つきよのくじら | ばら色の雲

つきよのくじら

つきよのくじら 《つきよのくじら》 戸田 和代(著) 沢田 としき(絵)


くじらって―― ユーモラスでのんき、というイメージを抱いていました。

くじらもくじらなりに、結構大変なのかもしれませんが・・・・・

なんとなく、「細かいことは気になさんな」と言いそうな太っ腹な旦那、って感じがしたりして(^-^)

でも、

この絵本のタイトル《つきよのくじら》のように、〝〟とセットになると、途端に神秘的な感じが漂う気がします。

月明かりに照らされた広い大海原をゆったりゆったりと泳いでいる姿を想像すると、神々しいくらいの迫力に満ちているようです^ ^



ある海に、くじらのお母さんと坊やが暮らしていました。

くじらのお父さんは坊やが小さい頃――

シャチの群れに襲われた時に、母と子を守るために1番大きなシャチに食いつかれたまま、海の底に沈んでしまったのでした。

月の輝く晩、お母さんは坊やに話してくれました。


「とうさんは すごい くじらだった。

とうさんが しおをふくと

おつきさまに あたって

あめに なって おちてきたほどだよ」


くじらの坊やは、その話をいつまでも忘れませんでした。

この話を思い出す度に、

「そんな立派なお父さんなら、きっとどこかで生きているはずだ」

と思うのでした。


そんな坊やにも、ひとりだちの時がやってきました。

お母さんと別れた坊やは、お父さんを探す旅に出ることにします。

やがて、行く先々で耳に入るお父さんくじらの偉大な噂。

坊やは、お父さんが生きていること、そしてお父さんの居場所に近づいていることを確信します。


ところが、ある日。

坊やは凶暴なシャチの群れに取り囲まれてしまいます。

「もうダメだ・・・・」

そう思った瞬間、どこからともなく声が聞こえてきました。

その声の主は―――



長い旅の末に、

くじらの坊やが出会ったのは本物のお父さんだったのか、それとも幻だったのか・・・・・

この本ではどちらにもとれるような終わり方をしています。

でも、「どうか本物のお父さんであって欲しい!」と強く願ってしまいました。

「月に届くまで潮を吹けるくじらなんているはずない」とは思っても、

坊やにとっての父親は、誰よりも強くて永遠の存在なのだと、何だか泣きそうになりました。


羨ましいような、切ないような、心がしんとするような余韻を残す絵本です。