フロアへ出た矢倉には新なオーダーが入った。
それを作っている間、ぼくはギイに訊く。
「矢倉くん、どうするつもりだろう?」
「さあなぁ。それで、託生はどうなんだ?」
スツールに座ったまま、からだごとぼくへ向いたギイ。突然訊き返されたぼくは、優しく問い掛ける視線で真っすぐに見つめられ、ドキドキと胸が高鳴り始めた。
「矢倉は、ああ言ったけど。託生は、俺が誰かと勝負するところを、見たいのか?」
ぼくは・・・
「うん、ぼくも、見たいよ。格好いいギイを」
たちまち、華やかに破顔するギイが、視界いっぱいに広がった。そして、しなやかな腕に捕らわれる。
「そう言われると、プレゼントしないわけにいかないじゃないか。今度こそ負けないように、俺にもサンタがちゃんと来るように、託生は祈ってろよ」
抱きついたギイの息が耳に触れる。囁きは、ただでさえ火照る頬をさらに熱くする。でも、回された腕の中では、ギイに見つからないだろう。
そこへ、
「なに抱き合ってんすか、お客さんたち。いくら昼日中じゃないつったって、一応は営業中の店内っすよ。」
頭上から、やんわりとたしなめる声が降ってきた。
「託生から、リクエストされたんだよ」
ぼくから矢倉へと、顔を向けたギイが告げる。
「なにを?」
「スヌーカー大会のリベンジマッチ」
「じゃ、ここは三洲がいないから、俺が相手になってやるよ」
「矢倉くん?」
見上げたぼくへ、ふふんと鼻先で笑った矢倉は
「イヴだもんな。こんな日にギイの相手をして、恋人の前で恥を掻きたい男はいないだろ」
さらりと、そう言った。
「それでさっき、あんなことしたんだ」
「そういうこと。よしんばギイがリベンジマッチをしなくても、葉山に手ほどきするギイを覗こうって不逞な奴もいなくなるだろ。下手に薮をつついて大蛇でも現れたら、シャレにならねえ」
「これで、託生は、俺の独占受講生だな」
「ありがとう、矢倉くん。ギイも」
ぼくが衆目に晒されないように、いつの間にかふたりは心を通い合わせていた。微笑むふたりに見下ろされ、いささか居心地の悪さを感じながらも、どこかぼくの心は幸せに満ちていた。