連載小説・第66回です。

小説始めます。「手書きのタイムマシンneo」手書きのタイムマシンneo 65.堤上口論 まで。

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第66回「鼠国映画」

ちかっとひらめくものがあった。

彼女の言葉が、鉄腕アトムを起き上がらせた電撃のように、俺の思いにショックとエネルギーを与えた。

 

彼女の望み…
俺はそれを聞いていない。だから今は「でしゃばり」でしかないのだ。
どうしてこういうことをするのか、その理由(わけ)を。

聞けないのも無理はない。俺はなんにも、この人に言葉を伝えていないのだ。

 

もし俺の思いと。

一致するのなら。

 

俺は勇気をもらってばかりだったんだ。

今こそ―俺のターンだ。


「俺は、いっつも君に守られていたんだ… ちょっとミスった時も、つらい時も、全然だめになった時も…」
自転車が止まった。
外池はこっちを見ない。けど動かない。


「そんな時、君はとてもかっこよくて…まぶしくて。それはうれしいんだ。ほんとにうれしいんだ。だけど」
だけど…
「俺、君を守る時が一番胸が躍るんだ、わかったんだ」

 

だから、君のためになら無茶をしてもいいって気持ちになってたんだよ。
外池貴子のピンチを救うことは、いつも胸震える大冒険なんだ。


自転車を止めて、少しでもはっきりと。言葉を届けるんだ。
「俺だって君を守りたい…外池…貴子を」

 


いつの間に、こんなに離れがたくなっていたんだろう。君がジャンヌ・ダルクで…俺はドン・キホーテか。
こちらを向いた外池の目は見開かれている。


「そんな…ありえない、だって、あなた凛さんとキスしたじゃない」


ぐっと詰まった。
勇気を奮った一言に、なんて強烈なレシーブ。
「凛さんが好きなんでしょ! わかるわよ…最初から。凛さんの実家にまで行っちゃってさ」
「違くて。誘われたけど、何もしなかったよ。キスは…あの病室が初めてだ」
「だからしたじゃないよー!」

「したって…」
「凛さんとキス! 凛さんには! したじゃない…私…私…」
「キスは…その…君のくれたヒントだ」
「え! なに? また変なこと…」
「凛を見ていったろ? 『スリーピング・ビューティ』って…ああ、 『眠りの森の美女』なんだ… だったら王子様のキスが効くだろうって」

 


「やっぱりあの子の王子様じゃない…」また落ち込み直した。
「だから、そういう『好き』じゃ、ないんだよ」
「だって。聞いてるだけで涙が出るような、思いやりいっぱいの呼びかけだったわ…あんなに温かい言葉は好きじゃなきゃ出てこないんじゃないの」


「違うよ。言葉に力が増したのは――」

ようやく自分の気持ちが焦点を結ぶ。

主題が鮮明になった。
「お前がいたからだ」


そうだ。いてくれると勇気がわく。聞いてもらうと力が出る。だから病院にもついてきてもらおうと思ったんだ。
そんな相手こそベストパートナーと呼ぶんじゃないのか?
「お前はいつだって俺に思いの力を伝えてくれた」
外池は― 貴子は。
ほっ?というアテレコが一番似合う少し緩んだ顔を見せた。
「どういうこと…?」

少し涙声になって「私のどこが…いいの」
「お前、遠慮がないんだよ」
「はぁあ⤴?」声が振りきれる。
「いや違う、間違えた! お前は俺に遠慮しないからものすごく楽なんだ。それなのに頼りになるなんてすごいなって思ってる」
じっと俺の顔を見ている。目を見開いている。


「お前といると、過去の失敗とかどうでもよくなっていったんだ。何しでかしても、受け入れてくれる。策なんか必要なくて、飾ることも無駄で、ただそばにいてくれればいいって思えるんだ」
再び外池貴子の目に涙があふれて溜まる。
「お前が…俺のとらわれてた呪いを、一つ一つ解いていってくれた。その都度心が近くなっていたんだよ」
「そりゃ…そうよ、あなたのため… 一生懸命考えたもの…」

彼女の真心、本気は、ちゃんと俺の心に届いていたじゃないか。

だから―俺は貴子とパートナーになりたいと思ったのだ。

 

「いつの間に、お前なんて呼んでくれるようになったの…」
「あ、ほんとだ」
そして、お前って呼んでも怒らないんだな。


「いわばお前のおかげで、俺はこうして、ちゃんと女の子に告白できるようになって、凛を助けて…」
「私、王子様の呪いを解いたのね?」笑いながら泣いている。
「ああ、そういえばそんなお話があったな」
「それって…」
カエルの王子様?」
「そこは美女と野獣でしょう!」
爆笑と涙でぐしゃぐしゃだ。

(続く)