今夜はお楽しみで出かけるものだから、家人のためにおでんをしこんでいる。

大根を下茹でして、こんにゃくを下茹でして、タマゴを茹でて、

練り物を油抜きして、大鍋に放り込む。

牛スジがひとパックあるのを、こま切れにして、串に刺す。

実家では、串に刺さず、適当な大きさでそのままなべに投入していたけれども、

うちでは串に刺す。あんまり牛スジを店でみかけなくて、鍋の具としてだろうか、

串に刺して売っていたのを使って以来、子どもたちにはそれがスタンダードのようだ。

(どうしてやつらは、串に刺した食べ物があんなに好きなんだろうか?

いや、わたしも好きなんだけど。串に刺してあるだけで食べてみたくなるフランクフルトソーセージ)


で、黙々と、たまに串で肉のかわりに指を刺しながら、いてててて、と苦悶しながら、

指に刺しただけでこんなに痛いのだから、よく言う、「爪と肉の間に竹串刺す」という拷問は

ほんとに痛いんだろうなぁ、などと思いつつ、ここで自分で刺しちゃったら、セルフ拷問だよなぁ、

と、プチ萌えに悶えながら、思い出すのは、『赤目四十八瀧心中未遂』なのであった。


読んでない方にちょこっと解説。

『赤目四十八瀧心中未遂』とは直木賞をとった車谷長吉の小説。

世捨て人みたいな生活をしている主人公の生業が、

場末の焼き鳥屋の肉を串に刺すという内職なのね。

映画にもなって、寺島しのぶの大胆な演技が話題になったとか。


あれは、性愛小説としての部分がやけにクローズアップされていたけれども、

そして確かに、そのシーンは息を呑ませるものがあったけれども、

わたしはやはり、最後近く、これから心中しようか、という話になっている主人公と

それを主人公に迫っていたアイちゃんが列車に乗るシーンで、

「やっぱりわたし福岡(だったっけ)に行く。」

と、ひとりひらりと身をかわして列車から降りてしまうところが印象的。


詳しくは書かないけれども、アイちゃんは、借金のかたに福岡(だったっけ)のヤクザさんに

売り飛ばされんとしてるわけね。それより、あんた一緒に死んで、みたいな感じでさ。


でも、彼女は身を翻す。


実のところ、わたしも男相手の翻心はなんどかあったわけなんだけど、

それは、その男たちから見たら、あっけにとられるような、

別の世界の生き物のすることのような、

キツネにつままれたような、

そんな出来事に思われていたのかしらね。