●本を読んで

 「運命」を跳ね返すことば 坂本博之さん著
  講談社+α新書  838円+税



「してあげる」は捨てる


よく、みなさんから、

「坂本さん、
 ジム経営のかたわらで無償でやってるなんて
 すごいですね。」

とか、

「ボランティアなんてえらいですね」

といった声をかけられます。

もしそのように声をかけてくださった人が読んだら
気を悪くされるかも知れませんが、
正直、あまりうれしくありません。


なぜなら、
僕はボランティアということばが嫌いだから。


もっと言ってしまえば、これが日本語として浸透して
いることが本来の「ボランティア」を難しくさせて
いるような気さえするのです。


無償で何かをしてあげる、助けてあげる、
手を差し伸べる ー 

これらはすべて

「上から目線」


です。
子どもにもよくない。


「自分たちはボランティアをされる立場なのか」


と思うからです。


「坂本さんは仕事が忙しい中、今日はボランティアで
 来てくれました。だから、みなさんちゃんと
 お話しを聞きましょうね。」


なんてふうに子どもたちに紹介されたら、
僕が子どもだったら、


「じゃあ、いいよ。別に頼んだわけじゃないし」


と思う。

つまり、
「ボランティア」という概念自体が

「かわいそうな子どもたち」

を上から見下ろしている
「大人目線」なのです。

「子どもの目線」になっている僕からすると、

「無報酬でそんな活動をしてえらいですね」
 なんて
 言われたら、

「無報酬だからなに?タダでやるのは
 そんなにえらいの?」

 とか思ってしまう。

子どもに拒絶されない「空気」を身にまとう
ためには、まずはこのような「上から目線」を
やめるべきなんです。

(P23より引用ここまで)

------------

坂本博之さんは、福岡の和白青松園という、
児童養護施設出身の元、プロボクサーです。

子どものころ、両親が離婚して兄弟で親戚に
預けられ、親戚から熱湯をかけられたり、
殴る蹴るの暴行を受けて死を悟ったそうです。

ある日、
あまりの暴行に弟が失神して学校が虐待に気づき、
警察に通報し、
和白青松園に保護されて一命を取り留めました。


私はアサヒビールさんの社会貢献のお手伝いを
15年前からお手伝いさせて頂いたご縁で、
この和白青松園に、何度もお邪魔しました。


総勢100名を超える、

「親から虐待を受けたり養育遺棄された」

子ども達が集団生活をしています。


全国には児童養護施設で暮らす子ども達が
3万人以上います。

新聞で親の虐待による悲惨な事件が毎日のように
報道されますが、実際には死の一歩手前で、
警察などに救出される事例も多いのです。

これらは報道されることはありません。



養護施設の子ども達は基本的に大人を信用しません。
自分の親に裏切られ、ウソをつかれ続けているからです。


自身の経験から、
そんな子ども達を応援する活動をしている子ども達に
坂本さんは、



お前達を傷つけたのは大人たちかもしれない。
でも、お前達の疑問や怒りを受け止めてくれるのも
大人たちなんだよ。


とのメッセージを伝え続けています。



今、
施設にいる子ども達の半数以上は、
親の虐待によって心身に傷を負い、
保護されている子ども。

次に多いのが養育放棄。両親が離婚して、
どちらも子どもを引き取らないケースです。


そんな子ども達と一緒に「童心に帰って」
駆け回っていると、
本当に普通の、なんてことない子どもっぽい、
子ども達なのです。


「おじちゃん、かぶと虫とりにいこう。」
「ブランコ行きたい。」
「おしっこ!」


あまりに普通に子どもらしい子ども達と
接していると、
胸がいっぱいになります。

でも、この子ども達にも、
子どもらしいプラスの
エネルギーがたくさん詰まっていて、
そのエネルギーをいっぱい発してくれもするのです。


施設の先生方とも色々なお話しをしました。


話を聴けば聴くほど、今の日本社会のひずみが
子ども達に向かってしまっていると感じます。


子どもは無条件に、
社会の中では大切にされるべきです。


私が何を言ったからといって、
親の替わりができる
訳ではありませんが、
養護施設の子どもであるかどうかに
関係なく、
子どもは社会全体が育てていくべきだと、
坂本さんのこの本を読んで、
想いを新たにしました。


坂本さんの著書は、どんな福祉の専門家が書いた
理論よりも、私たちの胸に熱くささります。


 人生に敗北なんてない
 これが僕の生き様なんだ

と言う、坂本さんの声を聴くと、
自分などまだまだだなあと思わざるを得ません。


私はアサヒビールさんのご縁で、
児童養護施設の存在を
知るに至りましたが、ひとりでも多くの方に、
日頃、社会でほとんど話題にされることにない、
児童養護施設の存在を知って頂ければ幸いです。