そのまま程よい硬さのマットの上に沈み
ウトウトと微睡んでいた
ふと肌が触れる部分から小さな振動を感じ
て薄く目を開けるとチョン・ユンホが
新しい煙草を取りだし指に挟んでる姿が
目に映る
特に火をつける様子もなく指で遊んでる
「 · · · · ヘビースモーカー? 」
「 ん、起こした? · · · たぶんそう。」
微笑むと少し口もとが緩んでやわらかい
イメージになるんだな
それさえどこか艶を感じてゾクっとする
ものがある
この男こそ ″ 羞花閉月( しゅうかへいげつ) ″
の言葉そのもの
ずっと自分が冗談交じりに公言してきた
高すぎる理想、御伽の国しか存在しない
ような人間が現実に今夜目の前に現れる
なんて思ってもなかった
「 ん?吸う? 」
「 吸わない 」
俺はうつ伏せたまま首だけを少し動かす
「 そ。チャンミンは非喫煙者か 」
チョン・ユンホを見上げながらゆっくりと
瞬きして答えた
「 煙、気になった?ごめん 普段は電子煙草
なんだけどね今日は充電しそこねて 」
そう言って自分の指の煙草をみる
「 ふうん · · · · 。」
でもこの煙草の味がする口づけは嫌じゃ
なかった
むしろこの男を感じられたと思う
ゆっくりと手を伸ばし煙草ごと彼の手を
掴むとはっとしたように煙草から俺に視線
を移して唇が微かに動く
「 な · · · · に ?」
「 貴方の煙草を吸う姿好きだな蠱惑的だ 」
「 ふうんそれだけ? 他は? 俺の
ベッドサービスはなかなかのものだったと
思うけど?」
そう言って艶然と微笑むビジュアルが俺を
また惹きつける
「 うん 溶けた · · · だけど 」
「 だけど?」
「 フェアでいたい貴方とは 」
「 · · · · · · · 、」
──── キシッ、
何も答えず俺の手をするりと離し
チョン・ユンホはベッドから降りようと
絨毯に足を着けた
「 シャワー? 」
そう聞いた俺にほんのわずかだけ振り返る
「 ああ、シャワー浴びて帰る 。
この部屋の支払いは終わらせて出るから
ご心配なく。今夜はこのまま眠るといい 」
そう言ってバスルームへ向かって歩き出した
「 待って 」
「 なに? 充分満足させたはずだけど?
溶けたんだろ?他に何か?」
「 いいやまだ充分満足してないんだけど。
俺のいう満足は翌朝に胸の中で目覚める
までだから。
ここまでじゃ 満足したとは言えないな 」
爪のかたち
のびる睫毛の角度
この細く綺麗な指
その長い指に光るリング
美しいフォルムの長い首筋
柔らかなのに意外と鍛えてる身体
全てが好み
このひとの胸の中で目覚めたい
全てが独占欲を煽る
「 ──── · · · · 。 」
俺の言葉を聞いて目の前の人物は不快な
顔でボソリと何かを言って黙った
「 · · · · なんて?
さっきもよく聞こえなかった 」
ベッドを下り歩み寄ってもう一度その言葉
を問おうとするとふいと顔を背ける
答えるつもりは、恐らくなさそうだ
吐息が聞こえそうなほど部屋がまた静かに
なる
「 「 · · · · · · · · · 」 」
どうしたものかと内心舌打ちした
こういうシチュエーションって初めてで
面倒くさい状況は本当は避けたい
いや実際そうしてきたから固定した彼女が
今まで出来なかったのか。
なんて考えながら 人差し指を顎に添えて
こっちを向かせると意外にもおとなしく
従って少し驚いた
伏し目がちな睫毛がふるっと震え情欲を
かきたてられ、たまらなくなる
強気な態度をとると思えばふっと儚げな
影を落とす不安定な魅力をもつこのひと
に自分はもうこれ以上は無いほど確実に
堕ちてる · · · ·
手もとに視線を降ろすとチョン・ユンホは
軽く拳を握っていた
そう。これは心理的に『 NO 』のサイン。
緊張状態で、俺の話を聞きたくないのが
わかる
こういう時は仕事の場合なら話題を変える
のが得策だけど。でもしない。
この百戦錬磨の美しさで数々のひとと濃密
な夜を過ごして来たに違いないこのひとに
一度寝ただけでフェアになりたいなんて
思い上がりもいいところなの百も承知で
話を続ける
「 俺とは後腐れない関係を望んでるの?」
正直に聞くと唇がくっと上がり目を細めた
「 そういう関係の方がいいでしょ
チャンミンは。女の子の胸へ戻りなよ
イケナイアソビ覚えたら後に戻れない
からね。
大丈夫 まぁ少しの間は遊んであげる
連絡先書いて渡しただろ また電話して 」
「 ううん · · · 俺からはしない、だから
ユンホからして。着信履歴残ってるよね 」
俺の言葉にチョン・ユンホは弾かれた
ように顔を上げた
「 は? お前何言って · · · 。ユンホって · · · 」
不快そうに眉間にしわを寄せて低い声に
なった
「 まだまだあったばかりで君を知らない
でも俺は愛に似たアソビをしたい訳じゃ
ないから。
ベッドではまだまだ役不足だよ
それでもユンホとフェアになりたい
ユンホから次はよければ連絡して 」
「 · · · · 俺は寝た相手の連絡先は残さない 」
そう言って踵を返すようにクローゼットの
方へ歩き出した
──── ピルルルルル、プッ。
「 !! 」
「 今の俺のコール 」
スマホの液晶をじっと眺めてたユンホは
「 くく、あははは 」 なんて笑いだした
「 なに。いい?登録してて。」
笑われるようなことしたか?
「もうお前なんなの?調子狂いっぱなし
で困る 」
そう言って目を瞑って少し考えてるよう
な仕草のあとスッ、と顔を上げてこっちを
見据える
「 チャンミン」
「 はい? 」
「 朝まで抱きしめたらいいんだな 」
そう言って俺に向かってにっ、と笑い
ながら両腕を広げてみせた
ああ少し受け入れられたんじゃないか?
拳は開かれてこちらに向かって伸びる
純粋に惹かれてる相手から好意的なこと
されると嬉しくない人間なんていない
「 あ · · · 」
「 なに今頃照れてるわけ? どうぞ。」
くすくす笑いながら俺を通り過ぎてベッド
の上に横たわる
羽織るまでしてたシャツの前がはだけて
シルクのような肌がのぞく
何故かみてはいけないものを見てるようで
やや視線をそらしてしまった
「 · · · · ほら 」
右手で上掛けを持ち上げて招き入れる仕草
が視覚に官能的過ぎる
この匂いたつ色気に眩暈を覚えた
欲張りな指先は貴方をなぞる · · · ·

