2017年12月7日(木)

韓国で過去最大規模の空軍演習を実施。“準備”は着々と進む(写真:ZUMA Press/アフロ)
(前回から読む)
米国務省が「北朝鮮への核攻撃も辞さない」と言い切った。「対話の時ではない」と北朝鮮の平和攻勢を拒否する姿勢も打ち出した。
■米国と日韓を守るために
鈴置:国務省のアダムス(Katina Adams)報道官(東アジア太平洋担当)が12月5日、以下のように語りました。
- トランプ(Donald Trump)大統領が優先順位の最上位に置くのは米国の本土と準州、そして同盟国を北朝鮮の攻撃から守ることだ。
- 米国は通常兵器と核兵器のありとあらゆる能力を動員し、同盟国である韓国と日本を防衛するとの約束を完全に履行する。
米政府が運営するVOAの質問に答えました。「国務省、北朝鮮の脅威には『核兵器を含むすべての能力を総動員……対話の時ではない』」(12月6日、韓国語版・一部は英語)で読めます。報道官の発言(英語)は次の通りです。
- The President’s top priority remains protecting the homeland, U.S. territories, and our allies against North Korean aggression. We remain fully committed to the defense of our allies, the Republic of Korea and Japan, using the full range of our conventional and nuclear capabilities.
VOAの「北朝鮮による米本土を攻撃する能力を阻止(deny)するために、最終的な手段として先制攻撃する可能性はあるか」との質問に「通常兵器も核もすべて動員する」と答えたのです。
米政府が「核も使って先制攻撃する」と言明したのは初めてです。9月19日の国連演説でトランプ大統領が「totally destroy」(完全に破壊する)と核の使用を示唆したことはありました(「北朝鮮に『最後通牒』を発したトランプ」参照)。
が、「核」という言葉を使って北朝鮮を脅したことは、私の知る限りありません。
■平壌を核攻撃できるか
――ついに、来るところまで来ましたね。
鈴置:北朝鮮の核施設を米国が攻撃する際、まず核ミサイル基地を叩く必要があります。そうしないと米国や日本、韓国が核で反撃されるからです。
しかし核ミサイル基地の多くは地下に隠されていて、米軍が位置を狭い範囲に特定できないこともある。その際、米軍は通常型の爆弾と比べ、広範囲の地域を破壊できる戦術核を使います。
そもそも北朝鮮が国連決議違反の核武装に乗り出したうえ、米国や日本、韓国を先制核攻撃すると脅してきたのです(「米中は金正恩を『アジアのムガベ』にできるか」参照)。
北が先制核攻撃されても文句は言えません。脅迫されている国にすれば、そんな危ない国を放置するわけにはいかないのです。
――使うのは通常兵器と戦術核ということですか。
鈴置:戦略核も使う可能性が出てきました。北朝鮮は平壌(ピョンヤン)近郊から移動式発射台を使ってICBM(大陸間弾道弾)を撃ってみせます(「米中は金正恩を『アジアのムガベ』にできるか」参照)。8月29日と9月15日に続き、11月29日のICBMもそうでした。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長はトランプ大統領に「平壌市内を動き回る移動式発射台から撃つぞ。これらを攻撃するには、戦術核以上に広い範囲を破壊する戦略核を使う必要がある。すると非戦闘員に多数の死傷者が出る。その覚悟があるのか」と挑発したのです。
米国は覚悟を固めたと見られます。平壌など都市部への攻撃をしない限り、核で反撃されるからです。トランプ大統領の「totally destroy」(完全に破壊する)も、それを意味すると思われます。
■北の時間稼ぎは許さない
――なぜ今、国務省が「核攻撃」を表明したのでしょうか。
鈴置:VOAの記事を読んだ日本のある専門家は「11月29日のICBM発射が米国に開戦の決心を固めさせたようだ」と語りました。
米本土に届く核を北朝鮮が持ったか、あるいは近く持つことが確実になったからです(「じり貧の北朝鮮、『核武装の総仕上げ』急ぐ」参照)。
アダムス報道官は「今は明らかに対話の時ではない。北朝鮮が大量破壊兵器の開発を進めるのに支払う代価を引き上げることに我々は注力すべきだ」とも語りました。原文は次です。
- now is clearly not the time for talks. We must remain focused on increasing the costs for Pyongyang to continue to advance its WMD programs.
北朝鮮は突然「平和愛好国家」を自称し始めました。「世界の平和と安定のためあらゆる努力をする」とも言い出しました(「高笑いする金正恩、挙動不審の文在寅」参照)。12月5日には国連事務次長も呼び付けるなど「対話攻勢」に転じました。
米国の攻撃を阻止して時を稼ぎ、核保有国の地位を既得権化する作戦です。日本語のネット空間に「北朝鮮は放置しておけばいい。それが平和への道だ」といった主張が流れるのも、その一環でしょう。
アダムス報道官は――米政府は、北朝鮮の平和攻勢に騙されて対話などしない、と突っぱねたのです。
■3カ月後に戦争
――米国はいつ、戦争を始めるつもりでしょうか。
鈴置:英紙「ガーディアン」(the guardian)が「Have we got just three months to avert a US attack on North Korea?」(12月4日)で「米国は北朝鮮を来年3月までに先制攻撃するだろう」と報じました。
根拠は米国の元国連大使、ボルトン(John Bolton)氏の発言です。同氏は11月の最終週に英下院を訪れ「CIA長官がトランプ大統領に対し『あと3カ月で、ワシントンを含む米国の全都市を核で攻撃できる能力を北朝鮮が持つ』と報告した」と語りました。引用します。
- Last week John Bolton the former US ambassador to the UN and a notable hawk from the George W Bush era, visited London and the House of Commons. His mission, whether official or not: to relay that CIA chiefs have told Donald Trump that he has a “three-month window” in which to act to halt the North’s ICBM programme, after which the North Koreans will have the capability to hit US cities, including Washington, with a nuclear payload.
ガーディアンは「3月がデッドラインになるが、先制攻撃が検討されているに違いない」(This apparent March deadline, for what can only be considered a pre-emptive strike, )と結論付けました。
「3月デッドライン説」を補強するために「米国の司令官が数日前に板門店(パンムンジョン)を訪れた元欧州議員にもそう、話していた」(was also mentioned to a former European parliamentarian by a senior US commander a few days ago at Panmunjom on Korea’s demilitarised zone, )と指摘しました。
■韓国から家族を戻せ
――トランプ大統領に近い米上院議員が「米軍の家族を韓国から戻せ」と主張したそうですね。
鈴置:グラム(Lindsey Graham)議員が12月3日、CBSのインタビューに答え、そう語りました。「Sen. Graham says new N. Korea tech advances make pre-emptive war "more likely"」の見出し通り、まず「北朝鮮の核開発進展が先制攻撃の可能性を高めた」と述べました。
そして「北朝鮮の挑発にさらされる韓国に、軍人の配偶者や子供を送るなんてとんでもないことだ。今、家族を韓国から呼び戻さねばならない」と語ったのです。次です。
- It's crazy to send spouses and children to South Korea, given the provocation of North Korea. So I want them to stop sending dependents. And I think it's now time to start moving American dependents out of South Korea,
米国の脅しは口だけではありません。韓国空軍と合同で12月4日から8日まで大規模な演習「ビジラント・エース 18」(VIGILANT ACE 18)を朝鮮半島周辺で実施中です。F22やF35など最新鋭ステルス戦闘機を含む230機が参加しています。
11月下旬には、第7艦隊の艦艇が横須賀に集結しました。有事に備え、弾薬や水・食糧などを一斉に補給していると専門家は見ています。空母も異例なことに、同時に5隻が太平洋に展開中です。
■中韓が連携し米国を抑える
――「気分はもう戦争」ですね。
鈴置:「核を放棄しろ」との金正恩委員長への脅しです。北の幹部らに対する「死にたくなかったら親分を倒せ」との呼び掛けでもあるのでしょう。
――北朝鮮はどう対抗するのでしょうか。
鈴置:「対話を求める北朝鮮は平和勢力だ。米国こそが戦争を起こす危険な国だ」と世界に訴え始めました(「高笑いする金正恩、挙動不審の文在寅」参照)。
ただ、それを自分で言っても効果がないので「反米親北」の文在寅(ムン・ジェイン)政権を使って、突破口を開く作戦でしょう。
文在寅大統領は12月13日に訪中、習近平主席と会談します。ここで「米国の暴発を抑える役目」を中国に頼むつもりかと思われます。
■中国は「もう、知らない!」
――中国は応じるでしょうか。
鈴置:中国も戦争はして欲しくありません。が、かといって米国と北朝鮮を抑える力はない。困惑の体です。
人民日報の姉妹紙「環球時報」の英語版「Global Times」の社説「US, NK should not make China scapegoat」(12月1日)を読むと、本音がよく分かります。ポイントを拾います。
- China will face difficult choices, but at least we can say China has tried its best.
- The possibility of a war on the Korean Peninsula is rising and it is not decided by China.
- China will face whatever comes next. Beijing is fully prepared to use its prowess to defend its national interest.
「中国はやるべきことはやってきた」「戦争になりそうだ。でも、中国のせいじゃないからね」「こうなったら中国は、何としても自分の国益を守る」と叫んだのです。
■飛んで火に入る文在寅
――やけくその叫びに聞こえます。
鈴置:「戦争になりそうだ」という部分はそうです。でも、中国はしたたかです。転んでもただでは起きません。第2次朝鮮戦争をいかに国益に生かすか、術策を練っていると思います。
まず「この戦争に中国の責任はない」と言っておく。そして「戦後処理」の段階で、在韓米軍の撤収や米韓同盟の廃棄を主張できるよう「戦争の形」を整えていくのではないかと思います。
金正恩政権の崩壊後に生まれる「跡地」でも最低限、日本海側の港とそこへの通路を確保する作戦と思われます。本物かは分かりませんが、中国が構想する「4カ国分割統治地図」なんてものも出回っています(「米中ロがうごめく『金正恩後の北朝鮮』分割案」参照)。

そんな時、北京にのこのことやって来る文在寅大統領。まさに「飛んで火に入る夏の虫」です。
(次回に続く)
