東京駅、朝8時。山手線ホームから階段を降りると、右へ左へ人が分散する。中央線へ、東海道線へ、京葉線へ、丸ノ内線へ。人々は、絶妙にくねくね体をかわしながら目的地へ急ぐ。

 

新幹線改札口は、とくだん混み合う。旅行客はもちろん、西へ東へと出張するビジネスマンが最も多い時間帯だ。東海道新幹線は一挙に1300人を輸送可能。それが5分ごとに東京を発車するのだから、ゲルマン民族に引け取らないほどの大移動となる。足早に目的地へ急ぐ日本人を、床に座りこんだ中国人観光客がふ~んといわん顔で見つめる。

 

改札口を入った左手に、スターバックスがある。といってもテイクアウト専用のスタンドで、店舗のようなテーブルソファはない。朝は、車内でコーヒーを一服したい人が、ずらずらと列をなす。10人ほどいるかな。通路まではみ出し、それを見た別の乗客。何の列だろう、あ、スタバか、んじゃ俺も買っていくかと後ろに並ぶ。私もその一人。この列に何度かつられているうちに、私もついつい習慣になってしまった。

 

なお、このスターバックスは、シャバとは違った時間が流れている。

 

ただでさえ殺伐としている通勤時間帯。さらに行列となると、ますます殺気立ってくる。前には10人ほど待っている、腕時計をちらと見れば、発車まであと10分。間に合うかなぁ。早く順番来ないかな。前のおっちゃん、変にこだわったスペシャルラテふらぺちーのなんか頼まんでくれよ。店員のお姉ちゃん、カップにニコちゃんマークで愛想ふりまいて、タイムロスせんでくれよ。とにかく迅速に、サクサクさばいてちょうだいよ。

 

そんなお客(私)の気持ちはつゆ知らず。店員たちは、マイペースにコーヒーを作る。レジに行けば、やわらかなる空気。白鳥のような、ゆったりした客さばき。なでるようにカップを取って、注文をマジックで描き、隣の店員にふわっとパスする。しょーとソイラテでぇ~す、うふ。ここには通勤時間とは無縁の、日曜の午後のような時間が流れる。通勤時間と忘れる。駅の喧騒がしずまる。「余裕」という名のフレーバーが、カップの中にとろりと溶けていく。

 

この空気に触れるとあら不思議。私ったら、何を焦っていたんだろう。コーヒー1杯でカリカリしちゃて。てへぺろ。

 

東京駅のスタバはこんなふうに、心の余裕を、嫌味なく手渡してくれる。なぁ、いい気分。もし店員たちも殺伐としていたら、きっと客たちもイラだちはつのるばかりだ。これはいいペースメーカーだなと、いつも感謝する自分がいた。

 

ホットコーヒー1杯308円。缶コーヒーと比べると倍以上するが、余裕を買ったと考えればじゅうぶんペイするかしら。

 

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今日も出発進行!

東香名子