2月27日(日)つづき

朝方になり、訪看さんが帰った。
先生は10時頃、また様子を見に来ると言っていた。


父は小さくぜいぜいしながら、眠りについてるようだった。

左目のまぶたが、完全には閉じなくて、
抑えたりしたんだけど、開いちゃって。

目が乾かないか心配だったけど…


耳は聞こえてる…と言ってたので

眠っていたとしても、みんなちょくちょく父に話しかけていた。




親戚に連絡を取らないままでいたんだけど、

確か…26日だったかなぁ?

おばさん(父の妹)から再度連絡があって、

そのとき、今の状況を話せたんだった。


それでおばさんが、父の状態を親戚みんなに連絡してくれて、
この日は親戚一同が父に会いに来ることになっていた。



それまで時間が少しでもあるなら…と、仮眠をとった。



しばらくして、実家で待機していた旦那が来てくれた。
お義母さんも一緒に。


母と一緒に、今までのことを謝り、お礼を言った。

結婚して一緒になったのに、旦那そっちのけで、実家に帰って来てたこと…


お義母さんは「(旦那と私が)仲良くやってくれさえすれば、いいのよ~」と言っていたけど。。


「うちのパパの時は、娘たち(旦那の姉と妹)はここまでやってくれるかしら~」とか。


しばらく様子を見て、旦那だけおいて帰って行った。



ちなみに妹の旦那も、子供つれて来てくれることになっていた。
朝の新幹線で。

たぶん…父が孫に会える、最後のチャンスだから…。








朝…10時頃。


先生が様子を見に来た。



「今日、親戚が来ます。それから、孫も。」



先生はそれを聞いて、


「じゃあ、みんなと話したいよね。
お孫さん来るんだって!良かったねー」って、


何らかのコミュニケーションをとれるように、と注射を打たずに帰った。



意識が戻った頃、きっとみんながいるから…。




それからしばらくして、親族がぞくぞく集まって来た。

父の兄弟たちだ。
父にとっての姪たちも来た。



「今、眠ってるけど、声は聞こえると思うんで…」



みんな父に声をかける。



私は父をまたぐようにベッドにあがり、両手をお尻の下にいれて、出っぱっている骨を優しくカバーしたりした。



父の両手…両足は…



すごく、冷たかった。



血の気が一気に引いてしまったみたいに。


ずっとひどかったむくみも一気に引いてる。




あちらから、こちらから、集まる親族。



昼頃…だったかな…



父が意識を取り戻した。



父は…もう声が出せなかった。


口はパクパクして、何か言いたそうなんだけど、言葉にならない声で…



「ごめんね、お父さん…

分からない…」



手の力を振り絞って、父は、「筆談」のジェスチャーをした。


すぐにペンを持たせ、なんとか版に紙をはさみ、寝ている父が書きやすいように斜めにして自分の手で固定した。




その字は…



どうにか、考えれば読める…という形だった。






「いつまで


こんな苦しいのが


つづくのか」





書き終わると、力つきたように腕が落とされる。




母も、さなも、もちろん私も、

何と言ったらいいのか、わからなかった。




いつまで…




「お父さん…、ごめんね、苦しいよね…」



謝ることしか、できなくて…






親族が声をかける。



父は、目をつむり、眉間にしわを寄せた状態で、
うんうんと、小さくうなずくのがやっとだった。



たぶん、それも相当の力が必要だったのだろう…



そして、また筆談のジェスチャー。







「どうして


皆 あつまってるの」








私はわざと明るく言った。





「今日はねー、すごく天気がいいし、日曜日だから、みんなお父さんの顔見たいって、偶然重なったんだって!

みんな来てくれて良かったね」





父は、どう思っただろう…




素直に信じたのか…


それとも


死期を悟ったのか…





でもたぶん、あの質問自体、自らの死期を悟ったからなんじゃないか…と、ちょっと思ってる。


みんな心配だから、来るし、

でもそれがそういう思いにさせてしまっているのかもしれないし。








午後2時頃、さなの子供・父の孫が到着した。



「お父さん!○○が来たよ!!」


さなの旦那が子供を父のそばへと近づける。





それまで、うなずくのもやっとだった父だが、

孫が来たと聞いて、




目をしっかり見開いて


顔を左へ傾けて


右手を伸ばして


孫の小さな手を握った。






出なかった声まで…!




何度も何度も孫の名前を呼んで。





ほんとに、その時、痛感した。



父にとっての「孫」という存在の大きさ。



かわいくて、かわいくて、仕方がないのだろう。



そのふれあいってやっぱりすごくて、
そこにいるみんながビックリしながら目に涙を浮かべた。





会えて良かった。







つづく