Q184) 仮定法現在形の一つの文例として次のようなのが見られます。

I suggest (that) we (should) eat out tonight.

そして、私の知る限り、仮定法現在形を用いるのは「聞き手がその提案を受け入れるかどうか不確実だから」だとか「『まだ起きていない』ことだから動詞の原形を用いる」などと説明されることが多いようです。この説明は仮定法現在形に用いる他の動詞(demand/request/order/requireなど)の場合にも適用できて納得しています。

さて、質問は、suggest+動名詞と上の用法との整合性のことです。

つまり、suggest to eat outとは絶対に言わずに、必ずsuggest eating outとする、ということになっていますが、suggestする内容が仮定法現在の時のように「まだ実現していないこと」ならば、to 不定詞の説明に使われる「未来志向」の表現でないと整合性がないような気がします。動名詞は「現実志向」などとto不定詞の「未来志向」と対比しますね。要するに同じsuggestを使い、同じ意味の「まだ実現していないこと」(未来志向)を表すのだから、I suggest (that) we (should) eat out. = I suggest to eat out. としないと納得できない、という生徒がいますがどう説明したらいいのでしょうか。よろしくお願いします。

A) するどい生徒さんですね。実は私はこの質問を受けて初めて気づきました。
まず、問題点を整理します。(A)(B)(C)の3点ですね。

(A) suggest that 節のthat節内が仮定法現在であり、『まだ起きていない』ことだから動詞の原形を用いる」こと。
(B)目的語にto不定詞を取る場合は「未来指向的」であり、目的語に動名詞を取る場合は「現実指向的」である。
(C)ならばsuggest that節を単文にすると、suggest to do...になるのではないか?

まず、(A)です。
(A) suggest that 節のthat節内が仮定法現在であり、『まだ起きていない』ことだから動詞の原形を用いる」こと。
これについては、「現代英文法講義」(安藤貞雄著)の367ページにこうあります。

19.1叙想法現在の19.1.2 従属節中で
[D]that節中で(命令的叙想法)
 広義の命令表現に続くthat節では、叙想法現在が使用される(命令が実行されるかされないかは不明である、ゆえに叙想法)。これは、古い用法がおもに<米>に残ったもので、<英>でも使用されつつあるが、「想念のshould」を使うほうが普通である。
(24) I would suggest that you not offend Miss Page any further.
(これ以上ミス・ページの機嫌を損ねないほうがいいと思うよ)


特に問題はありませんね。

次に(B)です。
(B) 目的語にto不定詞を取る場合は「未来指向的」であり、目的語に動名詞を取る場合は「現実指向的」である。
これについては、「現代英文法講義」(安藤貞雄著)の260ページにこうあります。
 
 16.6.1 動名詞のみをとる動詞
 次の動詞は、動名詞のみを目的語にとる。
 admit, appreciate, avoid, consider, contemplate, delay, deny, detest dislike, endure, enjoy, escape, excuse, face, fancy, feel like, finish, forgive, give up, can't help, imagine, leave off, mention, mind, miss, postpone, practice, put off, recommend, resent, resist, risk, can't stand, suggest
 この種の動詞のあとにくる動名詞は、通例「事実指向的」という特徴を共有する。言いかえれば、「動名詞節の内容が真である」ことを話し手が前提としている、ということである。例えば、(2a)は(2b)を含意している。
(2a) I enjoy working for this company.
(2b) I work for this company.
 16.6.2 不定詞のみをとる動詞
 [A]次の動詞は、to不定詞のみを目的語にとる。この種のto不定詞は、通例、その表す動作が「未来指向的」という特徴を共有している。
 afford, agreeなど(略)


これも正しいので、次の(C)につながりそうですが、そう単純ではありません。まず、「現代英文法講義」(安藤貞雄著)の262ページにこうあります。

16.6.2 不定詞のみをとる動詞
[B] 含意動詞(implicative verb)次の動詞は、過去時制において補文(=to不定詞)の内容が真であることを含意する含意動詞である。したがって、含意動詞は「未来指向的」というよりも、「事実指向的」である。
 bother, condescend, happen, get/learn, manage, neglect, pretend, remember, dare, see fit, have the misfortune, have the kindness, venture, forget, decline, fail, cease/stop
 I forgot to call John.(ジョンに電話をするのを忘れた)


次に「英語語法大事典第4集」(大修館)の676ページに「不定詞か動名詞か(その2)」にこうあります。

Would you mind opening the window?のopeningは明らかに未来のことがらを指しており、I don't mind being alone here.も同様で、このbeingも「これからのこと」を指しており、I don't mind if I am alone here.と同義です。agree on, decide on, object to, look forward toに後続する動名詞も未来の時を表しています。suggest, propose, insistについても同様です。
He suggested going to the theater
.

この2つを手掛かりにしますと、どうやら、(B)の規則には例外があることを認めざるをえません。その例外の理由は私にはわかりませんが、ガレス・ワトキンス先生は、「続・英誤を診る」(河合出版)の221ページでこう言っておられます。

動詞によって、目的語として動名詞をとるもの、不定詞をとるもの、両方をとるものがある。厳密な規則はないが、実際の事柄(過去、現在および一般的な事柄)を表す場合には動名詞を用いる傾向があり、未来、仮定の事柄を表す場合には不定詞を用いる傾向がある。動名詞は一種の名詞であり、言及する動作が存在することを暗示することが多い。不定詞の場合は、言及する動作はまだ存在していない。
(○)I prefer watching videos.「私はビデオを見るのが好きです」(一般的)
(○)I (would) prefer to watch a video.「わたしはビデオを見たい」(たとえば今夜)
(中略)
ほとんどの学生は、動名詞(現在/過去/一般的)と不定詞(未来/仮定的)の違いをいくぶん感覚的にわかっている。特に目立つ共通の誤りは、consider, resist, suggestなどのような未来指向のように見える動詞の後に不定詞を用いる誤りである。これらの動詞は(すでに存在する)考えを目的語に持つと考えるのが最もよい。次の文は誤りである。
(×)He considered to go abroad.
 正しくは、
(○)He considered (the idea of) going abroad.「彼は外国に行くことを考えていた。」


ここで、辞書でconsider the idea of doingを検索してみました。ありました。

Critics have slammed the BBC for even considering the idea of running adverts on its Web site. (OSD)「評論家たちはBBCをウエブサイトで広告を載せるということを考えていると言って酷評している」

そこでワトキンス先生の理論に従って、仮説を立ててみます。
[仮説1] consider はconsider the idea of doing...「…するという考えについて熟慮する=…することを考える」という言い方をしていた。このとき動名詞の内容はもちろん未来である。次にconsider the idea of doing...が面倒なので、consider doing...という言い方が生まれた。このときもともとdoing...は未来のことであるが、「…するという考え」自身が話し手の心の中にすでに存在しているので、「事実指向」である動名詞を使うことは自然であった。わざわざconsider to do...という不定詞を使うことはなかった。この考えは、suggest doing...にも当てはまる。

次にsuggestによく似たproposeという動詞の語法を見てみましょう。ジーニアス英和辞典の第5版です。

1 [SVO]O<事>を提案する[SV doing / SV that 節 / 《米》SV to do] …しようと提案する《◆suggest は控え目な提案を示すくだけた語》∥
She proposed calling off [to call off] the plan. 彼女は計画を中止することを提案したShe proposed to us that Bill lead [《主に英》should lead ]the parade. 彼女はビルがパレードを先導するように私たちに提案した《◆She proposed for Bill to lead the parade. は可だが一般的ではない》.


このproposeは意味はsuggestとほぼ同じです。that節を取る場合、that節の中は原形かshould+原形というのはまったく同じです。ただ、proposeは目的語に動名詞も不定詞もとるが、suggestは動名詞だけをとるという点が違います。この違いはどうしてなのでしょう。
私はまったくその歴史を知りませんが、仮説を立ててみます。
[仮説2] propose to doがアメリカ用法というので、おそらくその方が古いのではないでしょうか。ところがイギリスでsuggest doingという言い方が定着すると、意味が似ているproposeもdoingをとるようになったと考えられます。アメリカ独立戦争以後は、アメリカは古いpropose to doと新しいpropose doingが併用され、イギリスは新しいpropose doingのみが使われるようになった。

次に「ジーニアス総合英語」(大修館)の214ページのQuestion Boxというコラムもヒントになります。

(Q) avoidやmindやescapeの目的語は「まだ起こっていない事柄」ですが、目的語に動名詞を取ります。これらの動詞は例外ですか。
(A) その通りで、例外です。
この3つの動詞は「行為・出来事の実現の回避」という共通の意味を持っています。このタイプの動詞は「これから起こる行為」を目的語としますが、例外的にその内容を動名詞で表します。
Teachers have to avoid speaking too quickly.教師はあまりに速くしゃべらないようにしないといけない。


これでわかるように、suggest, consider以外にも動名詞が未来のことを表すことがあります。ただ、なぜ「行為・出来事の実現の回避」を表す動詞がからむのかは説明はありません。(実は「英文法解説」(江川泰一朗著)の362ページ以降に詳しい説明があるのですが、私には消化不良なのでここでは触れません。興味ある方は一度読んでください)

[仮説3]どうやら、(B)の説明は基本的には正しいが、例外が存在することがわかった。その理由の一つは歴史のいたずらではないか。たとえば、happen to Oの連想で、happen to doが生まれたり、意味が似ているcan't avoid doingの影響でcan't help doingが生まれたりしたのではないか。(この2つは私のまったくの空想です)

さて、中途半端になりますが、まとめたいと思います。
(B)の説明は、不定詞と動名詞の違いがよくわかる簡潔ですぐれたものですが、90%ぐらいしか当てはまらないと言えるでしょう。その例外の一つがsuggestです。生徒さんには「君の言う通りこのsuggestは例外だね。」ではなぜ、例外が生まれるのか。私にはわかりませんが、生徒にはこう言います。「文法があって、表現が生まれるのではないんだよ。さまざまな表現が生まれ、やがてそれが自然淘汰されて、一部の表現が生き残る。その生き残った表現の根底に存在するものを理論化したものが文法なんだ。だから、文法と矛盾する表現は必ず存在するが、人々は表現に自然に触れて覚えているので使用には差し支えないんだよ」
 駄目押しとして「オックスフォード実例現代英語用法辞典第4版」の296ページにこうあります。

不幸なことに、動詞の後に-ing形と不定詞のどちらが来るのか容易に決定できる方法はない。一番いいのはよい辞書に当たることである。

あのマイケル・スワンでさえ、こう言っているのですから。しかし、我々日本人は1語1語の動詞の語法を覚えるより、文法を使って効率的に覚えた方がはるかに楽で、かつ定着しやすいのですから、動名詞と不定詞の違いを押さえて学んでいく方法はすぐれた勉強だと思います。
 なお、今回の問題は私にはこれ以上わかりません。読者の方でご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひメールください。
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