昭和の時代は、思えば今とはかなり異なる常識が共有されていた。だからこそ昨年、「フテホド」というドラマも流行ったのだろう。令和と昭和の常識のギャップを面白おかしく描いたドラマだった。
マミもダディも昭和世代である。特にダディは、10代を通じていわゆる運動部にいただけに、昭和的な常識が残っていると自覚している。そのせいもあり、お兄ちゃんが小さい頃などは、時々かなり厳しい子育てをしてしまっていた。令和の時代となっては厳しすぎたかなと反省することも少なくない。
対照的にりーちゃんの子育ては、非常に令和的だ。りーちゃんの人生の中では、平成と令和がちょうど半々くらいなのだが、生まれながらにして両親は優しい子育てを基本にしてきた。知的障害があるため、厳しく言うだけでは身につかないとわかっているので、必要なことは繰り返し丁寧に言い聞かせてきたつもりだ。その中で、「これはやっちゃいけないね」ということについてだけは、こちらも真剣であると伝えるためにちょっと厳しめに、しかし繰り返し繰り返し丁寧に、指導してきたつもりである。
ただ、当たり前のことではあるが、マミもダディも完ぺきではない。時にはうっかり、りーちゃんに対して昭和的な対応をしてしまうこともある。
その日はりーちゃんとダディの二人だけで、車で移動することになった。事前にもたついて時間がなかったこともあり、急ぐことになって、二人の間の空気はちょっと、よろしくなかった。駐車場でさあ車に乗ろうという時、りーちゃんが突然、「アハハハハ」と言いながらお隣の車を「コツン」と叩いた。本当に軽くだったので傷も凹みもなかったのだが、「これはやっちゃいけない」ことである。
「なにしてるの?りーちゃん、ダメでしょ!」とりーちゃんの手をつかみ、普段よりも厳しめにたしなめたダディ。急いでいたせいもあったと思う。するとりーちゃんがこれに反発。今度は逆の手で再び隣の車を叩いた。やっぱり力は入っていなかったので車は何ともなかったが、ダディはカチンと来てしまった。
「やめなさい!」と言うよりも先に、手が出てしまったのだ。りーちゃんの頭を、本当に軽くではあるが、はたいてしまった。こんなことは滅多にない。と言うか、ダディがりーちゃんの頭をはたいたのは初めてのことだと思う。全く反射的に手が出てしまったのだ。
りーちゃんはびっくりしたのか、下を向いて、ダディに言われるままに乗車し、そのあともずっと下を向いていた。ダディが気がついて声をかけると顔を上げ、目にはたっぷり涙が溜まっていた。「ぱちんしてごめんね。大丈夫だよ。ごめんね」と謝るダディ。ティッシュを渡すと、りーちゃんも素直に受け取って涙をふいたのだった。
どちらかというとりーちゃんはマミよりダディにべったりで、最後はダディの言うことなら聞く、というのが夫婦の共通認識だった。そこにダディの慢心があったのか…。ダディ自身もびっくりするような出来事だった。
しかし誰よりも驚きショックだったのはりーちゃんだろう。ついこの前のブログで暴力は100%ダメ、と書いていたばかりなのに…。心より後悔と反省をしております。まだまだまだ、ダディも親として発展途上ですなぁ。