アルムスターファ氏の持つゆえの苦しみ
アルミトラが言った。-----お話しください、あなたの持つゆえの苦しみを。
アルムスターファ氏が答えて言った。
世の中は金持ちは最高だ、金持ちは何事も全く困らない、金持ちは苦しむことがない、と思っているが、持つゆえの苦しみ、という持たざる者には理解されない苦しみがあるのだ。
私は21歳から大規模事業の運営と1800名の従業員の生活を背負ってきた。誰もが「若くして唸るほどの金持ちで、これ以上ない最高の条件を揃えた妻を持った、最高に恵まれた最高に幸せな男」と私のことを呼んだが、果たして私の中ではそれは本当のことを言い当てていただろうか。
21歳。まだ誰もが遊びまわっている時期から仕事に縛られていた。しかも、教えてくれるべき先代はすでに故人であり何が何だかわからないまま月日が過ぎていく。遊びたい盛り、青春盛りの私は自分がこの富裕の家に生まれたからこそのこの不運を呪った。一生このまま、会社のため、人のために働き自分と言うものに直面せずに人生を終えるのでないか。今でこそ、アルミトラと出会ったからこそ、この当時の自分の気持ちを言葉で表現できるが、その時は言葉にならず、ただ虚しい焦りと苦しさで一杯だった。いや、そんな自分の気持ちにさえも気が付いていなかった。気が付くほど自分自身を考えたこともなかったし、誰も、妻さえも、私の苦い気持ちに気付くものはいなかった。