資生堂社長魚谷雅彦さん―「あなたのための」化粧品に、常識覆す価値観提案(トップに聞く) 2017 | OVERNIGHT SUCCESS

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資生堂社長魚谷雅彦さん―「あなたのための」化粧品に、常識覆す価値観提案(トップに聞く)

 

 資生堂の社長にプロパーではない魚谷雅彦氏が就任してから4月で丸3年。ブランド戦略の立て直し、社員の意識改革に取り組み、ようやく攻めの基盤が整いつつある。一段と消費者志向が多様化する時代。魚谷社長は「売り込む」から「買ってもらえる」化粧品ビジネスへの転換を急ぐ。(聞き手は日経MJ編集長 中村直文)
若年層開拓へ
ブランド磨く
 ――魚谷体制が4月で4年目に入ります。改革は進みましたか。
 「それまでは国内外含めて新しい店舗に商品を入れるプッシュ型営業が中心でした。しかしお客様に買ってもらい続けるにはブランド力を磨き、顧客を特定しないと。それは、世代ではなく価値観や趣味、交友関係などから決まります」
 「資生堂というブランドは世界的に知名度も高いですが、お母さんのブランドという存在にもなっている。もう少し若い人に手にとってもらえるようなブランドへ、リフレッシュする必要があります」
 ――そのために作ったのがブランドマネジャーですね。
 「そうです。製品・技術本位の経営を変えていこうと。資生堂では主に50代以上の『プリオール』のブランドマネジャーはこれを見事にやっていましたけどね。市場調査だけでなく、生の声を聞いて新たな方向性を見いだしています。それを他のブランドでもできるような仕組みに変えたわけです。同時に販売の現場まで一体化し、損益まで責任を持つブランドのビジネス化を進めています」
 「あとはグローバルでブランドを広げられるように昨年1月、世界6カ所に地域本社制を導入しました。化粧品市場は国・地域で違いが大きい。日本は7割がスキンケアで、米国はメーキャップが中心。欧州はフレグランスですから。中国はスキンケアが中心ですが、メーキャップが大きくなるでしょう」
 ――日本人の化粧品に対する考え方は変わってきたのでしょうか。
 「購入先が広がりました。ファッションがカジュアル化し、百貨店で購入していた顧客もセルフ型やネットにシフトしていて中間層もじっとしていません。上や下に動いている。資生堂としては化粧品のありようを消費者に問い直しています」
 「中国人に聞くと外面も内面も美しくすること、米国の都市部の女性は明らかに自己表現。日本は外出するためのエチケット。しかしシニア層も含めてその価値観は変わっていきます。例えばシニア向けのファンデーションでは光るようなパール素材は絶対に使ってはいけないと思っていましたが、実際は逆でした。その辺をとらえていかに提案できるかです」
 ――他にも認識のズレはありましたか。
 「若い世代ではポーチの中身ですね。昔は資生堂ユーザーはすべて資生堂商品でしたが、今は色々なブランドを組み合わせています。だからブランド戦略を変えたのです。資生堂のマキアージュ、資生堂のエリクシールから、資生堂の名前を外し、ブランドを前面に押し出しました」
トイレタリー
立て直し急ぐ
 ――シャンプーなどトイレタリー系は弱いですね。
 「資生堂に入った頃、営業は化粧品と同じ部署でやっていましたが、そもそも価格帯、消費者、買われ方、売り場も違うので無理がある。そこで2016年にトイレタリー部門を独立させ、立て直します」
 ――量販品は苦しい。マスマーケティングの見直しが必要ですね。
 「当社の新商品提案でみんながやりがちなのは市場背景の説明です。すでにある市場を議論しても仕方ありません。ロジックではなく、『新しい価値は何か』だけで考えてほしいと伝えています。市場は作るんだと」
 「隠れたヒットが『イプサ』。情報漏洩で迷惑をかけましたが、中国でものすごく売れています。一人ひとりのお客様に機械を使い、カルテを作って美容部員がひと味違う診断をします。都市部の女性は環境面から肌に敏感になっているからでしょう。東京でも好調。納得感があるとリピート率が高くなります」
 ――マーケティングに攻めは必要です。一方で25歳の女性がもう女の子ではないという表現をした「インテグレート」のCMはたたかれました。
 「大人の女性へ変わっていこうというメッセージを考え、事前調査も評判が良かった。自信を持ってOKを出しましたが(年齢で女性を分けるやり方への批判に)驚きました。共感も多かったのですが、2本目は男性上司が頑張っている女性をシニカルに見るCM。今の働き方問題と結びつけられて中止を余儀なくされました。タイミングが悪かった」
 「空気を読まないといけないのですが、迎合しすぎるとつまらなくなりますし、難しい。担当者を非難しません。ここから学ぶと伝えています。1960年代、色白が日本女性が求める価値観だった時代に、『太陽に恋をしよう、真っ黒になりましょう』と打ち出したCMがありました。世間の常識を考えたら、できなかったでしょう」
業績データから
海外で美容液堅調
 資生堂の2016年1~9月期の売上高は前年同期比1・3%減の6227億円だった。ジャンポール・ゴルチエのライセンス事業がなくなった欧州を除く全地域で増収だったが、為替の影響を受けた。一方で営業利益は同17%増の387億円。特に「SHISEIDO」ブランドの美容液「アルティミューン」が落ち込まずに推移している。
 国内の化粧品では「エリクシール」「マキアージュ」が強いブランドとして復活したが、高級シャンプー「TSUBAKI」は苦戦。男性用の「UNO(ウーノ)」も商品リニューアルの途上だ。無名の化粧品に脚光が集まるネット時代は、過去のブランド力が必ずしも生きるとはいえない。ブランド作りにたける資生堂にとっては、むしろ腕の見せどころかもしれない。(佐々木元樹)
 うおたに・まさひこ 1977年(昭52年)同志社大文卒、ライオン歯磨(現ライオン)入社。83年米コロンビア大経営大学院修了、MBA(経営学修士)取得。2001年日本コカ・コーラ社長、06年同会長。13年資生堂マーケティング統括顧問、14年から現職。趣味のゴルフはプロ並みの腕前。奈良県出身。62歳。
【図・写真】ズーム 約40人のヘア&メーキャップアーティストのセンスを結集して新ブランドを立ち上げた