初恋 9 | 青い人 嵐妄想小説

青い人 嵐妄想小説

気象系グループをモチーフとしたお話のブログとなっております。ブログ内のお話しは全て架空のモノです。腐的要素が含まれておりますので苦手な方は閲覧注意ください。アメンバー承認は以前よりコメメッセで絡んだ方のみです。

〜〜閲覧注意〜〜
腐的表現を含む場合があります






薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり












しんと静まる和室…

真ん中に置かれた火鉢…
パチパチと控えめな火の音… 

無駄のない動き、お爺様はやや腰が悪いが茶をたてるときは凛とする…その真剣な横顔は、とても格好良い…
必死に、技を盗もうと凝視するが 自分にはどうしても真似できない…




コト…

『…ふぅ…翔?』

『あ、す すいません…只今…』


稽古をつけて頂いてるのに、ぼぅっと違う事を考えてしまった…
その考えを見透かすように、久しぶりにつけて頂いた稽古は、思ったよりも早く終わってしまった……

まだ熱いお茶が、目の前で湯気を燻らせている…


『…翔?、今日のお前は雑念だらけじゃな』

『も 申し訳ありません…』


『なに…そんなに急ぐ事はない…それに…わしもここ数日は思うようにたてられなかったからな…一握りの不安は、大きな足枷となる…
久しぶりに翔のためにたてたお茶は…きっともう元に戻っているはずだ…』

『はい…変わらぬ味です…お爺様の優しい美味しさです…でも…なぜお爺様は…』

『…世話になった家の主人がな…思わしくなくて…心配するあまり、どうも上手くいかなくなってしまった…これは、長い人生の中で2度目だ…』

『そうだったんですね…では、もうご病気は治った…と言う事ですか?』

『……ああ、おそらく…起き上がれるまでにはなったので、心底安心した……』

安堵の表情を浮かべたお爺様は、まるで恋をした乙女のように…開け放たれた障子の先、丘の上を眺めて何かに想いを馳せているようだった…


『……翔… 焦るでないぞ…目に見えたものだけを迂闊に信じるのではなく…己の心の赴くまま…感じるままに……身体を動かせばいいのだ…』

『…はい……努力します…ありがとうございました…』




お爺様の言葉は、偶に難しい…言葉一つ一つが深く根が這っていて、全て理解するのには時間がかかる…

『心の赴くままに……かぁ…』



自室に戻ると、障子を開けた…
丘の上…一本の桜の樹、今日も貴女に会えますように…心のまま願いを告げて、書の練習へと集中を向けた……













『……こんばんは、翔さん…』

『こんばんは、智子さん…』


その日の晩、丘の上のいつもの場所で、智子さんに会う…ころころ変わる表情や、鈴の音のように軽やかに笑う声、口元に当てる細くて長い指…どれも美しくて魅力的で…惹かれていくのを止めることができなかった……



『…翔さん?なんだか楽しそうね…お稽古上達されたのかしら?』

『あ、いやぁ…その……実は壁にぶつかってまして…でもそんなに落ち込んでいません…何故でしょうね…智子さんとお話しできるからかもしれません…』

『………まるで恋文のような言いようね…勘違いしてしまいますわ…』



『…勘違いじゃないですよ…あぁ何故だろう…今日の智子さんは一段と魅力的です…』


『んふふ…変な翔さん…さ、冗談は置いておいて、そろそろ帰りますわ…肌寒くなってきた事ですし…』

『えぇ?もう…あ、いや…その、寂しいなと』

『そうね、私も寂しいですわ…でもまたお会いできるから…ね?…おやすみなさい翔さん』


そう言うと、智子さんはくるりと横を向いて…帰って行かれた……名残惜しい俺は、しばらくそこから動けず貴女の後ろ姿を見送っていた…



『うまくはぐらかされたなぁ…』





帰り道、智子さんの細い指を思い出す
どこかでその指を見た気がする…
笑う時、口元を覆う指先…番傘に添えられた手…
もう 抗えないくらい貴女に惹かれてる…