その「経験の質と量」の違いを生むものは何か、
今回は
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①システムの違い
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についてご紹介していきたいと思います。
(1)年代の分け方
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日本だと、
6~12歳 ミニバスケットボール
12~15歳 中学校
15~18歳 高校
というように、3つのカテゴリーに分けられていますが、ヨーロッパでは一般的に2学年ごとに細かく分けられています。
2年ごとにカテゴライズされて大きな大会などが開かれてますが、実質的にはジュベントゥもエストゥディアンティスも1学年ごとにチームを作って運営しているようです。
■2007年のジュベントゥ・バダロナの場合
9月になったときの年齢で以下の図ようにカテゴリーが分けられます。(9月からシーズンが始まるため)
基本的には18から12歳までの各年代にカンテラというクラブの下部組織のチームがあり、それぞれの学年でチームを作って活動をしています。
U-12以下はスクールという形でチームを作っており、U-13以上でクラブに選ばれない選手たちは基本的にスクール生のままです。
以下の図で、かっこで囲まれたアルファベットはスクールという形のチームです。
かっこで囲まれていないアルファベットはJuventutのユニホームを着て戦うクラブを代表するチームになります。
(※あくまでイメージです。こんなにきれいにピラミッド式に人数は分布してません)
このように各年代でチームを作ることのメリットデメリット、日本での実現の可能性について検証してみたいと思います。
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年代ごとにチームを作るメリット(日本の現状の問題点)
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日本で普通のチームに所属する普通のレベルのバスケ選手だと、
▼10歳からバスケを初めて小学6年時にミニバスでレギュラーになり
▼中学に入ってからしばらく下積みで中三になるときの一年間レギュラー
▼高校でも同じように高校三年生になるときの一年間レギュラー
といったように、10年間くらいバスケをプレーしてもメインエイジと呼べる自分がレギュラーとして活動する競技年数がたった3年くらいしかないという現状があります。
これは一握りの選手の話ではなく、日本の現状だと多くのバスケプレーヤーがこのようなバスケ人生を送ることになるシステムなのです。(以前に比べて多少の変化はありますが・・・)
ヨーロッパのように年代ごとにカテゴライズされた競技環境であれば、10年バスケをプレーすると10年間メインエイジです。
これが、根本的な「経験の量」の差になるのです!!
ここで特に問題なのが、大器晩成型の選手達に経験が与えられないことです。
その年代で活躍する早熟型の選手がどんどん経験を積んでいく環境なため、成長がゆっくりな大器晩成型がほとんど経験を積まないまま埋もれて行ったり、未発達なまま上のカテゴリーで発掘されることが多くなります。
さらに、この問題は日本のバスケ環境にもう一つの影を落としている気がします。
それは、バスケットボールの競技人口の多さに比べて試合を観にいく人口が少ない、テレビの視聴率が高くならないという問題です。
つまり、バスケはやってたけど、バスケが面白かったと感じる人口が海外よりも少ないのではないでしょうか?
中学からバスケを初めて万年補欠、試合経験ほとんどなし、しかも大会は100点差負けばかり、そういった環境のなかでどうやってバスケの楽しさを味わえるのでしょうか?(もちろんまったく意味がないとは言いませんが)
バスケットボールという競技は、野球やサッカーのように1点の重みによる緊張感を味わうのではなく、得点の入れあいの中での緊張感を味わうのが楽しさなのではないかと思うのです。
つまり、拮抗したゲームの中にこそ、競技の楽しさが詰まっているのではないかと思います。
拮抗したゲームを体験しやすい環境については次回以降お話しするとして、今回の議題について言えば、そもそもプレータイムがなければバスケの楽しさを感じることが少ないのではないかということです。
日本に比べてヨーロッパの環境の方が、バスケが面白いと感じやすいシステムになっていると感じました。
地域のおじいちゃん達までがバスケの試合を見に行って盛り上がる一つの理由は、地元のクラブを愛するというだけでなく、その競技を好きでい続けるからなのではないでしょうか?
チームでプレーできなくてもバスケは出来るという意味では、アメリカのようなストリートバスケがありますが、日本にはそういった場も開けていません。
もっとヨーロッパのように年代ごとにチームを作っていくようなオーガナイズを取り入れていく必要があると感じています。

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年代ごとにチームを作るデメリット(実現に向けての課題)
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では、どうやったら年代ごとにチームを作って活動することが出来るでしょうか?
日本で年代ごとにチームを作るのが難しい理由は、
1.コーチングスタッフの不足
2.施設のキャパシティ
3.マネジメントの増大
が挙げられます。
ヨーロッパのトップクラブになれば、そこでプレーしていた人材がコーチングスタッフで帰ってくるような循環が出来上がっているため、例年充実した育成担当のコーチングスタッフが揃います。
日本では、チームを分けたとしてもそれを見るコーチがいないというのが現状だと思います。
また、施設のキャパシティも限りがあるため、各年代で勝利を目指して練習をしていくと、どうしても試合に出るメンバー、試合に出る学年に多くの練習時間と環境を与えていくことになってしまいます。
ヨーロッパでは育成年代で勝利こそが最上位の目的ではないという価値観が当たり前になっているので、それも年代ごとにチームを作るというシステムを採用しやすい土壌になっていると思います。
また、これは憶測なのですが、マネジメントに関していえばスペインでも充実したスタッフ・充実した施設でクラブ運営できているチームは数少ないのではないかと思います。
クラブチームではなく学校単位でもチームを作っているので、色々な規模、ケースでチーム運営をしているのだと思います。
つまり、日本でも、すべてのチームが完璧にヨーロッパのトップクラブのスタイルを目指すのではなく、スタッフや施設面で環境が整っているところからどんどんヨーロッパ型のチーム運営にシフトしていくことで、徐々に子ども達がプレー経験を多く積んでいける環境が整っていくのではないでしょうか?

同時に、指導者の育成、そもそも指導者をするということが魅力的な役割なのだと感じることが出来るような環境作りが急務です。
われわれがERUTLUCでやっている指導者育成とは、まさにこの部分に対するアプローチです。
年代ごとにチームが増えてきて、自分で練習や采配を振るう機会が増えることも、指導者を志す人が増えることにつながると思います。
そして、限られた体育館、施設環境の中でどのように効率よく練習をしていくか、短い練習で効果的・効率的なドリルマネジメントをもっと普及していかなければならないと思います。
今回ご紹介したのは、ヨーロッパと日本の大きな溝の一つ、年代ごとにチームがある環境についてでした。
あらゆるシステムは相互に作用・補完しあって機能しているので、他の側面とのバランスがとても重要です。
ヨーロッパの育成環境が「経験の質と量」で日本を圧倒している理由はまだまだ他にもあります。
次回、1つのチーム当たりの登録人数制限というシステムについて、ご紹介したいと思います。