猫たちのいる家⑪
2,新しい学校
お弁当を食べ終わって机をもどしていると、グループの子たちが集まってきた。
「あのさ、クリスマス会、友乃んちでやるんだけど、来るでしょ?」
美佳ちゃんが聞く。
「クリスマス会?」
「そう。みんなでおかしとプレゼント持ちよってやるの」
「あたしも行っていいの?」
友乃ちゃんに聞くと、
「うん」
「じゃあ、二十日の土曜、一時に友乃んちね。みんなで食べるおかしと、五百円くらいのプレゼント持ってきて」
「わかった。楽しみだね~」
あたしは、とても嬉しそうににっこり笑った。心の中で、ふうっとため息をつきながら。
人と一緒にいるのが、あたしは好きじゃない。一緒にいると、すごく疲れるから。
誰もいない無人島で、お金の心配がなく一人で暮らせたら、それが一番だと思う。でも今あたしがいるのは無人島じゃないから、なんとか人とうまくやっていかないといけない。
学校では、グループの子たちとうまくやるために、一緒にいて楽しく見えるように毎日演技している。
由里さんの家でも、演技はかかせない。
演技するのはとくいだ。大人たちには優等生のいい子。友達にはいい子すぎてイヤミにならないように、てきとうにぼけて見せて、明るくてつきあいやすい子だと思わせる。
人といる時は、これまでいつだって演技してきた。だから人と一緒にいると疲れるんだけど、今は自分の部屋があるから前よりずっと楽だ。真知子おばさんちでは、従姉妹の可奈ちゃんと一緒の部屋だったからつらかった。
由里さんもおじさんも、うるさいことは言ってこない。ほとんど他人だからなんだろう。血のつながりがないっていうのは、とても楽だ。
由里さんは基本的に、猫たちの世話と仕事、沙由さんの送り迎えなんかで忙しい。由里さんの仕事は、手芸だ。由里さんは手芸作家で、作品を作ってはグループ展を開いたり、色々な店に作品をおろしている。ネット販売もやっているようだ。
だからかな。猫たちが多いのに、家はいつもセンスよく飾られていて、由里さんも年のわりにきれいにしている。
幸せな家族。
おじさんのお給料もいいから、猫たちの保護なんてやれているんだろう。生活にゆとりがあるんだ。
由里さんは他のおばさんたちと違ってパートなんかじゃなくて好きな仕事をしているし、一人っ子の沙由さんに知的障害さえなければ、完璧な家だ。
完璧な家になるはずだったのに、神様が苦難を与えた。世の中には、大変なこともあるんですよと知らせるために。
そう、世の中には、大変なことがある。幸せなことばかりじゃない。