タラとじゃがいものブランダードと、また会いたい理由 | 美味と物語 ~ライターびんこのブログ~

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山形生まれなのに、いきなり沖縄に15年住みました!
その後やってきた大都会の東京は、いろいろタイヘン!!
元・琉球放送報道部リポーターのびんこがお届けする、
おいしいもののブログです♪

 

タラといえば、日本では冬の魚である。その証拠に、タラを漢字で書くと「鱈」。

サカナへんに雪と書く。

「ヨーロッパでも、タラはメジャーな魚なんですよ。塩漬けや干物にして、調味料みたいに使うんです」

「へぇ~。日本でタラといえば、たらちりなんかの鍋料理を思い出すけどねぇ」

 

その日、私がいつものワインバルで注文したのは「タラとじゃがいものブランダード」。

「ブランダード」というのは、南フランスの郷土料理だそうだ。

タラとじゃがいも、牛乳と生クリームにニンニクを加えて、じゃがいもをつぶしながらゆっくりと煮込む。

そして、仕上げにオリーブオイルを合わせて、ペースト状にしている。

それをカリカリに焼いたバゲットにたっぷり塗っていただく。

 

「タラが、こんなにおしゃれな食べ物になるとはね~!」

ブランダードを食べつつ、白ワインを飲みながら、

スタッフから日本とヨーロッパの食文化の違いをさらに聞く。こういう話は、本当に尽きないと思う。

 

「よっ!お待たせ~」

入口の自動ドアが開いて、40代と思しき男性が入ってきた。

耳からイヤホンを外しながら、私の隣席にいる女性の隣りに座った。

女性も、40代くらいであろうか。ショートヘアにゆるくパーマをかけた、凛とした感じの人だ。

「大丈夫。待ってないから。何飲む?」

「う~ん、ボクもスパークリングワインにしようかな」

女性がスパークリングワインを飲んでいるのを見て、彼も同じものを注文した。

ほどなくして、スパークリングワインが来ると、2人で軽くグラスを合わせ、乾杯する。

 

彼の左手にも、彼女の左手にも、指輪はなかった。

友人同士か、恋人同士か、はたまた不倫か…。

私自身、左手の薬指に指輪をはめたことはないので、

同世代くらいの男女がふたりで飲んでいるのを見ると、つい、いろいろ想像してしまう。

ま、自分でいうのも何だが、40代になっても結婚をしていないのには、それなりに理由がある。

だから余計に、そういうカップルを見ると、耳がダンボになってしまう。

 

しばらくは他愛のない感じで会話が進んでいたふたりだったが、

ワインのボトルが1本空いた頃、ほろ酔いになったらしい彼女が言った。

「あのね、実はちょっと聞いてみたいことがあったの」

「な、なに?」と、ちょっとうろたえる彼。

「あのさ、なんであの時、私にまた会おうと思ったの?」

「え?あの時って?」

「ホラ、初めて会った日。帰ってからすぐ、LINEで『次はいつ会う?』って…。

私、あの時、まだまともに自己紹介してなかったんだよ。

でも、なんでまた会ってくれたんだろうって、ずっと不思議だったの」

「ああ、あの時ね。ん~、なんでだろう…」

彼はちょっと考えてから、彼女に向かってこう答えた。

「直感」

「ち、直感?!」

「そう。直感。なんだか、また会ったらおもしろいかもって、思ったから」

「へぇ~。男の人にも直感って、あるんだね。直感なんて、女の特権だと思ってた」

「男にもあるよ、直感。若い時には、あんまりわかんなかったけど」

「ふ~ん。直感、ねぇ。で?その直感、当たってた?」

「当たってなかったら、今ここでキミと会ってないでしょ!」

「ああ、そうだね~!」

ふたりはフフフと笑い合うと、もう一度グラスを合わせて乾杯した。

 

ふたりがどこで出会ったのかはわからないが、

なんとなく会話から想像するに、おそらくバーのような場所で隣り合ったのだろう。

会話が盛り上がって、連絡先を交換する、という流れまでは、よくある話だ。

 

しかし、問題はその先である。

 

「次」があるかないかは、どちらかの勇気とふたりのタイミングによる。

どちらか一方が「次も会いましょう」と連絡し、具体的な日時が決まらないことには、次はない。

よくある「またお会いしましょう」という社交辞令では、少なくともふたりで会う仲にはなれない。

しかも、お互いに40代くらいとなると、結婚している可能性の方が圧倒的に高い。

どちらか一方が「次」へ進みたいと思っても、

その勇気は、20代の勇気とは比較にならないくらい、「えいっ!」という思い切りが必要なのだ。

 

隣席のカップルの場合、「次」のチャンスをつくったのは、彼の方らしい。

「また会いたいと思った理由は直感」と彼は言ったが、

そうでなければ、次の一歩を踏み出せなかっただろうと、私は勝手に想像した。

 

オトナになると、むしろ、考えすぎてはいけない場面がある、と思う。

オトナだからこそ、ノリと勢いが必要なのである。