不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その21

 本日も、元従業員と、その所属先であった会社との間で紛争となった事例を見ていきます。

 

  東京地判平6・12・26〔家庭用浄水器事件〕平4(ワ)10316

 

原告 トータス株式会社 
被告 アップル株式会社

 

■事案の概要
 本件は、
家庭用浄水器の製造、販売を目的とする原告会社が、被告会社が違法な取引勧誘行為を実行させた結果、原告は不法に多くの顧客、利用者を奪われ、財産的損失を被ったなどとして、原告が被告に対し主位的に不正競争防止法、予備的に不法行為に基づき損害賠償請求した事案です。

 

◆当事者

 原告は、家庭用浄水・活水器の製造、販売を目的とし、いわゆる連鎖販売取引方法による販売方法を採用していました。

 被告は、家庭用浄水・活水器の製造、販売を目的とし、被告の代表取締役Gは、平成元年から平成2年10月まで、原告に勤務し、平成3年3月15日被告を設立しました。

◆原告の行っている浄水・活水器の製造、販売の仕組みは次のとおりで、当事者間に争いはありません。
1「原利用を希望する顧客に対し、まず水道等の蛇口につける器具である浄水・活水器本体を販売」し、「顧客の希望する交換時期…毎に原告からその顧客に取換用カートリッジを直送」、「その顧客への到着と引替えに顧客の銀行口座からカートリッジ代金相当分を自動引き落としする旨の契約(預金口座振替依頼契約)を締結する」。
2「原告と販売員との間には、販売員契約が成立し」、「商品の売買の当事者としての契約関係のほか、原告と販売員との間の事務管理代行サービス委託・受託契約が含まれ」、「販売員は、原告から商品を購入し、更に自らが販売主体となって顧客に販売」し、「その販売実績に応じて販売員としての地位(ランク)が上昇」し、「自ら手掛けた顧客の購入実績に応じて販売員に対し所定の料率による口銭の支払いがなされる」。「取換用カートリッジは…原告から定期的に顧客に対し直送する」。

 

■当裁判所の判断

1.認定事実
 裁判所は、以下の事実を認定しました。

(1)「原告は、設立からしばらくの間、販売していた浄水・活水器及びろ過材カートリッジを長野市所在の訴外F社に委託発注していたが」、その後「契約を解消して他の会社に委託するようにな」る。 なお、被告代表者は「昭和63年後半から原告の家庭用浄水器を販売するようになり…原告の営業担当者からの勧誘で営業社員として原告に入社し、四国、大阪、九州地区の営業を担当し、平成2年5月頃には、西日本地区担当の営業部長とな」り、「その頃、被告代表者は、取引先と浄水器の本体を無償で提供するという約束をしたことが原告の方針と合致せず、このことも一因となって、九州地区担当の営業部長の下で働くことになり」、間もなく、原告を辞めた。

(2)上記F社は、浄水・活水器販売事業を行い、被告がその販売を担当した。すなわち「被告代表者は、平成2年の暮、知人の紹介でF社のF社長に会い、その結果、被告代表者がF社と提携し」、同社製造浄水器の販売に合意し、F社は被告の資本金1000万円のうち200万円を出資。被告は、平成3~4年に浄水器の無料交換キャンペーンを行い、その期間中に、9000個(販売価格にして1億6200万円相当)の既に各家庭に取り付けられていた他社の浄水器を無料で自社のものに交換(交換対象の浄水器には原告の浄水器も含まれる)し、その期間は「原告が不正競争行為あるいは不法行為がされたと主張する時期及び…原告への大量の解約届が送付された時期」は相応する。

(3)さらに、「平成4年1月頃、原告の元販売員で、被告の販売員になったHが、「トータス(原告)のカートリッジがより良く改良され価格も安くなりました。…今回に限り、本体を無料で交換致します。…窓口はアップル株式会社(被告)となっております。」等の記載があり、更に原告に対する解約届のモデルも示された文書と被告の浄水器のパンフレット…を持って…原告の販売員であるSを訪れ、これと同趣旨のことを述べて被告との販売員契約を締結するよう勧誘したことが認められる」。
(4)「岡山県在住の原告の顧客Oが、被告との間で浄水・活水器供給契約を締結したことにともなう預金口座振替申込書を原告に対し送付し」、右Oは「被告との浄水器供給契約を締結することは、原告と右供給契約を締結することと同じ」と認識。右事実と、前記「被告の販売員による行為に照らせば、Oに対しても、被告の販売員による…同様の行為が行われ、それによりOが原告と被告を混同して認識し、被告に対する浄水器供給契約の申込書を原告に送付したものと推認され」る。

 

(5)裁判所は、上記のように認定した「被告の販売員による営業活動」について、「原告の販売員、顧客に対し、真実そのようなことがないのに、被告の製品があたかも原告の製品の改良品で、原告が営業主体でありながら、被告が窓口になっているかのように欺罔して、原告との浄水・活水器供給契約を被告との契約に替えさせるものであり、不法行為に当たる」と認めました。
 一方、裁判所は「原告は、右の行為は、不正競争防止法二条一項一号所定の営業について混同を生じさせる行為に該当すると主張するが、同号は、原告の周知の商品等表示に類似した商品等表示を被告が使用することが要件とされているところ、そのような周知の原告の商品等表示及び、それと同一又はそれに類似した商品等表示を被告が使用したことを原告は主張立証しないから、右主張は失当である」と判断しました。(不競法2条1項1号の判断につき強調のため下線(筆者)。)

 そのほか、裁判所は、被告販売員は、「原告が倒産したように誤解させて、原告との契約を解消し被告との契約に切り替えるよう勧誘し」、かかる行為は「被告と営業上の競争関係にある原告が、倒産したり、あるいは倒産の危機に瀕している事実がないのに、そのような事実があると告げるもので」、原告の営業上の信用を害するもので」、同項11号に該当すると認めました。

 以上のように裁判所は、民法709条、不正競争防止法4条、2条1項11号等により、被告は、これらの行為により原告に生じた損害を賠償すべき義務を負うと判断しました。一方同項1号の出所混同惹起行為は認めませんでした。

 

(6)裁判所は、以上の認定により損害賠償を認めましたが、逸失利益については以下の通り否定しました。

 「原告の販売方法はいわゆる連鎖販売取引方法によるものであること…原告の販売組織は、上下の販売員間、販売員と顧客の間の人間関係に基づくピラミッド型のものであり、そのためある上位の販売員が原告との契約を解消し、被告と契約するようになった場合には、その傘下の販売員、顧客に働き掛けて、一体となって被告との契約に変更させようとすることは自然」で、「被告による適法な勧誘行為によって上位の販売員が原告との契約を解消して被告と契約を締結するようになり、その結果傘下の販売員、顧客ともども一緒に被告と契約をするようになった場合には、頂点に立つ販売員が指導し、あるいは代筆して、右のような同一の書式、筆跡による相当数の解約届が提出される事例もあることは容易に推認される」。

 しかも「原告の販売員の中には、原告の販売促進のためのキャンペーンで借金をしてでも商品を買い入れないと組織内のランクが上がらず不利になる、支払われるべきコミッションから控除される諸経費が当初の説明より多く、利益が出にくい、不要の商品まで抱き合わせで買わされる等原告の販売方法に不満を抱く者が少なからずあり、被告の販売方法の説明を聞いて販売員の負担がより少ない被告の販売方法の方が良いと考えて原告との契約を解約し被告と契約した者が少なくない」。

 「したがって、被告の違法な勧誘行為の行われた期間に原告との契約を解消した者の全てあるいは大部分が被告の違法な勧誘行為によって契約を解消したものとも、その内の一定の割合の者が被告の違法な勧誘行為によって契約を解消したものとも認めることはできない」。「以上によれば、被告の違法な勧誘行為と因果関係のある販売員、顧客の減少による原告の損害を確知するに足りる信頼すべき証拠はないから、逸失利益についての原告の請求は失当である」。

 

4.結論

 以上によれば、原告の本訴請求は、損害賠償金として金三〇〇万円及び遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却しました。

 

■BLM感想等
 元従業員等が、独立し、独立前に所属していた会社の事業と同種の事業を行うことで紛争が生じる場合があります。特に、元従業員等が従前の会社の製品とある程度同じものを製造・販売する場合、当該会社は元従業員等に対し不正競争防止法2条1項1号に基づき差止請求を行うケースが散見されます。一般に1号の出所混同惹起行為が不正競争とされるのは、これにより周知表示主が顧客を奪われ、その営業上の利益が侵害されるおそれがあることとともに、需要者が、商品等表示をみて、例えば「いつものあれ」と混同し、顧客が表示を目印に購入した商品が実は別の会社のものだった、という需要者の利益が害されるためです。

 本件は、そのような周知の原告の商品等表示及び、それと同一又はそれに類似した商品等表示を被告が使用した事実を認定することができませんでしたが、標識法が本来保護するのは表示・その他の出所識別標識に化体した信用であるとすると、まさにその信用が既存されるような事例であったということもできそうです。

 本裁判例の原告の販売方法は、連鎖販売取引方法による販売方法で、「原告の販売員の中には、原告の販売促進のためのキャンペーンで借金をしてでも商品を買い入れないと組織内のランクが上がらず不利になる、‥‥不要の商品まで抱き合わせで買わされる等原告の販売方法に不満を抱く者が少なからずあり」などと裁判所も認定しているところなので、どっちもどっちなのではないかとも考えられますが、それとこれとは別、といった裁判例だったかと思います。他の会社を叩いて、自社の利益を得ることは、自社が損害を受ける等の理由がない限り、許されないということであろうと思います。本ブログで幾度も強調するところですが、とにかく、独自性のある商品・サービスを考えて、これを一定の自他商品役務識別力のある標識で表示することが重要であると考えます。本件では、原告の元従業員であった者が新たに同種の商品・サービスを立ち上げたわけですが、原告の従業員だった時代に蓄積したノウハウ等(別途営業秘密等はなかったようです)を利用して、別途独自性のある商品・サービスに発展させれば何ら問題はなかったと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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