バーミンガム市響の音楽監督を務め、来年6月にはベルリン・フィルにもデビューする山田和樹得意のフランス音楽。
しかし、2012年9月3日サントリーホールでの「山田和樹日本フィルコンチェルトシリーズ第1回」で小山実稚恵とラヴェルのピアノ協奏曲と左手のための協奏曲を共演した後のサイン会で、本人に「今年山田さんのラヴェルの協奏曲3回聴きました。 東フィル、新日本フィル、そして今日の日フィル。 今日が一番良かったです」 と伝えると、「ああ、それは私のラヴェル体験の全てです」 という答えが返ってきたことを思うと、この12年でラヴェル体験をどれだけ重ねたのか、隔世の感がある。
おそらくスイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者時代(2012-2018年)と2016年から音楽・芸術監督を務めているモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団でフランス音楽に集中的に取り組んだのではないだろうか。
ルーセル/バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」作品43─組曲 第1番
は色彩感のある勢いのある演奏。特にテセウスのナクソス島への凱旋の冒頭と、テセウスらの退却と嵐の場面の激しい箇所は、弾けるようなエネルギーが充満した。
金管が強奏で濁る点が気になった。もう少しクリアなアンサンブルだとさらに良かったのだが。
バルトーク/ピアノ協奏曲 第3番
ソリストはフランチェスコ・ピエモンテージ。1983年、スイスのイタリア語圏ロカルノ生まれ。2007年エリザベート王妃国際音楽コンクール第3位。2020年ベルリン・フィルにデビュー。
素晴らしい演奏だった。タッチにインパクトがあり力強いが、同時にキレのいい豊かな響きで、奥行きもある演奏。野性的だが粗くない。芯がしっかりとしており、ピアノを鳴らし切る。
山田和樹N響もピエモンテージにぴったりとつけ、息の合ったスリリングな共演となった。
アンコールは6つのシュープラー・コラール BWV 645-650 - 目覚めよ、と呼ぶ声あり BWV 645 (F. ブゾーニによるピアノ編→ケンプ編が正しい)
ピエモンテージはペンタトンレーベルに「バッハ・ノスタリジア」というタイトルの録音があるが、その中にも入っている。コーダに向かって2声から3声へと声部が増えていく技巧的な編曲。広いNHKホールを満たす音量も豊かで迫力があった。
お詫びと訂正:
N響の発表の通り、ピエモンテージが弾いたのはケンプ編曲版でした。
現場で担当者が確認したところ、ピエモンテージ本人が「ケンプ編曲版」で演奏すると明言されたとのことです。
後半1曲目はラヴェル/優雅で感傷的なワルツ。
ラヴェルらしい雰囲気が充満するが、もう一歩幻想的な響きにまでは至らず。第2曲でのフルート首席の甲斐雅之のソロは柔らかな響きでいかにもラヴェルらしい音だった。
勢いのある第6曲を終わると同時に山田は大きく両腕を左右に開いてピタリと止め拍手を抑え、最後のエピローグにつなげた。全曲の中ではこれが最も幻想的な演奏で、文字通り夢のような世界へと誘った。
ドビュッシー/管弦楽のための「映像」─「 イベリア」
今日の白眉。
Ⅰ〈町の道と田舎の道〉 セビリャーナス(フラメンコ風の踊り)のリズムで始まる冒頭から輝かしく切れがある。 ホルンとトランペットのファンファーレも輝かしい。
Ⅱ〈夜のかおり〉 タイトルのイメージ通りの香り高い夜の雰囲気が充満する。弦の柔らかさと繊細な表情、オーボエやハープの表情も細やかだ。
〈祭りの朝〉への移行時のフルートのソロも繊細。
Ⅲ〈祭りの朝〉
活気あるリズムで始まる。ヴァイオリン群のピッツィカートがギターのように響き、クラリネット首席の松本健司のソロを山田が思いきり煽り、一層の活気を与える。コンサートマスター郷古廉のソロも短いが聴かせる。3音のモチーフがつくるリズムがユーモラスで素朴な雰囲気を醸し、一気にコーダに持ち込んだ。
山田N響の息も最後になって完璧に合い、フランス音楽における山田和樹の面目躍如というべき演奏が実現、客席も沸いた。
第2022回 定期公演 Aプログラム
2024年11月9日 (土) 開演 6:00pm
NHKホール
曲目
ルーセル/バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」作品43─組曲 第1番
バルトーク/ピアノ協奏曲 第3番
アンコール/6つのシュープラー・コラール BWV 645-650 - 目覚めよ、と呼ぶ声あり BWV 645 (F. ブゾーニによるピアノ編)
ラヴェル/優雅で感傷的なワルツ
ドビュッシー/管弦楽のための「映像」─「 イベリア」
指揮 : 山田和樹
ピアノ : フランチェスコ・ピエモンテージ