我輩が生まれたのは、東北の本当に山の奥で…
「多分、文化の波及が日本で一番遅いのではないか」
と、子供心にも思ったぐらいだ。
それでもなぜか、クリスマスイブだけは豪勢に賑やかにやっていた記憶がある。
もちろんそれにしても、〈普段の生活に比較すれば〉ということだが…

ミカンの箱が開けられ食べ放題になり、飲み物がありケーキがあった。
このケーキをイブの午後に年の離れた兄貴が街まで買いにいくのだが、いつも決まって二段だった記憶がある。
高さがあるので大袈裟なほど大きい箱に入っていて、それを大の大人が二人がかりで車から降ろすのだからたまらない。
その光景を見ているだけでワクワクしたものである。

そしていよいよ箱を開けた瞬間…
まだバタークリームの時代であったり、生のイチゴではなくゼリーであったり今のケーキからは数段劣るものだ。
それでもツリーがのって蝋細工のサンタやトナカイがのって、我々幼い子供にはやはり夢の世界のお菓子だった。

我輩が子育てをしていく上で、大事にしていることが幾つかある。
やがて巣だ立っていく子供達に、林下家で暮らしている間にどれだけの思い出を与えてやれるかということもそのひとつ……


その思いの原点が、実家でのこのクリスマスイブなのかも知れない。