ヤンソンス&バイエルン放送響。ベートーヴェン交響曲全曲 第2夜
現代最高のベートーヴェンを聴く幸福感と余韻は続く。
2012年11月27日(火)19時 サントリーホール
ベートーヴェン交響曲全曲演奏会 第2回
管弦楽:バイエルン放送交響楽団
指揮:マリス・ヤンソンス
ベートーヴェン:
交響曲第1番 ハ長調 OP.21
交響曲第2番 ニ長調 OP.36
交響曲第5番 ハ短調「運命」 OP.67
マリス・ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団によるベートーヴェン交響曲全曲演奏会二日目。オーケストラは第1、2番では12型(12-10-8-6-4)、第5番では16型(16-14-12-10-8)。ヴァイオリンは対向配置。コントラバスは下手に配置。なお、昨日は14型(14-12-10-8-6)だった。
第5番「運命」は、これまでで最大の編成のため、音の厚みと音量は1番から4番とは段違い。演奏内容もさらにスケールが大きくなっていて、第4楽章などオケの真ん中でベートーヴェンが仁王立ちとなって楽員を鼓舞しているような光景が浮かんでくる力強く推進力に満ちた演奏だった。
「タタタター」の主題のフェルマータは長くは伸ばさない。その一寸の間の緊張感を保ったまま第1楽章を通す。バランスのとれたオーケストラの響きには柔らかさがあり、各楽器の音色もよくわかる。オーボエのカデンツァはよく歌う。
第2楽章第1主題の歌いだしのやわらかな響きをつくるヴィオラとチェロはこのオケの肝かもしれない。変奏部分のふたつの楽器の16分・32分音符の響きは最高の耳の贅沢と言える。
133小節からのオーボエとフルート、クラリネットによる三重奏もよかった。オーボエ奏者がフルート奏者に身体を向けハーモニーを合わせようとする姿が印象的だ。
第3楽章115小節から130小節までチェロの対旋律の響きが上質で聴きほれる。
オケから少し離れてティンパニの横に位置するトランペット2本はすこし暗くて重く潤いがある音に輝きも加わるので「いぶし銀」という表現がぴったり。
第4楽章冒頭トロンボーン3本、ピッコロ、コントラファゴットも加わり、音はますます厚みと増し輝かしくなる。腹にドスンと響くような重量感を持っている。提示部繰り返しあり。ヤンソンスは今回全ての提示部の繰り返しを行っていた。一気呵成に展開部が終わる。
再現部は提示部より重みが加わる。
コーダのファゴットのあとのホルンが珍しく最初の音をはずす。出番が少なかったピッコロ奏者がはりきって吹く。一緒に吹くフルートも明快な響き。全オーケストラが大きな岩となって崖をころがり落ちて行くような勢いを持って終止に突き進む。叩きつける和音も乱れず響きの美しさを保っている。解放感が充満するコーダ。
拍手とブラヴォは止まず、昨日に続きアンコールが演奏された。またも弦楽のみで、ハイドン(ティエリオ)の弦楽四重奏曲ヘ長調から第2楽章「セレナーデ」。いわゆる「ハイドンのセレナーデ」。第1ヴァイオリンが旋律を弾き、他の弦はピチカートを奏する。ヴァイオリン群の音色の素晴らしさをまたもじっくりと味わうことができた。LB席真上から一本の絹糸のような弱音の美しいヴァイオリンの響きを聴くのは最高の贅沢だ。
前半に第1番と第2番が演奏された。編成は昨日が14型だったのに対し12型とこぶりになっている。第1番がよかった。特に第3楽章と第4楽章がはつらつとして昨晩の第4番の名演を思い出させた。
第2番では、管楽器奏者は交替したものの、弦はほとんど同じメンバーで演奏しており、疲れのためか少し集中が切れたように感じた。第2楽章のすこし速めテンポは全体のテンポからきているものなので、ここだけを遅くすることはできないだろうが、個人的にはもう少しゆったりと歌ってくれたらなあ、とないものねだりをしたくなった。
弦の美しさ、木管のハーモニーのなんとも言えない心地よさは1番、2番ではより一層発揮されていた。
この日もNHKによるハイビジョン収録が行われていたが、友人がカメラマンに聞いたところ来年1月にBSで放映されるとのこと。DVDを買わなくてもすみそうでうれしい。
会場で発売されたばかりのCD版ベートーヴェン交響曲全集(録音2007、2008、2012年)を買った。2枚聴いた印象では今回のツィクルスとほぼ同じで素晴らしいが、実際のコンサート会場で聴くライブの持つ圧倒的な情報量にはやはりかなわないと思う。