熱帯魚
傷ひとつない綺麗なガラスの水槽に、ゴミ屑ひとつない澄んだ水の
中を、熱帯魚が気持ち良さそうに泳いでいる。
底には真っ白にきらめく大小様々な砂利が敷かれ、わずかな水の
流れが青々とした水草を揺らす。
エアーポンプから噴き出された泡が体をくすぐり、ヒーターは常に快適
な温度に調節してくれる。
天井からはスポットライトが当てられ、より美しく、そして華やかに
演出する。
「うわ~、きれいだねぇ~」
妹が水槽に顔を押し付け、熱帯魚を見つめながら言う。
そして手に持っていた袋から一握りの餌を取り出し、水槽の中に放り
投げた。
「いいよねぇ、熱帯魚は」
餌に群がる熱帯魚を見つめながら姉が言う。
「なんで?」
妹は後ろを振り返って姉を見た。
「だって毎日働かないで、好きなだけ食べれて好きなだけ泳いで
いられるじゃない」
「そっか」
妹はまた水槽に顔を押し付ける。
「お嬢様。お食事の準備ができました」
それはそれは大きな家の中、広~い部屋の一室で、大金持ちの娘達に
向かって執事がそう伝えた。