美味と物語 ~ライターびんこのブログ~

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山形生まれなのに、いきなり沖縄に15年住みました!
その後やってきた大都会の東京は、いろいろタイヘン!!
元・琉球放送報道部リポーターのびんこがお届けする、
仕事と、美味と、言葉のブログです♪


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その日、私は珍しく、他の店で食事を終えてから、いつもの居酒屋へ。

「お~、いらっしゃい。今日は遅いね」

グループ客を送り出して、テーブルの片付けをしていた店主が言った。

「うん。ちょっと食べてから来ちゃった。濃い目の日本酒、もらおうかな。それと、おすすめのおつまみも」

「はい、かしこまりました~」

 

店主はそう言うと、よく磨かれた日本酒用のグラスを用意した。

日本酒の一升瓶がたくさん並んだ冷蔵庫の前でしばらく考えてから、日本酒を1本、取り出した。

用意したグラスいっぱいに、その日本酒を注ぐ。

「つまみはさ、まぐろのユッケなんかどう?」

「まぐろのユッケ?」

「そうそう。ユッケの牛肉をまぐろにしたヤツ」

「いいね~。んじゃ、それで!」

 

ほどなくして登場した「まぐろのユッケ」は、韓国料理のユッケのまぐろバージョン。

通常、ユッケは牛肉の赤身で作るが、それをまぐろの赤身で作ったものだ。

細かく切ったまぐろに、ねぎやにんにくを混ぜ、ゴマ油やしょう油などで味付けし、

盛り付けて、最後に卵黄をのせている。

「はいよ~。お待たせ」

「お~!おいしそ~!」

私は早速、まぐろの真ん中にのった卵黄を箸でつぶし、

まぐろとよく混ぜてから、パクリと口へ入れた。

「ん~!お酒が進む味だねぇ」

卵黄とゴマ油のコクが、ガッツリした日本酒とよく合った。

 

「ねぇ、なんで男の人ってさ、元カノに平気で連絡してくるわけ?」

ふと見ると、2つ隣りのカウンター席で、女性の常連さんが男性の常連さんとおしゃべりしている。

女性はショートヘアにきれいめのカジュアルファッション、

男性は大柄で肌の色が浅黒い、スポーツマンタイプだ。

どちらも、この店でよく見る常連さんである。

 

「え?なんでって、そんなことがあったんですか?」

「そう。あったのよ~。つい最近」

「LINEですか?」

「ううん。電話。LINEなら、スルーできるでしょ」

「電話?!それで、なんて言ったんですか?」

「ごめんなさい。覚えてないんです、って言って切った」

「ひどいなぁ。本当は覚えていたんでしょ?」

「覚えていたけど、もう何年も前の人だよ。今さら、何の用があるっての?」

「何の用って、用がなくても、電話したくなったのかもしれませんよ」

「だってさ、平日の昼間だよ。忙しかったんだもん」

「平日の、昼間?元カレから?」

「うん。あれはなんだったんだろう??」

「なんでしょうね~。でも、男はありますよ。元カノに連絡したくなる時が」

「キミもあるの??元カノに連絡したくなる時が!!」

「ありますよ~」

「んで?連絡したの?」

 

ショートヘアの常連さんが、ニヤリと笑いながら言う。さり気なく「連絡した?」と過去形にして。

ギクリとしたようなスポーツマン君は、エへへと苦笑いをしながら、こう言った。

「しました。連絡」

「ええ~!!LINEで?電話で?それで、どうしたの?」

「LINEで連絡したら、向こうは『久しぶり』って返事くれたんですけど、もう彼氏がいるみたいで…」

「ああ~、そりゃムリだわね。女は、今の彼氏がいるんなら、昔の男ってどうでもいいから」

「やっぱり、そういうもんですか…」

「当たり前じゃん!男みたいに、何人もいっぺんに相手はできないんですよ、女性は」

「そうですよねぇ…」

 

会話の口火は、ショートヘアさんの「なんで男は元カノに連絡して来るのか」だったはずだが、

いつの間にかスポーツマンさんの「元カノに連絡してしまった」という話になっていた。

スポーツマンさんは、見た目ではガッシリしていて強そうだが、案外、女々しいところがあるんだな、と私は思った。

 

いや、意外と、本当に強いのは女性の方なのかもしれない。

女はいつだって、過去は振り返らない。特に、男に関しては。

「まぁ、振り返ってもしょうがないからねぇ」

「ん?何を振り返るって?」

独り言ちた私に、店主が聞いた。

「あ、何でもない。日本酒、もう一杯お願いします」

「はいよ~」

私は振り返りたくなったら、酔って忘れる。そしてまた、前を向くのだ。

 

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