されることを考えると、プレミアリーグは契約期間中、1シーズンで40億ドル強を稼ぐ計算になる。これは恐らく、他のあらゆるサッカーリーグのテレビ放映権料の3倍にはなるだろう。

 問題はこの膨大なカネをどうするかだ。自由市場経済の下、各クラブは伝統的にこのウィンドフォール(棚ぼた)収入の大半を選手に費やしていた。具体的には、選手を獲得(移籍金)して維持(給与)するためだ。結局のところ、クラブは試合に勝たねばならないという圧力にさらされている。札束の上に座っているだけでチームが勝たなければ、怒って手のつけられないサポーターたちが、たいまつとクワを持った昔の暴徒のように押しかけてくるのは時間の問題だからだ。

 これに対応するため、大半のクラブはひそかに何らかの形の財務規則を受け入れる方向に動いた。給与上限の設定(欧州法違反になる公算が大きい)とまではいかないが、支出を抑える何らかの方策だ。欧州サッカー連盟(UEFA)は4年前に「ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)」規則を導入した。これはクラブが計上できる損失を制限する一連の規則だ。プレミアリーグも13年に独自版の規則を承認した。

 このプレミアリーグの規則が原因で起きている興味深いねじれの一つは、給与支払額が最も多いクラブ(13-14年度シーズンで8000万ドル超)は、給与を最大で1シーズン当たり620万ドルしか増やせないという点だ。これにクラブのあらゆる商業収入や入場料が加わる。この金額や閾(しきい)値はまもなく見直される予定だが、その意図はかなり明白だ。それはクラブに対し、テレビ放映権からのウィンドフォール収入を使ってチーム出費の増加に充当させないで、代わりに他の収益源を拡大するよう促すことだ。これはまた、潜在的な「ただ乗りチーム(小規模で魅力がないためテレビ放映権のウィンドフォール収入を使って陣営を強化するチーム)」を抑制する狙いがある。そしてそれは最終的には、賃金インフレ(給与の大幅上昇)を鈍らせる、ないしそれを少なくとも持続可能にすることにつながる。

  こうした状況が向かう到達点は恐らく想像できるだろう。ほとんど大半のクラブにとって、選手は単一で最大の出費になる。この出費を抑制し、他の収入源を増やし続ければ、クラブは利益を荒稼ぎできる。そしてファンたちの不思議なブランドロイヤリティ(特定のブランドへの忠誠心)のおかげで、彼らファンは夢中に応援し続ける。ことわざに言うように、歯磨き粉や自動車保険の場合、もっといいものが登場すればそれに変えるだろうが、サッカーファンは総じて自分のチームに固執するのだ。

 そして、これは長期的に、クラブを所有する人々にとって高い収益性が事実上保証されることを意味する。それは、プレミアチームを保有することがどれほど望ましいかを説明する。そして同時に、プレミアチームを購入することがなぜかくも割高になるかをも説明する。したがって、世界中の多くの投資家は、プレミアリーグというトップリーグではなく、2次リーグのチャンピオンシップリーグのクラブを購入し、昇格を通じたプレミアリーグ入りを目指すのだ。

 実際、プレミアリーグの上級クラブが利益を保証するマシンと化すのを回避する唯一のものは、昇格・降格制度のみだ。プレミアリーグに所属する20のクラブのうち、毎年3つが2次リーグに降格する。

 降格すると、テレビ放映のウィンドフォール利益は得られなくなる。イングランドではテレビ放映権料は異常なまでに平等主義的だ。すなわち、国外の放映権収入は20チームに平等に分配される。国内の放映権収入に関して言うと、最も多くもらえるチームともらえないチームの額の差はわずかに1.5倍だ。2次リーグに降格すると、チャンピオンシップTV収入の分け前がもらえるが、それは1次リーグの15分の1未満だ。このほか、3年間分の「パラシュート・ペイメント」がもらえる。これは降格にかかる費用を相殺するため、降格クラブに対してプレミアリーグが払う。

 降格のリスクがなければ、プレミアリーグの価値がとんでもなく高くなることは、天才でなくても分かるだろう。とりわけ最近の展開を見れば明白だ。これまでのところ、サッカー界のピラミッドの神聖さ、つまりクラブが成績の善しあしによってフードチェーン(食物連鎖)のような階層を上下し得るという思想は、疑問視されないままだ。

 しかし、最上位チームの経済的利益、持つものと持たざるものとの二極分化の拡大、そしてイングランドの一流チームがかつて離反をためらわなかったという事実(それが1990年代初めにプレミアリーグが誕生した理由だった)がある。それだけに、それは単に時間の問題ではないかと思われる。

By GABRIELE MARCOTTI