パール・ジャム(Pearl Jam)による12作目のスタジオ・アルバム『Dark Matter』が2024年4月19日に発売されました。 しばらく、疎遠になっていたパール・ジャムですが、久々にバンドらしいサウンドが甦って来ました。 ”グランジの帝王”と言ったレッテルはもう必要ないと言えるでしょうね。
アルバムの試聴イヴェントにおいて、フロントマンであるエディー・ヴェーダ-(Eddie Vedder)が語った言葉にすべてがあらわれていると思います。
「色々と良い思い出があるから、ゾクゾクしてるよ。 俺たちは今でもコミュニケーションの方法を探ろうとしているんだ。 やる選択もやらない選択も可能になった人生のこの時期に、今でも何か意味のある作品を出したいと思ってやっていて、このアルバムが俺たちの最高傑作であることを願っている。 大袈裟でなく、これが俺たちの最高傑作だと思う!」
同じスタジオに入り、5人組として一緒に共同作業をすると言う、バンドへの復帰を意味していますね。
このアルバムの大きな役割を果たしたのは、言うまでもなく、プロデューサーのアンドリュー・ワット(Andrew Watt)に他なりません。 あのローリング・ストーンズ(the Rolling Stones)のメンバーを本気にさせて創り上げた『Hackney Diamonds』が象徴するように、若いながらも経験とバランス感覚に優れた今の時代を代表する一人です。 若い頃には、「パール・ジャムとレッチリばかり聴いて育った。」と公言するアンドリュー・ワットにより、精緻であるが、一方では、ダイナミズムを併せ持つサウンドが記録されています。
とにかく、アンドリュー・ワットは、バンド・メンバー以上に過去の楽曲の隅々まで記憶しており、スタジオにて「あの曲のあの部分の演奏のように演って欲しい・・・。」と言った具体的なリクエストをしたと言われています(笑)。
きっかけは、エディ・ヴェダーの2022年の3枚目のアルバム『Earthling』のプロデューサーをアンドリュー・ワットが担当したことです。 それまで、パール・ジャム(Pearl Jam)と言えば、ブレンダン・オブライエン(Brendan O'Brien)の名前が挙がるはずでした、デビュー・アルバムの『Ten』、バイノーラル録音にチャレンジした6枚目の『Binaural』、そして、8枚目の『Pearl Jam』が例外ではありましたが・・・・・。 COVID-19のパンデミックが起きて以降は、新しい道を模索していたのでしょうが、ブレンダン・オブライエンとのコラボレーションはもうなくなったようです。
□ Track listing;
All lyrics are written by Eddie Vedder; all music is composed by Pearl Jam and Andrew Watt, except "Something Special" by Pearl Jam, Watt and Josh Klinghoffer.
1. "Scared of Fear" 4:24
2. "React, Respond" 3:30
3. "Wreckage" 5:00
4. "Dark Matter" 3:31
5. "Won't Tell" 3:28
6. "Upper Hand" 5:57
7. "Waiting For Stevie" 5:41
8. "Running" 2:19
9. "Something Special" 4:06
10. "Got To Give" 4:37
11. "Setting Sun" 5:43
□ Personnel:
Produced by Andrew Watt
Engineered by Paul LaMalfa
■ Musicians:
Pearl Jam;
Eddie Vedder – lead and backing vocals, guitar, piano
Mike McCready – guitar, piano
Stone Gossard – guitar
Jeff Ament – bass guitar, guitar, baritone guitar, backing vocals (on "Running")
Matt Cameron – drums, percussion
Additional musicians;
Andrew Watt – guitar, piano, keyboards, backing vocals (on "Running")
Josh Klinghoffer – piano, keyboards, guitar
Mark Davis – backing vocals (on "Running")
冒頭の”Scared of Fear”は、ストーン・ゴッサード(Stone Gossard)のリフがトリガーになり、1時間足らずでほぼ出来上がった楽曲だそうです。 アンビエントでニューエイジ風のシンセのイントロから静かに始まり、ストーン・ゴッサードによる金属的なギター・リフが被さります。
□ “Scared of Fear” by Pearl Jam;
2曲目の”React, Respond”はリズム隊のヘヴィーなグルーヴがすさまじく、そこに割って入るエディーのヴォーカルは正に彼ならではの存在感ですね。
続く”Wreckage”では、何層にも重ねたであろうギター・リフがその鳴りを活かしてサウンドのキモになっており、エディーの書いた歌詞は相変わらず素晴らしいです。
□ “Wreckage” by Pearl Jam;
The mistakes we all make
And perfectly repeat
Chains are made, by DNA refusing
Refusing to release
Combing through the wreckage
Pouring through the sand
Surrounded by the remnants
What we could and couldn’t have
Raking through the ashes
Falling through my hands
Charcoal on the faces in the
Burned up photographs
そして、アルバム・タイトル曲である”Dark Matter”ですが、リード・シングルであったように非常に強烈で、まるでAC/DCのようなリフからスタートします。 こう言ったギターの”鳴り”の録り方は、アンドリュー・ワット(Andrew Watt)のお家芸の様ですね。 ヘッドフォンで聴くとより鮮明に重ねられたギター・リフのレイヤーが分かります。
□ “Dark Matter” by Pearl Jam;
1つ置いて、”Upper Hand”は少し毛色の変わったポリフォニック・シンセのイントロからスタートします。 スロー・テンポのらしくないバラッドですが、決して安易な”泣き”のメロディーにはなっていません・・・・・。
”Waiting For Stevie”はどうやら、アンドリュー・ワットが作ったリフが元になった曲のようで、バンド・メンバー曰く、ドロップDチューニングによる旋律的重音リフが特徴的だった、グランジの雄、サウンドガーデン (Soundgarden)へのオマージュではないかと言う話です。
□ “Waiting For Stevie” by Pearl Jam;
次の”Running”は、スピード感あるパンキッシュな暴発的な楽曲です。 2分ちょっとであっという間に終わってしまいます。
□ “Running” by Pearl Jam;
9曲目の”Something Special”では、大人(父親として?)になったエディーが次世代の子供たちが担うべき、責任、力、自由、について語っています。 ちょっとらしくないかも。
10曲目の”Got To Give”は、エディーの作っていたリフがヒントになり出来上がった楽曲ですが、イメージとしては、ピート・タウンゼント(Pete Townshend)のソロ楽曲だそうです。 サウンドが何処か、ザ・フー(The Who)を彷彿とさせますし、ヴォーカルもロジャー・ダルトリー(Roger Daltrey)に似ているように聴こえます。
□ “Got To Give” by Pearl Jam;
ラストの楽曲は、アコギ・ナンバーの”Setting Sun”です。 何故だか、98年当時にライヴでベン・ハーパー(Ben Harper)と共演した、2ndアルバム『Vs.』の収録曲、”Indifference”を想い出させます。
□ “Setting Sun” by Pearl Jam;
”グランジ”(the grunge movement)と言うワードを思い起こせば、それは80年後半のシアトルの音楽シーンに起きたある動きでした。そのきっかけは、カリスマ性溢れるクリス・コーネル(Chris Cornell)がフロントマンを務めるサウンドガーデン(Soundgarden)が、1989年にメジャー・デビューとなる『Louder Than Love』をリリースしたことになると思います。
それに続き、1991年9月にニルヴァーナ(Nirvana)がアイコニックな『Nevermind』で、予想外の成功を収め、90年代の文化的現象となったことが更に大きなムーヴメントになりました。 時を同じくして、パール・ジャムも91年8月にデビュー・アルバム、『Ten』をリリースし、グランジ・ロックをメインストリームに押し上げて、その先頭で以降30年間に亘り音楽シーンに君臨し続けて来ました。
1994年に起きたカート・コバーン(Kurt Cobain)の自死、また、2017年に突如発表されたクリス・コーネルの逝去(自死といわれている)、これらの悲劇的な出来事を前にしても停滞することなく活動を続けて来たバンドとして、今までのアルバムを聴き返してみたいと思います、ゆっくりと。
今まで、パール・ジャムについて直接触れたブログはありませんでした。 あのニール・ヤング(Neil Young)絡みで書いたブログしかありませんでした。
2015年3月 ”Waging Heavy Peace” その参 (こちらです↓↑)
2015年3月 Neil Jam ? 『Mirror Ball』(こちらです↓↑)
2022年11月 Neil Young 『Noise & Flowers』(こちらです↓↑)