「マルクス兄弟」が好きだ。
中でもハーポが大好きだ。
トーキー全盛期にありながら一言の台詞を発する事もなく、ありとあらゆる物をコートの下に忍ばせて、何でもかんでも食べてしまう。
今堕天使のような顔で女の子を追いかけ回していたかと思うと、次の瞬間には世界的腕前で、センチメンタルにハープを弾いたりもする。
八十年も前にハーポ・マルクスは、‘愛らしさ’と‘狂暴性’の両立をやってのけた。
そのシュールなギャップが、当時のアナーキスト達には大いにウケたそうだ。
マルクス兄弟の映画を観ていて、ひたすら馬鹿に暴れ回るスクリーンの中の彼らに、哀しくもないのにふと、涙が零れる時がある。
…道化に徹した笑顔が、どういう訳か涙を誘う。
笑いの向こうには、どうも‘何かが潜んでいる’気が、してならない。