昨日からの続き、図Bに関してです。
SHP2による脱チロシンリン酸化の系はPTP1Bとは違って、基本的にRas→Raf→ERKの経路の活性化を誘導するとされます。この点に関し次の作用が報告されています。
1) SHP2は、チロシンリン酸化を介してのRTKの細胞質内ドメインとRasGAPの結合を阻止、あるいはチロシンリン酸化を介したGab1とRasGAPの結合を阻止することにより、RasGAPの機能を抑制します。上記のようにRasGAPの機能はRasの非活性化ですので、この場合結局Rasの機能亢進に働きます。
2) SHP2は、チロシンリン酸化を介したCSKとPaxillinの結合を阻止します。CSKはSrcの阻害作用を持ち、CSKの活性化は本来CSK→Srcの非活性化→Rasの非活性化と繋がってゆきますので、SHP2はこの経路を抑制することにより結局Rasの活性化を引き起こすわけですね。
3) さらにSHP2により、Rasの抑制蛋白(regative regulator)であるSprouty蛋白が脱チロシンリン酸化します。その結果Sproutyの機能が抑制され、Rasの活性化が起こります。
4) SHP2はGrb2とSOSのリクルートメントのアダプターとして働きます。その結果Rasの活性化を引き起こします。
上記の1)~4)の経路を通して、SHP2はRas経路を活性化すると考えられています。
それ以外にSHP2の作用としてRTKのチロシンリン酸化に引き続くGab1とPI3Kの結合はSHP2により阻止されます。その結果下流の分子であるAKTの活性が調節されるわけですが、この様式(活性化、非活性化など)は細胞や受容体リガンドの種類により相違するようです。
さらに、SHP2によるJAK/STAT、JNK、NFkB系に関与することも報告されています。