《大正14年9月18日訂正再販「現代裁縫教科書」》
わたしが資料としてもっている「現代裁縫教科書」の一番古いものは、大正14年2月19日の初版が、大正14年9月18日に訂正再販発行となったものだ。
この「現代裁縫教科書」は、師範学校・高等女学校裁縫科用の、戦前の家庭科教科書で、和裁の事を、細やかに、わかり易く書いているので、ちょっと確認したい時など、わたしは便利に使わせてもらっている。
《「中等教育 裁縫教科書」》
同じ頃の裁縫教科書に、「中等教育 裁縫教科書」という本があるが、これよりも「現代裁縫教科書」の方がイラスト表現が豊富で、より親しみやすいし、わかり易い。
このような例から思うのは、機織りでも、和裁でも、最初に出会う本や、参考とする本との出会いって、かなり重要で、詳しく書いているにしても、順序を追って整理されていないものは、やっぱりわかりづらく、読んでいても頭の中に留まらない。
このような、単なる技法書だとしても、良い本は、順序立てて整理されていて、詳しくてわかり易く、
“良い本”は、読むにつれて、また、習得を試みるにつれて、機織りなら機織りの、裁縫なら裁縫の、世界観みたいなものまで伝って来るので、そこが長所だし、またその事が重要だと思う。
それで、「糸の結び方」についてだけれど、「現代裁縫教科書」には、こういう、“あたりまえ”というような事まで、丁寧に詳しく記している。
このような、常識的で知っていてあたりまえとされる知識や手技についても、労を厭わずに記すような、「現代裁縫教科書」における“親切丁寧さ”は、著者 吉村千鶴の和裁(裁縫)の文化や生活文化に対する愛情と、和裁(裁縫)の習得を志す者に対して向けられた温かさの現れに他ならないのだと思う。
留結(絲留結)
ー トメむすび (イトトメむすび) ー
絲の端を右手の食指に巻き、拇指と食指とにて撚りて、引き締めたるものにて、縫い初めの絲留に用ふ。
細結(真結)
ー コマむすび (マむすび) ー
絲の両端を取りて一つ結び、さらに結びて引き締めたるものにして、四つ留等に用ふ。
機結
ー ハタむすび ー
絲の不足せしとき、足す仕方にして、縫い来たりし絲の先を一厘内外残し、これに継がんとする絲の端を下圖の如く結びて、引き締めたるものなり。
この「現在裁縫教科書」巻1では、第三章“基礎の技術”の、ところに“絲の扱ひ方(絲の結び方)”が載せられていて、そこで最後にあげられている“機結(ハタむすび)”は、機織りで、経糸(タテ糸)が切れたりしたとき継ぐ方法で、それ以外にも“機織り”の分野ではよく用いられる“糸結び”だから、“機織り”を習う時には、先ず最初に練習させられる。
そういう“糸結びの方法”だから、このような和裁(裁縫)の教科書に載っていることを実際に見ると、「やっぱり、昔は、“機織り”と“裁縫”は、一体の連続する手技という感覚があったのだろうな。」という感想が浮かんでくるし、これから和裁(裁縫)を習おうと思っている人に言っておきたいのは、できれば、簡単な“機織り体験”でもいいから、一度は機織りを経験しておいた方がいいかもしれないという事だ。
もちろん、これは、わたしの個人的な意見だけれど、やっぱり、機織りの経験が少しくらいはあったほうが、生地の善し悪しを見分ける眼が養われると思う。
《参考文献》
・「家庭科教育における指導内容の歴史的考察(第2報)」新福祐子
・「大正後半期から昭和初期小学校裁縫科教材論」田中陽子
《参考となるweb上のサイト》
・「家庭科教科書をさかのぼる~現在から戦前まで~」宮城教育大学付属図書館




