意志が全て2 | Tarih-i Bosna

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ボスニア近代史を中心に: 備忘録

メモ: 十九世紀末二十世紀初頭ハプスブルク帝国ドイツ語圏の心理学に見られる人格:

ロベルト・ツィマーマンやグスタフ・リンドナーの様なヘルバルト系の心理学においては表象相互の運動による抵抗状態からの解放努力が欲求とみなされ、快・不快感情は単なる随伴現象とみなされる。ここに達成可能性についての表象が付加されると、欲求は意志へと成長する。この意志と統覚的に働く自己表象(Ichvorstellung)とが結合することで、行動全般を統括する人格へと到達すると解釈された。すなわち成功した経験の蓄積が特殊な表象圏域を構築することで一定の行動への傾性を生み出す。類似の行動は一定の表象系列を通じて行われることで実践的規則となり、統覚を行う能力を帯びるようになる。統覚は多くの表象系列の中心に位置して、多くの補助的な表象を従えた表象の一群に左右される。そしてこの実践的規則としての統覚に基づいて一貫した行動をおこなう人格が産出されるのである。

十九世紀末に近づくと表象に全てを還元するヘルバルト系心理学は後退していく。それとともに随伴現象とみなされた快・不快の感情に行動の起因を探る視点が生物学的理解として登場してくる。特にフリードリヒ・ヨードルは全ての欲求は快・不快に依存し、思考を通じて修正・補完されながらも、快・不快という感情価値が意志の方向性に決定的な影響を及ぼすと解釈している。しかしながら過去の経験に基づく表象と判断の蓄積が意志の最終段階である決断において重要な役割を担うことを否定はしない。表象は連合を形成し、反復されることで習慣付けられ心的傾性を形成する。そして注意を通じて活性化された一定の表象傾性(Vorstellungsdisposition)を通じて新たな表象の取り込みが統覚として行われ、これが表象の流れを方向付けるのである。ゆえに人格は原則の束として解釈されるのである。ただし注意という活動を挙げているように、この表象群は一方的に意志を方向付けるのではなく、意志との相互作用のうちに存在することも指摘している。

他方で過度に感情に重点を置くことに批判的な人々も存在した。代表的なのはアロイス・ヘフラー及びステファン・ウィタゼクであろう。彼らによれば意志にはふたつの原因がある。意識の内に存在する原因は動機と呼ばれ、快感情を含めた、表象や行動全般に関する仮定である。もうひとつは意識の外に存在する傾性である。意志に関する傾性は意志傾性と呼ばれ、それは意志の弱さに表出されるような直接的傾性と間接的傾性によって構成される。間接的傾性には気質のような感情傾性が重要であるが、表象傾性および判断傾性も意志に大きな影響を与える。表象傾性は先行する表象を通じて内容が似通った表象を体験させる傾性であり、それは表象連合によって行われる。この表象傾性を含め、熟慮・判断の習慣づけや理解力等が判断傾性を意味する。これらを包括する意志傾性は人格と呼称された。個々の行動へと至る動機は一定の人格という前提条件の下においてのみ可能である。すべての心的現象は表象自体であるか、それを基盤として有する以上、表象連合に基づく表象傾性は意志に関して、全てではないにしろ重要な要因となっている。

十九世紀後半から第一次世界大戦に至る時期: 意志のメカニズムにおいて何処に強調点を置くのかに関して差異はあるが、それでも一貫して連合主義心理学に依拠し、表象の連合と統覚の形成が人格陶冶の要に位置していたと云える。但しより詳しく検討するには当時の生理学と解剖学等も参照する必要がありそうだ…

 

参考文献: Alois Höfler, Psychologie, Wien und Prag, 1897, Alois Höfler, Grundlehren der Psychologie, Wien und Leipzig, vierte Auflage, 1908, Friedrich Jodl, Lehrbuch der Psychologie, Stuttgart, 1896, Gustav Adolf Lindner (translated by Chas. DeGarmo), Manual of Empirical Psychology as an Inductive Science, Boston, 1889, Robert Zimmerman, Philosophische Propaedeutik, Wien, dritte Auflage, 1867, Stephan Witasek, Grundlinien der Psychologie, Leipzig, 1908 und Wilhelm Jerusalem, Lehrbuch der Psychologie, Wien und Leipzig, dritte Auflage, 1903.