※前回の話はこちら

 

マジョリティ帝国(デキルゼ=デキルワ族・フツウ族連合)の使者より服従することを求められた、キニシイ族の王と重臣達。
しかし、彼らは心の中でただグルグルするだけで、明確な拒絶の意思を伝えられないでいた。嵩にかかったマジョリティ帝国の使者は、そんな気弱な彼らを押し切り、従わせようとしたその時、マジョリティ帝国も恐れるトラウマ族の女族長、ワタシ・マケナイが声を上げた。

 

マケナイ 「待たれよ!! 王よ、キニシイ族の方々よ。その傲慢で無礼な使者の言うことに従ってはならぬ!」

 

使者 「誰かと思えば、これはこれは。しかし、貴方がなぜ、ここにおられる」

 

マケナイ 「聞かれよ、キニシイ族の王よ。私はマジョリティ帝国の恐ろしい野望を、王に伝えに、ここに来た。やつらの軍はすでに準備を整えている。デキルゼ=デキルワ族、フツウ族は、すでに全部族会議で“多様性の排除”を決めた。やつらは全土を征服し、すべての氏族は『フツウ』になることを強いられる。我らはやつらの下位グループに置かれ、『フツウ』になれない者たちは、『教育』か『治療』が施される。すべてのアジール(避難所)は奪われ、全土がやつらの管理下に置かれるのだ!!!」

 

 「な、なんと!! 創世神話にあるガッコウの時代(※)の再来ではないか!!」

 

※ガッコウの時代:すべての氏族が共に暮らしていたという神話時代。しかし、キニシイ族・ズレ族・デコボコ族にとっては、あまり思い出したくない時代とされる。

 

大臣 「む、むしろ、それよりひどい……」

 

使者 「は、は、は、は。そうだ、最終的にはそうなる。だが、よいではないか、『フツウ』になればよい話。我らに合わせるのだ。そう、難しい話ではあるまい。多様性? くだらない。みんなと一緒のことをしろ。目障りなことをするな、きょどるな。創造性? オリジナリティ? 個性? くだらない。勘違いもよいところだ」

 

マケナイ 「私にも同じことが言えるのか! 無礼な使者よ。偽善の国の人々よ。外では立派にふるまっているつもりかもしれないが、私たちを生み出した非道の者がのうのうと罰せられずに暮らす国の人々よ。ほとんどの人は見て見ぬふり、あるいは『忘れなさい』『みんな苦しみをかかえている』『事故だから天災だから仕方がない』などと平気で言い、最後には『まだそんなことにこだわっているのか』と言わんばかりの、心ない国の人々よ。私は戦う。まだ苦しみから抜けない、多くの仲間たちのために!!」

 

トラウマ族は、氏族ではない。
大きな災害や事故、様々な非道な出来事に遭遇し、心に深い傷を負った者たちが自然に集まって形成された集団。女性が非常に多いのが特徴である。彼らは聖なる山「ピア」を中心とした山岳地帯で、心の傷に苦しみながら、心の安寧を求めて、静かに身を寄せ合うように暮らしている。


そんな彼らを外敵から守っているのが、戦士サバイバーである。心の傷を乗りこえ、非道の者に立ち向かい、仲間を守るために立ち上がった戦士たち。戦士サバイバーの精強さは全土に轟いており、帝国軍といえども簡単に手出しをできない存在である。
ワタシ・マケナイは、族長であると同時に、最強の戦士サバイバーでもあった。

 

マケナイ 「キニシイ族の王よ、キニシイ族の人々よ。奪われたことのない、たくさんのものを持っていながら踏み出せない人々よ。また、逃げるのか。また、避けるのか! 今こそ、戦うときだ。多様性を守るために。マイノリティの旗のもとに連合しよう!」

 

宰相 「王様…、族長はああ申されますが、ここはよく考えられるべきと思います…。我らは『心優しき者たち』。とても、戦争なんて……」

 

マケナイ 「否! 心優しいなんて、言わせない! 本当にあなたたちが善人なのか、その胸に手を当てて、よく考えてみればよい。キニシイ族から来た仲間もいるぞ! また、逃げるのか!」

 

武将 「も、も、も、も、も、も、申し上げます! た、戦いましょう! マジョリティのやつらの支配下になれば、屈辱は必定。同調圧力で息もできないのは必至。我らは確かに、逃げていた。今こそ、立ち向かう時と思います!」

 

 「わ、わ、わ、わ、私の心は決した。もう、逃げない。ワタシ・マケナイ殿よ、共に戦おう」

 

使者 「はははははは。後悔なさるなよ。弱い者どもよ、女々しいやつらよ」

 

 「去れ! 『フツウ』がそんなに偉いのか! 多数派は何をしてもよいのか! 私の目の黒いうちは傘下には入らん! 大帝にそう伝えるがよい」

 

紀元前○○年、人類が「出アフリカ」を果たす遙か昔、すでに現在の私たちが神話ですら伝えなくなった、サバイバル・オブ・ザ・フィッテスト(Survival of the Fittest;適者生存大戦の幕開けである。

 

<目次>
第1話 キニシイ族の物語──はじまり ※こちら
第2話 キニシイ族の物語──決起   ※今回