四月のアホ(エイプリル・フール) | 高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史レベルの人物を少し詳しく紹介する。なるべく入試にメインで出なさそうな人を中心に。誰もが知る有名人物は、誰もが知っているので省く。 たまに「amazarashiの歌詞、私考」を挟む。


○アホウドリの生きざま


◇読売新聞  2024.3.30(土)朝刊
 2.総合面 詩歌句欄〖四季〗

「 天(あま)飛ぶ鳥も、降(くだ)りては、やつれ醜き瘠姿(やせすがた)、昨日の羽根のたかぶりも、今はた鈍(おぞ)に痛はしく、」
 ・・ボードレール

【長谷川櫂:評注】
 アホウドリは大きな白い海鳥。不運にも船乗りに捕らえられ、甲板をよたよた、何と哀れな姿。君は詩人と呼ばれる人種にそっくりじゃないか。天空を飛んでいればいいのに、人間界に降りたばかりに笑い者。『上田敏全訳詩集』「信天翁(おきのたいふ)」から。

*『上田敏全訳詩集』岩波書店 1994年
(上掲詩は『海潮音』から。本書には『牧羊神』など上田敏の全訳詩を収録。)


*フランスの詩人ボードレール
 原詩は『悪の華』「L' Albatros(アホウドリ)」



 なるほど。「アホウドリ」を「詩人」に置き換えても、意味はたいがい通じてしまうと・・・。


◇『八木重吉詩集』(白鳳社 1967年)
『花と空と祈り』巻頭「 Ⅰ 大正十一年」より

「詩人は
 神さまの 駄々っ子です

 Spoiled child!
 甘えた その口吻!

 詩人を
 いじめるのは お止し

 だが 彼を
 信用してはなりません・・・

 彼は恋人にばかり
 忠実ですから

 いつ親を 友を
 裏切るかしれないから・・・」




 「恋人=詩心(ポエジー)」と読めば、純真にして澄明、イノセントな目をした詩人の姿が浮かび上がる。だがその天上の神に愛された詩心と純情は、世知辛い人間世界においては、しばしば浮世離れした弱さと自分勝手さとに下位変換される。

 そんな俗世間に染まり得ない詩人に見立てられたアホウドリ、どんな生態なのか?


◇朝日新聞デジタル「ことばマガジン:ことば談話室」より

要約:
 アホウドリは立派な羽毛目当てに19世紀末から20世紀初めにかけて大量に乱獲され、一時は絶滅したと思われていた。その後、北太平洋上の島々にごく少数が生存していることが確認され、現在では保護活動のもと徐々に個体数は回復しつつある。最長寿命が50~60年で鶴よりも長生き、翼開長は240cmにもなる大きな海鳥。

 山口県長門周辺の漁師が呼んでいた地方名が「オキノタユウ(沖の大夫)」。大夫(たゆう)は同地方で神主を指し、「沖の海にすむ立派な神々しい鳥」の意味。

引用:『世界大百科事典』(平凡社)
 アホウドリは地上ではよちよち歩くのがやっとで、かなり助走しなければ飛び立てない。人間の獰猛さを知らず、逃げることがなかったので、たやすく捕らえられ、このため「アホウドリ」と呼ばれるようになった。


回答者:上田恵介先生(鳥類学)

 何千年も何万年も、全然人間を見たことがなかったのよ。だから人間が怖い動物だということを知らないんですよね。(中略)だから人間も含めて自分を襲ってくるものに対する警戒心をなくしてしまったんです。



( ちなみに「大夫/太夫」はそのまま読むと「たいふ」ですが、古文単語で「言ふ→ゆう」と音変換されるのと同じ原理で「大夫(たゆう)」と読みます。)

 天上世界というか主に絶海の島嶼部に棲息し、長らく天敵がいない環境に適応して進化してきたから、地上での動きも鈍いし外敵・害意に対する感度も低い。ために人間によって濫獲され、種の絶滅寸前にまで追い込まれた歴史がある。
 これと詩人の生き様が似るか。

 詩人は純粋で繊細な心根を持って生まれ天真爛漫に育ち、しかし素朴で鋭敏な感性は、喧騒雑多で時に殺伐としている人間社会の荒波に翻弄され、傷つき弱り摩滅する。
 それでも世に迎合して生きられない詩人のポエジーは、他人に苛められ嘲笑され哀れな姿になり果てても、なお歌を止めることを許さない。詩に生きるためなら世間を捨て生活を捨て、親も友も恋人をも裏切りかねぬ。実に因果な生き物である。

◇ amazarashi『ポエジー』
〈僕らは順応しない
 僕らは反省しない
 僕らは戦争したい
 約束は出来るだけしない 〉
◇「CINRA ネット」記事
〖 現代の詩人=秋田ひろむが率いるバンド「amazarashi」〗

◇ amazarashi『鴉と白鳥』
〈際立って透明な霜が降りる頃
 鴉の目玉は瑠璃色
 凍てつく寄る辺ない夜を
 忌々しく睨み続けたから
 街へ降りれば石を投げられて
 森では鼻摘まみ者
 ほとほと疲れて逃げ込む
 納屋で憂鬱を育てた 〉

◇ amazarashi『アルカホール』
〈幼い頃ママが言った
 「あなたは天使だ」って
 だから天国をスリップして
 この部屋に落ちた
 すでに羽根もがれたけど
 今さら飛ぶ気もないの 〉

 カラスとか天使とかモチーフはちょっと違うけど。本来は森と人里の狭間や天上に居るはずの者が人間世界に降りてきて、そこでの生活に馴染めずに辛苦を重ねるイメージは似通う。
 ならばこんな見立ても成り立つだろうか?

○ 秋田ひろむ = 詩人 =「アホウドリ」説、浮上?

 いや、ちょっと語感が・・。決して愚弄したい訳では・・。

 amazarashi =「信天翁(おきのたゆう)/(しんてんおう)」。

 ウム、これなら。

 中国唐代の詩人・白居易(はくきょい)の字(あざな)「白楽天(はくらくてん)」みたいでイイ感じ。天を信じて生きる、今を楽しみ己の天分を精一杯生きるんだ! みたいな。

◇『アホウドリからオキノタユウへ』長谷川博 新日本出版社


 どうやらこの鳥類学者・長谷川博先生が、「アホウドリ→オキノタユウ」への改名の推進者であるらしい。
 人間側の乱獲と動物への蔑視という負の歴史を想起させる「アホウドリ」称は、長らく親しまれてきたもののどうにも使いづらい。そこで敬意が感じられる雅号のような呼称に変えようじゃないかと。
 浸透するには時間がかかりそうだし関連法上の訂正や学術的根回しも必要だろうけど、これから「オキノタユウ」も一般的になっていくかもしれない。

 ところで別の呼び名、例えば英語とかではどうだろう? 英語名にするとそこはかとなくオシャレ感が出るもんだし、もっと切れ味のあるカッコいい名前にならないだろうか?

 英語名「アルバトロス(albatross)」!

 ウム! なんかゴルフ用語になったな。滅多に出ない偉大なスコアではあるんだけど・・・。


〖 ゴルフのアルバトロスとは?〗

【要約】
 ゴルフ用語「アルバトロス」とは、ホールの規定打数より3打少ないスコアでホールアウトした時の呼び方。例えば、本来なら5打必要とされるホールをたった2打でカップインした場合に使う。
 それには長い飛距離を出す圧倒的なパワーと、針の穴を通す正確なコントロールが必要とされる。他にもトッププロの実力やら一生に一度の豪運やら試行回数(≒ゴルフ歴)やらの必須条件は多く、アルバトロスの達成はホールインワンよりもはるかに難しいとされる。
 そこで長距離を飛ぶ能力に優れ、滅多に見かけることがない珍しい鳥であるアホウドリをその偉業と重ね合わせたことが用語名の由来と言われている。



 ではこう言ってみましょうか。

○ amazarashi 秋田ひろむ =詩人= オキノタユウ/アルバトロス =「大空をどこまでもどこまでも飛んでいく、滅多に実物を見ることのない珍しい生き物」!!

 おお、当たらずと言えども遠からずみたいなオチになった・・!

 で、人間界に降りてきてヒドい目に遭い、怨み言を呟きながらも今なお羽ばたき歌っているよー、と。

 うう、逞しくならはって・・・。


( 蛇足情報。信天翁は繁殖地では鳴くが海上ではあんまり鳴かないそう。
 また飛び立つ際には大きく羽ばたくが、上空ではほとんど羽ばたかずに悠然と飛翔して数千キロを渡るという。滑空能力に優れた翼を持ち、それを活かした独特の飛行術を駆使する。
 なので羽ばたくのは主に地上か水上、歌うのは主に地上です。)


*補足追記

◇東邦大学メディアネットセンター


◇『オキノタユウの島で 無人島滞在 “アホウドリ” 調査日誌』
〖 プロローグ:アホウドリからオキノタユウへ 〗(p.12~15)

 この鳥は、陸地から遠く離れた、天敵がいない無人島でずっと子育てをしてきたので、殺されるということを知らず、恐ろしい人間が近づいても逃げなかったのです。また、斜面をかけくだったり、風に向かって助走をしたりしなければ飛びたてないので、人間が前のほうから追いたてると右往左往して簡単につかまってしまったのです。そのため、鳥のくせに飛べない、どんくさい鳥だということで、人間が勝手に “阿呆な鳥” と名前をつけたのです。

 (~中略~)

 かつて、この鳥が日本列島の南にある無人島でおびただしい数で繁殖していた頃は、各地の海でよく見られるごく普通の鳥だった。そのため、たくさんの地方名があった。

( 関東や小笠原諸島では「バカドリ(馬鹿鳥)」、山口県の長門地方では「オキノタユウ(沖の大夫)」、他にも「オキノジョウ(沖の尉)」や「トウクロウ(藤久郎)」などたくさんの地方名や古名を挙げ、)

 ぼくは、この鳥には「オキノタユウ」がもっともふさわしいと思う。山口県から島根県の日本海沿岸地方では、「大夫」は「神主さん」のことだから、この呼び名には敬意がこめられ、「沖の大夫」は「沖の海にすむ大きくてうつくしい立派な鳥」を意味する。




◇『アホウドリからオキノタユウへ』長谷川博
〖 第1部:オキノタユウの過去、現在、未来 〗「数百万羽が数十羽に」(p.4、5)より

( 明治中期の日本動植物学の草創期。動物学界ではこの鳥は「信天翁(ばかどり/あほうどり)」と呼称され、その後「アホウドリ」称が定着していく。)

 文学者で詩人の上田敏は、1905年に訳詩集『海潮音』を発表し、その中でボードレールの詩 “ L' Albatros ” の題名を「信天翁」とし、わざわざ「をきのたいふ」(旧かなづかい)とふりがなをつけている。
 また、訳詩の本文中では「海鳥の沖の太夫」と表現した。この海鳥に対する「あほうどり」や「とうくろう」など数多い地方名のうち、詩人の感覚で、「おきのたゆう」という呼び名がもっともふさわしいと、考えたのだろう。

 この「おきのたゆう」(沖の大夫)は山口県長門地方の漁師のあいだで使われていた古い名前で、日本海の沿岸地方では「大夫」は神に仕える神主を指すから、「おきのたゆう」は「沖の海に生息する神聖な鳥」という意味になる。




◇『絶滅危惧の野鳥事典』
 川上洋一 東京堂出版 2007年

【p.171、要約】
 アホウドリが絶滅寸前にまで個体数を激減させたのは羽毛や綿毛、剥製の採取を目的とした私的な乱獲の他に、官民が推進した開発事業の影響があった。
 開国した日本が国際秩序の中に組み込まれていく明治大正期、政府にとって南方の洋上に位置する無人島群の領有と開発は重要な課題であった。しかし小さな離島が散在しているため常駐管理は難しい。

 そこで先行していた鳥の羽毛の採集事業に目を付け、商人たちの島への入植と開拓を政府が承認し後押しした。羽毛は輸出して外貨が獲得でき、また海鳥の糞尿や生物の死骸などが堆積し化石化したリン鉱石や硝石は、農業肥料や火薬の原料として珍重された。実効統治の名分と資源確保の実益が揃った形である。
 こうして半ば公認事業としてアホウドリをはじめとする海鳥の乱獲と島嶼部の開発が進行し、鳥たちは急速に数を減らしていくことになる。
 野生動物保護の声が上がり始めた頃には、幾つかの種が絶滅の危機に瀕する深刻な状況に陥っていた。



 (引用終わり)